ミクログリアがシナプスを食べる瞬間を可視化する
Credit: Nathan Devery/iStock/Getty
–– 研究者になったきっかけは?
友人とよく遊び、自由で伸び伸びした高校生活を送ってきたので、大学に入ってからは一転、勉強に夢中になりました。研究者になったきっかけの1つは、実験をするのが楽しくてしょうがなかったから。小学生の時から図画工作が大好きだったのですが、研究者になれば、毎日が図工の時間のよう。こんな楽しいことはないと思いました(笑)。
–– グリア細胞に興味を持ったのはいつ頃ですか?
2001年に薬学研究科の大学院に入り、ニューロンの回路がどのように作られるかについて研究しました。ミクログリアは、脳内で免疫の働きをしていることが知られていましたが、一般的にはあまり注目されていませんでした。
私が修士2年の時に金髪頭で薬理学会のポスター発表をしたら、生理学研究所の田中謙二(たなか・けんじ)先生(当時 助手、現在 慶應義塾大学教授)に話しかけられました。「君、格好つけているけど、生理学研究所の神経科学の研究者の前で発表できる?」。私はプレゼンテーションをしたり質問に答えたりするのが好きだったので喜んで行きました。田中先生の所属する研究室はグリアを専門に研究していました。何度も生理研に顔を出すうちに、未知の部分が多いグリアに興味を持つようになりました。ニューロンを包み込むグリアの電子顕微鏡写真の迫力は、今でも覚えています。
生理研が実施する生理科学実験技術トレーニングコースにも複数回参加し、分子生物学的実験技術を習得しました。この時の友人たちとは今でも交流が続いています。
–– グリアの研究は米国でスタートされたのですね。
助教となっていた私は2008年、田中先生に誘われて、コールド・スプリング・ハーバー研究所(米国)で開かれたグリア会議に出席しました。留学先を探していたこともあり、グリア研究の第一人者Ben Barres(ベン・バレス)博士(スタンフォード大学〔米国〕)に話しかけたところ、Beth Stevens(ベス・スティーブンス)博士を推薦されました。彼女はハーバード大学(米国)でちょうど独立するところだとのこと。グリア会議のダンスパーティー会場で彼女を見つけたので自己紹介。相性が良いと感じ、2010年からベスの研究室に行くことにしました。ベテランが主宰する研究室の方がボスの力で論文を出しやすいと周囲からは助言されましたが、私は自分が研究室を立ち上げるときの参考にしたいので、若いボスの所に喜んで行きました。
–– ベス研究室でどんな研究を?
健康なヒトやマウスでは、脳の発達期にシナプスの数が減少する「シナプス刈り込み」が起こります。ニューロンとニューロンを接続する構造であるシナプスは、生後に数が大きく増えますが、やがて一部が除去され、残ったシナプスが大人の脳を形成するようになります。ベス研究室は、ミクログリアがシナプスを「食べる(貪食する)」ことにより、シナプス刈り込みが起こることを発見しました1。ほぼ同時期に、欧州分子生物学研究所のRosa Chiara Paolicelliらはミクログリアがシナプスを貪食する現象を組織染色によって明らかにしました2。ベス研究室はさらに、その分子機構として補体分子C1qの関与を明らかにしました。両論文は同時期に発表された相補的な研究であり、現在の被引用数はどちらも高いものとなっています。これらの研究によって、ミクログリアがニューロンの回路の成熟に直接関与していることが示され、世界のミクログリア研究の人気に一気に火が付いたと感じました。
特にベスらによるシナプス貪食へのC1qの関与の発見は、シナプス貪食研究の活性化に大きな役割を果たしました。相関関係の発見だけでなく、関与する分子を見つけることは分野の展開に重要だと考えています。私自身は、ベス研究室の論文1の共著者で、シナプス貪食を捉えるための組織染色系の構築やイメージング解析に関与しました。
ライブイメージングにこだわる
–– 日本に戻ってミクログリアの研究を続けたのですね。
楽しい3年間を過ごした後、帰国し、元の研究室でミクログリアを中心に研究してきました。その間、シナプスを「食べる」という現象をより厳密に定義するためには、静止画像ではなく、生きた細胞をライブイメージングで撮影することが必要だとずっと考えてきました。「食べる」といっても、ミクログリアが能動的にシナプスを貪食するのか、あるいは死んだシナプスの残骸の回収なのか、また、機能的なシナプスのマーカーは何なのか、そもそもシナプスはどのような仕組みで食べられるのかなどの疑問に正確に答えるためには、ライブイメージングによる解析が重要だと思ったのです。
しかし、そのために必要なミクログリアの細胞培養技術が確立できず、ライブイメージングになかなか進めませんでした。当時、ミクログリアを培養すると、その突起がほとんど失われてしまうという問題がありました。
–– ミクログリアにとって突起は重要なのですか?
ミクログリアにとって突起は重要です。脳内でミクログリアは、突起を絶えず動かしながら周囲を探索しているように見えます。そしてニューロンの細かい所にまで入っていって、シナプスを食べるのです。
私の研究室の安藤めぐみさんが実験を担当し、数年間の試行錯誤を重ねた結果、ついに十分な数の突起を保持したミクログリアの培養に成功しました。たくさんの突起が動いているミクログリアを顕微鏡で確認した時には感動しました。鍵となったのは、ミクログリア単独ではなく、アストロサイトやニューロンといった他の細胞と共培養することでした。
–– 培養ミクログリアでいよいよライブイメージングですね。
ミクログリア、シナプス、ニューロンの3つを別々の蛍光色で光らせる工夫も、結構大変で時間を要しました。これらをやり遂げ、ライブイメージングで確認しながら、「食べる」現象を詳細に解析することができました(図1)。解析結果をまとめると次のようになります。
図1 ミクログリアはシナプスを貪食する
培養したミクログリアの顕微鏡写真(上)。ミクログリア(緑)、シナプスのシナプトフィジン(赤紫)、ニューロンの軸索(青色)。下は、シナプスが食べられるライブイメージングからのスナップショット。シナプトフィジンがミクログリアに取り込まれていくのが分かる。REF. 3
シナプスは、前シナプスと後シナプスで構成されていますが、我々の実験系では、ミクログリアが食べるのは主に前シナプスでした。機能的シナプスを特異的に示すマーカーとして、シナプス小胞の膜に含まれるシナプトフィジンを蛍光標識したところ、これが生きているニューロンの軸索からミクログリアに取り込まれていくのを確認できました。死んだシナプスの回収ではないことが分かります。そしてこの「食べる」という現象は、局所アポトーシスに基づく過程であることを明らかにしました。
–– 局所アポトーシスとはどんな過程ですか?
アポトーシスは細胞死です。局所アポトーシスは細胞の一部分だけが失われます。軸索の連続性は保たれたまま、シナプスのみが貪食されます。証明に当たっては、三浦正幸(みうら・まさゆき)先生(当時 東京大学教授、現在 基礎生物学研究所所長)の研究室が開発した局所アポトーシスのライブイメージング技術を使わせてもらいました。
ミクログリアがシナプスを貪食するときに補体分子C1qが必須なのは以前の研究で分かっていましたが、C1qは脳全体に分布しています。ミクログリアが食べるシナプス部分だけにC1qが結合するのはどうしてなのか。その答えは、局所アポトーシスで活性化される酵素カスパーゼ3でした。シナプス前細胞でカスパーゼ3が活性化されると、C1qがそこに結合することが分かりました(図2)。
図2 局所アポトーシスを介したミクログリアによる前シナプス除去機構
抑制性ニューロンでは、軸索の途中に前シナプスが形成されることが多い。ニューロンの活動が上昇すると(下方のニューロン)、前シナプスでカスパーゼ3の活性化とC1qの集積が起こる。それを認識したミクログリアが、軸索を切断することなく、前シナプスを部分的に取り込んで除去する。 Credit: 小山隆太
–– シナプスを食べられた後、ニューロンはどうなるのですか?
その部分のニューロンの接続が消えるので、そのニューロンが伝える神経情報が弱まります。私たちはそのことを小児の熱性けいれんモデルマウスで示しました。小児が高熱になると、神経細胞の過剰な興奮によるけいれんを起こしやすいことが知られています。今回、マウスに高熱を誘導すると、脳の海馬歯状回で抑制性の信号を伝えるニューロンのシナプス前細胞にC1qが集積し、これらのシナプスがミクログリアにより除去され、相対的に興奮性信号が高まることを突き止めました。これらライブイメージングによる研究の成果は2025年にNature Communicationsに発表できました3。
研究者には粘り強さと継続力が必要
–– ライブイメージングにはどんな顕微鏡を使いましたか?
細胞へのレーザー光のダメージが少なく、かつ高解像度のスピニングディスク共焦点顕微鏡が必要でした。2018年に獲得した「さきがけ」研究費で、この顕微鏡を購入できました。
「Seeing is believing(百聞は一見にしかず)」は私の研究哲学の1つであり、まず無心で見る(観察する)ことが研究の第一歩だと思います。顕微鏡の性能はもちろん大切ですが、研究費がないときには、ないなりに方法を模索してきました。2008年ごろのこと、脳の顆粒細胞が移動する過程を見たくて、3日間徹夜して1時間に1回写真を撮り続けたことがありました4。インキュベーションができない顕微鏡だったため、3つのスライドを順次インキュベーターから出して顕微鏡下に置いたので、72時間ほぼ徹夜。これはちょっと無理し過ぎで、人には勧められないですけど(笑)。
–– 若い人の指導で大切にしていることは?
研究者には、粘り強さや継続力が必要だと思います。東京大学の研究室時代には、大勢の若い人を指導してきました。学会発表で厳しい質問を受けて戸惑い、自信を失ってしまう人もいました。自分が真面目に取り組んでいるのであれば、そうした反応に過度に左右される必要はありません。大切なのは、高いモチベーションを持って続けていくことだと考えています。
先ほどの「さきがけ」ですが、私はそれまで何度も応募して、不採択が続いていました。応募した研究費が採択されなかった時も、論文の査読者に膨大な数の見直しをきつい言葉で要求されたり、それで落とされたりした時にも、研究を続けてきました。そうした経験は振り返ると、研究の考え方や伝え方を見直すきっかけになり、次につながる重要なプロセスだったと感じています。だからこそ、モチベーションを保って続けることが重要だと思います。ただ、一生懸命努力している学生たちの論文が落とされるのはつらかったですけどね。
–– ご自身の研究室を立ち上げられました。
2024年に国立精神・神経医療研究センターで自分の研究室を立ち上げました。ここでは、病院との共同研究で患者さんの検体を使用させていただく機会も多く、臨床応用の可能性が広がることに期待しています。
私の研究室では、議論するときは上下の区別なく平等で、遠慮なく意見を言い合います。自然の前では平等であり、実験をして正確な情報を出すことが何よりも大事です。自分の立てた仮説が間違っていることが実験してみて分かった場合でも、ネガティブデータとして意味があると思います。科学はそうした積み重ねで前に進んでいるのですから。
ミクログリアを標的にした薬で病気を治す
–– 世界のミクログリア研究はどのように進んでいますか?
ミクログリアの遺伝子発現解析が大きく流行し、脳内のミクログリアにはかなりの不均一性があることが分かってきました。現在は、機能を詳細に調べる研究が再び活性化しています。これまではニューロンばかりが注目されてきた脳機能の研究ですが、ミクログリアがないと脳の正常な機能が発揮されないことが詳細に分かりつつあります。
病気との関連もいろいろ見つかっています。私もこれまで、ミクログリアによる発達期シナプス刈り込みの減少が自閉スペクトラム症の一原因であり、それが運動で改善することなどを解明してきました5。また、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβをミクログリアが貪食するといったことが報告されており、ミクログリアを操作してアミロイドβの貪食を促進させる方法を私も模索しています。
てんかんについては、一歩進めて治療薬の開発に乗り出しています。これまでのてんかんの治療薬は主にニューロンに作用してきましたが、こうした薬が効かない患者さんもいます。グリアに作用する薬ならば、効く可能性があるのではないかと期待し、開発を進めています。
–– ありがとうございました。
聞き手は藤川良子(サイエンスライター)
著者紹介
小山 隆太(こやま・りゅうた)
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部部長
2006 年 東京大学大学院薬学系研究科 博士課程(博士)。2006 年 同研究科助教。2010〜2013年 ハーバード大学/ボストン小児病院(米国) ベス・スティーブンス研究室 博士研究員。2015年 東京大学大学院薬学系研究科 准教授。2024年より現職。東京大学の研究室の先輩であり、その後のボスである池谷裕二(いけがや・ゆうじ)先生を尊敬する師と仰ぐ。
Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 6
DOI: 10.1038/ndigest.2026.260643
参考文献
- Schafer, D. P. et al. Neuron 74, 691–705 (2012).
- Paolicelli, R. C. et al. Science 333, 1456–1458 (2011).
- Andoh, M. et al. Nature Commun. 16, 918 (2025).
- Koyama, R. et al. Nature Med. 18, 1271–1278 (2012).
- Andoh, M. et al. Cell Reports 27, 2817–2825.e5 (2019).
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