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ホヤで脊椎動物の「頭」の起源を発見

Credit: De Agostini Picture Library/Contributor/De Agostini/Getty

–– ホヤで発生進化の研究を続けられている動機とは?

最大の動機は、幼い頃からヒトを含め、動物の進化に興味があった点にあると思っています。子ども時代には恐竜や昆虫が好きでしたが、大学に入ってから系統進化や個体発生に関する専門書を読み、大学院でホヤ研究の第一人者である京都大学の佐藤矩行(さとう・のりゆき)先生の研究室に入ったことでホヤを用いた発生学研究を始めました。最初は筋肉の遺伝子を対象に転写調節などについて解析していましたが、次第に眼、脳、神経へと興味が移って研究を行っていたところ、今回の論文の共同責任著者であるプリンストン大学(米国)のMichael Levine教授と共同研究することになり、大きな成果を得るに至りました1

–– ホヤをモデルにする利点とは?

海に広く生息するホヤは尾索動物に分類され、約2000種が知られています。尾索動物と脊椎動物は同じ脊索動物門に属し、両者は共通祖先から5億年以上前に分かれたと考えられています。脊索とは背側の中央に沿って延びる棒状の構造で、ホヤでは幼生期にのみ見られ、脊椎動物では発生途中で脊椎に置き換わります。

ホヤの幼生は体長1 mmほどのオタマジャクシのような形をしており、頭蓋、顔、顎、心臓、消化管などはありませんが、尾部に脊索、背側神経管、腹側内胚葉、横紋筋を持つなど、ある程度、脊椎動物に似た特徴を持ちます。幼生は数時間から18時間、泳ぎ回った後に岩などに固着し、U字型の成体へと変態します。脊索、神経、尾部の大半はなくなり、咽頭・消化管・心臓・入出水口などが発達し、一生を濾(ろ)過摂食者として過ごします。成体は雌雄同体で同一個体が卵と精子を放出しますが、自家受精はせず他家受精で次世代を作り出します。

ホヤは脊椎動物と最も近縁の脊索動物ですが、両者は大きく異なります。そのため、研究者は「脊椎動物のみが持つ構造や機能」がどのようにして獲得されたのかを、脊椎動物に似ている形質を持つホヤの幼生を用いて検討しています。ホヤは、実験室で人工授精させることができ、受精後はわずか24時間で幼生になります。しかも、幼生の細胞系譜が詳しく明らかになっているために、細胞レベルの研究がしやすいといえます。

–– 今回は頭部の起源解明につながる研究に取り組まれました。

私たちは、脳と、鼻・目・耳などの感覚器、発達した顎からなる頭部を持ち、頭部に大きく依存してさまざまな活動を行っています。このような頭部は脊椎動物に特有なもので、ホヤにはありません。今回の研究は、このような頭部を作り出すための元となる組織が、ホヤにもあるのかどうかを突き止めようと行ったものです。

図1 ホヤ胚のa9.49細胞の発生運命の追跡実験
a 胚の神経板をKaedeで標識し、左右のa9.49細胞(*)にレーザー光を照射してKaedeの蛍光を緑から赤に変換した。
b 変換後幼生まで発生させたところ、a9.49の子孫はメラニン色素細胞とグリア細胞に分化した。
c a9.49由来グリア細胞を変態後も追跡したところ、成体脳の神経前駆細胞になった。 Credit: Takehiro Kusakabe

脊椎動物の初期胚において、脳と脊髄は神経板から、それ以外の頭部組織(頭蓋骨、顎、感覚器、脳下垂体、脳神経など)は、神経板の外側に位置する神経堤とプラコードから発生します。従来は、脊椎動物以外の胚には神経堤とプラコードは存在しないというのが定説でしたが、私たちはLevine教授らとの共同研究により、2015年にホヤ胚にも原始的なプラコードが存在することを明らかにしました2

一方の神経堤については、Levine教授らが2012年に「ホヤ胚の特定部位の細胞が原始的な神経堤に相当する」と報告したのですが3、異論も多く、決着がついていませんでした。神経堤の細胞には多分化能と遊走性が見られますが、これらの点を明確に示すことができなかったのです。Levine教授らが神経堤だと結論付けたのは、細胞系譜の番号によりa9.49細胞と呼ばれるものです。このa9.49細胞は、神経板の一番外側にあり、メラニン色素細胞に分化するという点が脊椎動物の神経堤と共通で、発生プログラムもよく似ていました。しかし、メラニン色素細胞以外の細胞にも分化するのか、遊走性があるのか、分かっていなかったのです。つまり、a9.49細胞の子孫はメラニン色素細胞以外に、どのような細胞に分化するのか、体のどこに移動するのかについて突き止める課題が残されていたわけですが、私たちには、受精卵(胚)中の「特定の1つ」の細胞だけを狙って蛍光標識し、時系列を追って、その後の挙動を追える技術がありました。そのため、Levine教授より共同研究依頼があり、今回は一緒に解析することになったのです。

–– a9.49細胞の挙動を同定した方法とは?

私たちの技術とは、透明な殻に包まれたホヤの受精卵に顕微授精のようにして遺伝子などを挿入し、特定の狙った細胞の核だけを蛍光で標識して追跡するというものです。今回の論文の共同筆頭著者である大沼耕平(おおぬま・こうへい)さん(現・島根大学生物資源科学部 助教)が中心になって開発した技術です。この技術には、「特定の波長のレーザーを当てることで、不可逆的に蛍光色を変えられる光変換性蛍光タンパク質」を利用します。光変換性蛍光タンパク質の例には、理化学研究所の宮脇敦史(みやわき・あつし)先生のグループが開発したサンゴ由来のKaedeが有名です。Kaedeは本来、緑色の蛍光を発します。ところが、405 nmのレーザーを照射すると、色素分子が不可逆的な構造変化を起こし、その後は赤色の蛍光を発するようになります。カエデが紅葉していく時のように、緑色の一部を紅葉した色に変えることができるわけです。私たちは、細胞核に局在するように細工したKaedeを使うことで、特定の1つの細胞だけを赤色蛍光で標識し、追跡する技術も開発しました4

一連の研究は、カタユウレイボヤの胚を用いて行いました。まず、Kaedeの遺伝子が神経板だけで発現するように制御した人工DNAを受精卵に導入し、ホヤ胚(受精後6.5時間)の神経板細胞でKaedeタンパク質を作らせ、細胞核を緑色の蛍光で標識しました。次に、神経板の左端と右端に位置するa9.49細胞にだけレーザー光を照射し、蛍光を緑から赤に変換しました。光変換の操作後、幼生まで発生させて観察を続けたところ、a9.49細胞の子孫がメラニン色素細胞とグリア細胞に分化すると分かりました。グリア細胞であることは、Levine教授らが網羅的な単一細胞トランスクリプトーム解析で明らかにしたHh2Slc23a1という2つの遺伝子の発現を指標に確認しました。グリア細胞については、幼生が変態して幼若体(成体と同じ形態の幼若個体)になるまで追跡し、一部が成体脳の神経前駆細胞になることも突き止めました。

さらに、a9.49細胞の遊走性を検証する目的で、Kaedeと同じような光変換性蛍光タンパク質であるDendra2を用いた解析も行いました。こちらも、神経板の細胞をDendra2で標識し、左右に位置するa9.49細胞の娘細胞(a10.97細胞)だけを光変換し、発生過程を追跡したのです。その結果、光変換で赤色になった細胞の一部が神経管の背側の中軸から腹側の領域に移動していくことが明らかになりました。この様子は脊椎動物の胚において、神経堤細胞が神経管を離れて移動する過程に類似しています。

–– 一連の結果から示されたこととは?

神経堤の候補細胞であるa9.49細胞は、メラニン色素細胞とグリア細胞へと分化し、グリア細胞は成体へと変態した後に神経前駆細胞になると分かりました。このことは、a9.49細胞に分化多能性があることを強く示しています。また、a9.49細胞子孫の一部であるグリア細胞が神経管の背側から腹側へと移動していたことから、a9.49細胞には遊走性があることも明らかになりました。以上の点から、私たちはa9.49細胞が原始的な神経堤細胞であると結論付けました。

図2 神経堤の起源と脊椎動物の頭部の進化の新しい考え
脊椎動物とホヤの共通の祖先には、原始的な神経堤が存在した。この原始的な神経堤は多分化能と遊走性を備えていたが、その分化多能性と移動する能力は限られていた。このような共通祖先がホヤの系統と脊椎動物の祖先に別れた後で、脊椎動物の祖先において神経堤の分化多能性と遊走性が増大し、脊椎動物の頭部の進化につながったのではないかと考えられる。 Credit: Takehiro Kusakabe

一連の結果を進化的に捉えると、脊椎動物と尾索動物の共通祖先には「神経堤の萌芽」といえる細胞があり、神経堤の特性である多能性と遊走性が、脊椎動物の出現よりも前に現れていたことを強く示せたと思います。尾索動物では神経堤細胞が限られた分化能と移動能しか持たない一方で、脊椎動物では分化多能性と遊走性が強化され、最終的に現在のような多能性と遊走性を持つ神経堤細胞へと進化したのだと考えられます。

–– 残された研究課題は?

もちろん、あります。今回は現象としてa9.49細胞の多能性と遊走性を示しただけで、多能性と遊走性がどのようなメカニズムでもたらされるかといった遺伝子レベル・分子レベルの解析はできていません。また、今回の解析はホヤ発生の最初の3日間のみのものですので、その後の解析、例えば「成体において、a9.49細胞由来の細胞が、最終的に何種類で、どのような性質のものに分化するのか」といったことを解明する必要もあると思っています。これらの解析結果が出そろったところで、改めて脊椎動物の神経堤細胞の動態と比較するべきだと考えます。

脊椎動物の場合、頭部の形成に関わる頭部神経堤細胞の他に、首から尾にかけてさまざまな組織を形成する神経堤細胞が、大きく4種類、存在します。京都大学大学院理学研究科の佐藤(さとう)ゆたか准教授と大学院生の石田祐(いしだ・たすく)さんも、ホヤの神経堤細胞の性質を備えた細胞を同定していますが、それは私たちのa9.49細胞とは異なる細胞で、幼生の尾の先端部の筋肉と神経組織に分化するものです5。つまり、a9.49細胞だけでなく、ホヤにも何種類かの原始的な神経堤細胞がある可能性があります。

一点、気を付けるべきなのは、現存のホヤは5億年前にいた共通祖先そのものではない、ということです。つまり、ホヤが共通祖先の形質の全てを維持しているとは限りません。そのことは常に頭に置いておきたいと考えています。

–– ご苦労された点は?

私たちが使ったホヤは、文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクトの一環で、京都府舞鶴市の京都大学舞鶴水産実験所と神奈川県三浦市の東京大学三崎臨海実験所で養殖されたものですが、ホヤは高温に弱く、昨夏の猛暑では生育しなくなり、最終的に入手困難に陥ってしまいました。高温だと卵子や精子の質も悪く、発生もうまくいかなくなります。今回のNatureの論文では、査読者に部分的な改訂を指摘されたのですが、そのためのデータを得る実験は、暑くなるまでの時間との闘いでした。線虫やショウジョウバエと違って通年で実験できない点は、少し苦労しますね。

–– 今後もLevine教授との共同研究が続くのでしょうか?

それは状況次第だと思います。私とLevine教授は基本的には別個に研究を進めており、時に共同研究者、時にライバル同士なのです。これからも切磋琢磨(せっさたくま)して研究を続けていきたいと思います。

–– ありがとうございました。

聞き手は西村尚子(サイエンスライター)

著者紹介

日下部 岳広(くさかべ・たけひろ)

甲南大学理工学部生物学科
統合ニューロバイオロジー研究所 教授

1989年 金沢大学理学部生物学科卒業、1994年 京都大学大学院 理学研究科 博士後期課程修了。カリフォルニア大学デービス校(米国)博士研究員、北海道大学助手、兵庫県立大学准教授を経て、2009年より現職。子どもの頃から「生きた化石」といわれるような生物に魅力を感じ、ゲノムや発生に隠れた手掛かりから生物進化を探る研究に取り組んでいる。好きな言葉は遺伝学者テオドシウス・ドブジャンスキーの“Nothing in biology makes sense except in the light of evolution”。

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2025.250747

参考文献

  1. Todorov, L. G. et al. Nature 635, 912–916 (2024).
  2. Abitua, P. B. et al. Nature 524, 462–465 (2015).
  3. Abitua, P. B. et al. Nature 492, 104–107 (2012).
  4. Oonuma, K. et al. Dev. Biol. 420, 178-185 (2016).
  5. Ishida, T. & Satou, Y., Nat. Ecol. Evol. 8, 1154–1164 (2024).