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クローン動物からクローンを作り続けることはできなかった!

Credit: Evgenyi_Eg/iStock/Getty

–– 体細胞クローン研究を始めた経緯を教えてください。

きっかけは、農学部畜産学科で研究室配属になった時に、卒業論文が受精の研究だったことにあります。テーマは、牛や豚などの家畜の増産に役立つ受精のメカニズム、精子や卵子の保存、人工授精などでした。博士号取得後は、受精領域の研究で世界をけん引していたハワイ大学(米国)の柳町隆造(やなぎまち・りゅうぞう)先生のラボに在籍しました。ただし、ハワイ大学には農学部がなかったので、家畜ではなくマウスを対象にしました。実は当時から体細胞クローンに興味がありましたが、教科書に「哺乳類のクローン作出は不可能」と書いてあったことを信じてしまい、手を出しませんでした。

ところが、1997年に、世界初の体細胞クローン動物である羊のドリーが誕生したことが発表され1、そのニュースが世界を駆け巡りました。私は大きなショックを受けました。既にクローンを作るために必要なマイクロマニピュレーターの操作方法を習得しており、私にもできたはずだったからです。実は、ボスの柳町先生は受精の対極にあるクローン研究が好きではありませんでしたが、私はすぐにWilmutらによる、このNatureの論文1を読み、マウスの体細胞クローン研究に着手しました。研究は順調に進み、翌年の1998年にキュムリーナ(ドナー細胞が卵丘〔キュムルス〕細胞であることに由来)と名付けたマウスの体細胞クローンを作ることに成功しました2

–– 体細胞クローンマウスの作出に、わずか1年で成功できた理由は何ですか?

当時のクローン研究は、核移植が比較的容易なヒツジやウシなどの大型動物が主流で、卵子が極めて繊細で壊れやすいマウスは避けられていました。ところが私が留学した前年に柳町先生らが独自に「マウスの卵子にダメージを与えずに精子を注入する技術」を確立しており、それがマウスの核移植に使えたことが大きかったと思います。

その後は、実験が容易なマウスを用いてさまざまなクローン研究が行われ、「どのような動物種や、どのような体細胞を用いても、クローンが誕生する確率は、わずか数%に過ぎない」と分かり、鍵となる体細胞の初期化研究も進みました。例えば、エピジェネティック機構の解明、初期化されにくい遺伝子の同定、生まれたクローンのエピジェネティック異常、そのエピジェネティック異常を正常化する薬剤の開発などです。これらにより、成功率はわずかずつですが上昇していきました。

–– 再クローニングの研究も当時から行っていたのでしょうか?

はい、キュムリーナを作ることに成功してからすぐに開始したのですが、その時はまだ体細胞クローンを作る技術が安定せず、6世代目で途絶えてしまいました3。その後、技術改良が進んで安定してきたので、2005年より、再度、再クローニングに挑戦しました。1匹のマウスの体細胞からクローンを作り、得られたクローンから次世代のクローンを作り、ということを繰り返すとどうなるかという「面白過ぎる疑問」を検証したかったのです。同時に、マイクロマニピュレーターの繊細な作業が大好きだったというのもありますね。どこまで再クローニングを続けられるのか、やれるだけやったところ、「20年後の58世代目で限界を迎えた」というのが今回の研究成果です4

図1 再クローニングの手法
最初に1匹の雌マウスをドナーとして選び、体細胞を採取した。この細胞から核移植技術によりクローンマウスを作出し、これを第一世代とした。約3カ月後、成体に成長したクローンマウスから卵丘細胞を取り出して再クローニングを行い、第二世代の再クローンマウスを作出。以降同様に再クローニングを繰り返し、再クローンマウスの限界を調べた。Ref. 3

–– 実験操作と解析の流れを、時系列で教えてください。

まず、遺伝的背景のやや異なる雌のマウスを4匹選び、それぞれから第一世代の体細胞クローンを作りました。なぜ雌を選んだのかというと、核移植をするためには卵子と体細胞が必要ですが、卵子を採取すると、卵子の保護や成熟に関与する卵丘細胞という体細胞も同時に手に入るからです。雄の線維芽細胞でやるのも可能ですが、尾を切って細胞を採取して1〜2週間ほど培養する必要があり、非常に手間と時間がかかります。

選んだ4匹は遺伝的背景が異なるために、第一世代のクローン成功率は、それぞれ異なると考えました。推測していた通り、最高が約7%、最低が約2%と成功率には差がありました。そこで、最も成功率の高かった個体と、最も低かった個体とで再クローニングを試みました。ところが、成功率の低かった方は再クローニングの成功率も低過ぎて続けることが大変だったため、成功率が最も高かった個体の方だけで再クローニングを続けることにしました。

クローンの作出方法は、次の通りです。クローンマウスが3カ月齢まで発育したらホルモン処理を行って排卵させ、回収した卵丘細胞をドナー細胞として利用します。卵子は別のマウスから採取し、あらかじめ核を取り除いておきます。それらの除核卵子へクローンマウスの卵丘細胞の核を移植し、初期化を促すためにヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(HDAC阻害薬)と、卵子を単為発生させる薬などを加えます。このようにして再構築したクローン胚を100〜200個作り、偽妊娠させた7〜8匹のレシピエントマウスの卵管に1個体当たり約20個ずつ移植します。妊娠19.5日目に帝王切開を行い、生まれたクローン産仔は里親マウスに育ててもらいます。

これを各世代で、平均3回ずつ繰り返しました。ただし、1回で多くの次世代ができた世代もある一方で、流産、里親マウスの子育ての失敗などの理由で、10回近く繰り返した世代もありました。全体の傾向としては、研究開始から約10年は、平均的な妊娠の成功率が右肩上がりでした。その理由について私たちは、「クローンの体にはごくわずかだが『クローンになりやすい細胞』があり、それを偶然選んだときだけクローンが生まれる、そして、その細胞の割合は再クローニングを繰り返す選択圧によって高くなる」と考えました。ところが、成功率の上昇は26世代目でピークとなり、後半の約10年は、上昇のペースと同じペースで下降し続けました。

図2 26代目の再クローンマウス
外見に異常は見られず、健康に育った。胎盤の巨大化というクローン特有のエピジェネティック異常は見られるが、その異常は世代が進んでも悪化しなかった。通常の3倍高い突然変異の蓄積は続いていたが、ほとんどがヘテロの変異だったため外見に表れていないだけだった。 Credit: Teruhiko Wakayama

最後となる58世代目は、生まれた翌日には里親マウスに全て食べられてしまいました。仕方なく、1200個以上の卵子を使って繰り返し挑戦しましたが、得られた計5匹の再クローンは帝王切開の翌日に死んでしまいました。やがて57世代目の再クローンマウスが尽きてしまい、58世代目で終了となりました。

–– 27世代目以降、成功率が下がり続けた理由は何だったのでしょうか?

突然変異の蓄積でした。私たちは6世代目から57世代目までのいくつかの世代で、計10個体の全ゲノム解析を行いました。その結果、まず、合計で3700個の一塩基変異(SNV)が特定されました。平均するとクローンマウスは1世代当たり69.4個のSNVが増える計算で、これは有性生殖で生まれる普通のマウスの3倍になります。そして、その変異の全てが次世代に遺伝します。変異が1塩基だけであっても、それがヘテロなら機能に影響しませんが、世代を経るうちにホモになると機能異常に結び付くことが推測されます。

40キロ塩基対(kb)以上の大きな構造変異についても調べ、25世代目以降45世代目までで多く、X染色体の喪失や染色体転座(7番染色体-9番染色体間など)が観察されました。このような構造変異は次世代の成功率に大きく影響したと推測できます。

一方で、クローンに特有のエピジェネティックな異常は、どの世代でも同程度であり、世代を経ても蓄積しませんでした。再クローンマウスは「58世代目以外」は健康だったので、おそらく「エピジェネティック異常が深刻だったクローン胚は流産しており、異常の少ない再クローンマウスだけが生まれた」と言えるのだと思います。

ここまでをまとめると、26世代目までは、大きな構造変異が少なく、SNVが起きてもヘテロであったため、「クローンになりやすい細胞」の選択圧効果により成功率が上がり続けたと考えられます。ところが、27世代目以降は、選択圧よりも変異による影響の方が大きくなり、成功率が低下し始めたと言えます。

図3 世代別の再クローニング成功率
再クローンマウスの成功率は、世代ごとにばらつきが大きいものの、第1世代の7.4%から徐々に高くなり、26世代目には15.5%に達した。ところが、この世代以降、クローンの出産成績は徐々に低下しはじめ、58世代目の成功率は0.6%まで低下した。生まれた58世代目の再クローンマウスは翌日死亡してしまい、この世代が最後となった。 Ref. 3

–– 今回の結果から、哺乳類の生殖について何が分かったのでしょうか?

生まれた再クローンマウスは世代に関係なく、体重、形質、寿命などに異常はありませんでした。また、生殖機能も正常で、再クローンマウスを正常な雄と交配すると、正常に妊娠し出産できます。ただし、再クローンの世代が進むと、1回の交配、出産で生まれてくる仔マウスの数が、通常は10匹程度のところ、わずか2〜3匹にまで減ってしまいました。面白いことに、この仔マウスたちを交配すると、1回の出産で生まれてくる孫マウスの数は元に戻りました。

一連の結果から強く言えるのは、次の2点です。第一に、体細胞クローンによる無性生殖は20年程度繰り返すと、最終的に遺伝子変異の蓄積によって破滅を迎え途絶えてしまいますが、有性生殖を混ぜると継続できるということです。逆説的に言えば、有性生殖はクローン生殖で生じる有害な変異を取り除くために必須のシステムだったことになります。体細胞クローンは親(ドナー)の遺伝子を100%引き継ぎますが、有性生殖なら親の半分の遺伝子しか引き継ぎません。重篤な変異が遺伝した仔マウスは流産してしまうので、生まれてきた仔マウスは、それらの変異が取り除かれた個体なのです。

第二に、これらの再クローンマウスは、20年間も有性生殖の機能を利用せず世代を重ね、通常の3倍にもなる突然変異の危険にさらされ続けたのにもかかわらず、有性生殖に関する遺伝子には突然変異が生じなかったことです。つまり、「哺乳類の有性生殖システムは突然変異から非常に強く保護されている」と言えると思います。

ドリーの誕生以来、クローン技術は畜産分野や絶滅危惧種保護への応用が模索されてきましたが、今回の成果は、哺乳類が生き延びていくには有性生殖が欠かせないという「進化論の原点」を再認識させるものとなりました。とはいえ、この壁を越えるべく、今後も「より完璧なクローン」を作り出すための研究が進むと思われます。

–– 成功の鍵と今後の展望をお聞かせください。

成功の鍵はありません。20年間、一切やり方を変えずに、同じことを繰り返してきたことによる結果です。共同研究者である妻の功績も大きかったと考えています。

今後については、私たちのマウスでの研究を「ウシを対象にする研究者」に応用してもらい、「おいしい和牛」のクローン作出を実現してもらうのが夢の1つです。ウシの肉質は複雑で、おいしい肉質だった親の仔がおいしいとは限りません。クローン技術で「必ず、おいしい肉質のウシを作り出す」というのは畜産農家にとっても大きな夢なのです。

また、絶滅種や絶滅危惧種を救うための研究では、16年間も凍結させていたマウスの死体からクローンを作ること5や、尿由来の細胞からクローンを作ること6にも成功しています。現在は、糞便由来細胞からクローンマウスを作るための技術開発を進めているところです。

–– ありがとうございました。

聞き手は西村尚子(サイエンスライター)

著者紹介

若山 照彦(わかやま・てるひこ)

山梨大学 発生工学研究センター センター長

1990年 茨城大学農学部卒業。1996年 東京大学大学院 農学系研究科にて博士(農学)を取得。学振PDでハワイ大学(米国)医学部の柳町研究室に留学し、留学中にマウスの体細胞クローンの作出に成功。論文がNatureに掲載され、同大学助教授に着任。その後、ロックフェラー大学(米国)助教授、米国のベンチャー企業の主任研究員、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターのチームリーダーを経て、2012年から現職。精子の凍結乾燥保存の研究も行っており、クローン技術と合わせて、動物の遺伝資源の永久保存を現在のテーマとする。さらに、地球に大災害があっても遺伝資源を安全に保存するために、月の地下で遺伝資源を永久保存することを目指し、国際宇宙ステーションで精子を宇宙放射線に被曝させる実験なども行っている。

Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2026.260751

参考文献

  1. Wilmut, I. et al. Nature 385, 810–813 (1997).
  2. Wakayama, T. et al. Nature 394, 369–374 (1998).
  3. Wakayama, T. et al. Nature 407, 318–319 (2000).
  4. Wakayama, S. et al. Nature Commun. 17, 2495 (2026).
  5. Wakayama, S. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 105, 17318–17322 (2008).
  6. Mizutani, E. et al. Sci. Rep. 6, 23808 (2016).