甘利俊一氏、アジム・スラーニ氏、キャロル・ギリガン氏に京都賞
左から甘利俊一氏、アジム・スラーニ氏、キャロル・ギリガン氏。 Credit: 公益財団法人 稲盛財団
公益財団法人 稲盛財団(京都市)は2025年6月20日、京都賞の受賞者を発表した。2025年は、先端技術部門(情報科学)で人工知能(AI)理論を切り拓き、情報幾何学という新たな学問分野を確立した甘利俊一(あまり・しゅんいち)氏、基礎科学部門(生命科学及び医学)でゲノムインプリンティングを発見してその分子機構を解明したアジム・スラーニ(Azim Surani)氏、思想・芸術部門(思想・倫理)では「ケアの倫理」を提唱したキャロル・ギリガン(Carol Gilligan)氏の3氏に贈られる。
帝京大学特任教授・理化学研究所栄誉研究員の甘利俊一氏は、人工ニューラルネットワークと機械学習の基礎理論、そして統計モデルの幾何学的解析で国際的な評価を受けてきた。甘利氏は、データから学習し、適応的に分類を行うメカニズムを理論的に整理し、機械学習における基礎的な枠組みを確立したのみならず、自己組織化ネットワークを用いたパターン認識と時系列パターン学習についての研究を推進してきた。また、脳の情報処理や記憶形成など幅広い分野へも貢献している。
特に注目すべきは、1980年代から展開した「情報幾何学」の確立だ。情報幾何学は、統計モデルや確率分布を幾何学的な観点から解析する新たな理論体系である。情報幾何学はその後、最適化理論、量子情報、機械学習やAIの基盤技術として世界的に広まり、深層学習やベイズ推論の効率化、ブラインド信号源分離など多様な応用を生んでいる。現在も甘利氏は最先端研究をけん引し続け、理論と応用の両面で現代AIの進化を支えている。
ガードン研究所(英国)のアジム・スラーニ氏は、哺乳類における「ゲノムインプリンティング」の発見とその分子機構解明で生命科学に革命をもたらした。従来の遺伝学では、ゲノム上の各遺伝子は、父親由来と母親由来の1対の対立遺伝子として存在しているが、基本的なメンデル遺伝学では、ある遺伝子が父方、母方どちらの対立遺伝子であろうとその機能は相同とされてきた。しかし、スラーニ氏は哺乳類では雄性および雌性生殖細胞の発生過程で、それぞれのゲノムが異なる「刷り込み」を受けており、それらのゲノムが、胚発生において相補的な機能を担うことを証明し、これまでの遺伝学の常識を覆した。
ニューヨーク大学(米国)のキャロル・ギリガン氏は、従来の倫理学では、男性は「自律」を理想としがちで、女性が自分の権利を主張することは利己的と見なされ、無私であることが理想とされることを批判し、他者との関係性や配慮を重視する「ケアの倫理」を打ち出した心理学者である。「正義の倫理」が普遍的な原則や権利を重視するのに対し、「ケアの倫理」は個々の関係や当事者性を重視し、より柔軟で共感的な解決策を模索する姿勢に光を当てた。
京都賞は、京セラ株式会社の創業者である稲盛和夫(いなもり・かずお)氏が設立した稲盛財団により、1984年に創設された。「単なる発明・発見だけでなく、道を究めるために人一倍の努力をし、その業績が長く人類・社会に多大な貢献をもたらした点を審査し顕彰する」という理念に基づいている。
(編集部)
Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2025.250841
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