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スター・ウォーズのホログラムの実現:新たなる希望?

「助けて、オビ=ワン・ケノービ。あなたがたった1つの希望です」 ― R2-D2が映し出したレイア姫の3D画像が「スター・ウォーズ(1977)」の冒険の始まりだ。これこそ、リアルタイムで動くホログラムであり、長年、研究されてきたものである。このほど、アリゾナ大学(米国トゥーソン)の光学科学者Nasser Peyghambarianらにより、変化するホログラムデータを記憶できる材料が開発され(※ビデオ参照)、SFファンタジーの実現へ一歩近づいた1

「最初から、レイア姫のホログラムのことを考えていました。SFの世界から持ち出せないだろうかと」。Peyghambarianはこう語る。課題は、連続ホログラム画像の符号化データを記憶できる書き換え可能な材料を見つけることだった。

今回のシステムでは、物体を複数の角度から16台のカメラ(それぞれ物体の画像を毎秒撮影する)で撮影する。そして、コンピューターで16方向の画像を処理してホログラフィックピクセルデータにし、信号を2つのパルスレーザービームに送り、データを記録材料に書き込む。書き込み処理中、2つのビームを組み合わせることによって記録材料に明暗の干渉パターンを作り、別の光をパターンに照射して3D画像を再構成する。

電子ドリフト

静止ホログラムでは、干渉パターンによって物理的特性が永久的に変わってしまうため、画像をリフレッシュできない。研究チームは、PATPD/CAANというプラスチックポリマーの組み合わせを用いて、書き換え可能な記録材料を開発した。この共重合体ポリマーにレーザービームを照射すると、ポリマー中の電子などの電荷キャリアがドリフトし、干渉パターンの明暗に相当する場所に集まり、一時的な記録が可能となる。その記憶された画像の上に、次の画像データが上書きされる。こうして、2秒ごとにリフレッシュする3D画像を記録・表示することに成功した。

2008年、研究チームは同様の材料を使って4インチディスプレイを作製しているが、上書きに約4分かかっていた2。今回、ポリマー混合物を改良し、100倍以上速くリフレッシュする17インチディスプレイを開発し、ほぼ「リアルタイム」で変化する画像を作り出した、とPeyghambarianは語っている。

3Dテレビは既に市場に出ているが、2つの視点からしか撮影されない。したがって、奥行き感は出るが、「人物の映像の周りをぐるりと歩いてその人の後頭部を見ることはできません」とPeyghambarianはいう。彼は、この技術によって、エンターテインメントに革命がもたらされるばかりでなく、外科医が手術の3Dライブ映像を見て離れた場所からアドバイスできるようになればと考えている。また、産業応用により、リアルタイムで技術者が3Dモデルを可視化して修正できるようになるかもしれない。

映画が現実に?

しかし、サウサンプトン大学(英国)の光物理学者Rob Easonは、「彼らのホログラフィック映像は、まだ比較的遅く小さいです。また、この技術によって、3Dディスプレイのほかの技術が大幅に進歩するか疑問です」と指摘する。

これに対して、Peyghambarianはこう反論する。「ホログラフィックシステムを大型化すれば、すばらしい解像度が得られるでしょう。我々は、既に、高精細テレビを上回る400μmのホログラフィックピクセルを作製できます」。また、ホログラム映画の記録は原理的にはやさしいはずであり、後で再生することができる、とも付け加えている。研究チームは、現在、リフレッシュ速度を速くして、映画に必要な毎秒30フレームに適合させるよう、また画像の読み書きに必要な電力を減らすよう、研究を進めている。

Peyghambarianは、7~10年以内に、家庭で利用できるようになると考えている。「我々は、レイア姫のホログラムと同程度の大きさと解像度で動くものの作製が現実的であることを示したのです」。あとは、再生用のR2-D2を作るだけである。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110104

原文

Star Wars-style holograms: a new hope?
  • Nature (2010-11-03) | DOI: 10.1038/news.2010.579
  • Zeeya Merali

参考文献

  1. Blanche, P.-A. et al. Nature 468, 80-83 (2010).
  2. Tay, S. et al. Nature 451, 694-698 (2008).
  3. ※参考ビデオ http://nature.asia/3d-holograms