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ゲノム解析がサンゴ礁を救う

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111004

原文:Nature (2012-07-24) | doi: 10.1038/news.2011.432 | Coral genomes could aid reef conservation

Ewen Callaway

サンゴの全ゲノムが解読され、サンゴ礁の保全に役立つかもしれない。

サンゴの一種Acropora digitifera(コユビミドリイシ)の全ゲノムが沖縄科学技術研究基盤整備機構(OIST;恩納村)の佐藤矩行らにより解読され、その成果がNature 2011年8月18日号に発表された1。少し前には、近縁種 Acropora millepora(ハイマツミドリイシ)の概要配列も、正式な発表に先立ってインターネット上に公開されている。

地球温暖化による海洋の水温や酸性度の上昇などの環境変化は、病気やそのほかのストレスとともに、サンゴの脅威となっている。論文の共著者で、A. milleporaプロジェクトのリーダーでもあるジェームズ・クック大学(オーストラリア・クイーンズランド州タウンズヴィル)のDavid Millerは、サンゴのゲノミクス研究が、必ずしもサンゴを救うわけではないが、環境ストレスに応答する遺伝子を突き止めるのに役立つだろうし、ひいてはサンゴの保全に活用できるかもしれないという。

サンゴは、褐虫藻と呼ばれる藻類と円満な共生関係を築いて生息している。サンゴの色はこの藻類の色だ。ストレスの多い環境条件では、褐虫藻が色素を失ったり死滅したりするため、サンゴは白くなって死滅してしまう(白化現象)。A. digitiferaA. milleporaは、いずれもその影響が大きい。

特別な関係

OISTの研究チームは、A. digitiferaの遺伝子約2万4000個を解析し、アミノ酸の一種システインの生合成に関与するシスタチオニンβシンターゼという酵素の遺伝子がないことに気が付いた。そこで、ほかの2種のAcroporaのDNAとRNAを分析すると、やはり、同じ遺伝子がないようだった。佐藤は、A. digitiferaが褐虫藻と共生するのは、システインを得るためだと考えている。ほかのサンゴ種ではシステインを生合成できるが、Millerによれば、こうした種では別の生化学的経路が失われているために、それぞれの褐虫藻と共生関係を保持しているのではないかという。

A. digitiferaのゲノムには、ほかにも共生関係と符合する特徴がある。免疫関連遺伝子が多数存在しているのだ。その数は、ゲノムが解読済みの最も近縁な種であるイソギンチャク(Nematostella vectensis)をはるかに上回っている。「サンゴはコロニーを形成する共生動物なので、敵と味方を識別する方法がはるかに複雑なものにならざるを得ないのでしょう」とMillerは言う。

佐藤らは、サンゴとイソギンチャクとの最新の共通祖先が約5億年前に存在していたことも明らかにした。これは、現代のサンゴ礁が化石記録に現れる年代を2億6000万年さかのぼる。さらに分析すると、サンゴを紫外線から守って日焼け止めとして働くアミノ酸群を生産しているのは、共生する褐虫藻ではなく、サンゴ自身であることもわかった。

ゲノムがもたらす恩恵

ノースイースタン大学海洋科学センター(米国マサチューセッツ州ナハント)のSteven Vollmerは、「サンゴの参照ゲノムが得られれば、さまざまな可能性が無限に広がります」と言う。Vollmerはすでに、カリブ海のミドリイシの近縁種から遺伝子発現データを収集しており、今回のゲノム配列によって、遺伝子を迅速に同定し、それを褐虫藻から選別することが可能になるだろう。

一方Millerらは、A. milleporaの自然免疫に注目しており、それは脊椎動物と似ていると言う。彼らは、ほかのサンゴや共生する褐虫藻、寄生生物の認識に関与するサンゴ遺伝子の進化も研究している。Millerは、水温と酸性度の高い海洋で一部の集団が生き延びるのに役立つ遺伝子や遺伝子変異を同定することは、保全活動に有用だと考えている。

多くのサンゴ種は水槽で飼育することができる。今回のゲノム配列についてMillerは、「選択的な育種をはじめ、いろいろなことを可能にするでしょう」と期待する。「道のりは長いですが、少なくとも現実味を帯びてきています」。

(翻訳:小林盛方、要約:編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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