光合成の水分解過程を最新技術でひもとく
光合成の最初の段階では、光によって駆動される反応を通して水(H2O)が分解され、酸素(O2)が発生する。この過程は、地球上の生命にとって不可欠なものである。この水分解反応(酸素発生反応)がどのように進むかを詳細に理解できれば、太陽光燃料(ソーラー燃料)生成技術の開発に役立つ着想が得られる可能性がある。このたび、ローレンス・バークレー国立研究所(米国カリフォルニア州)のAsmit Bhowmickら1とベルリン自由大学(ドイツ)のPaul Greifeら2は、最新の解析・分析技術を用いてこの過程を調べ、その根底にある機構について貴重な手掛かりを見いだし、それぞれNature 2023年5月18日号の629ページと623ページで報告した。これらの成果は、光合成の水分解過程のより完全な理解に向けて道を開くものである。
図1 光合成の水分解過程における重要な事象
a 光化学反応によって、水(H2O)は酸素(O2)と水素イオン(H+、プロトン)と電子(e–)に分解される。この反応は、光化学系IIという酵素内の酸素発生複合体(OEC)と呼ばれる領域で起こる。OECは、マンガン(Mn)イオン、カルシウム(Ca)イオン、Oイオンからなるクラスター触媒であり、S状態と呼ばれる5つの中間状態(S0、S1、S2、S3、S4)の間を循環する。
b Bhowmickら1とGreifeら2は、S3→S4→S0遷移における一連の事象の順序とタイミングを明らかにした。これらの事象には、OEC内およびOEC周辺での、チロシン残基(YZ)やその他のアミノ酸残基が関与する電子とプロトンの動き(放出や移動)が含まれる。S4状態では、重要な反応性ラジカル(Mn–O•)が形成され、これが水分解反応全体の律速段階(速度論的ボトルネック)となっていることが明らかになった。なお、カルボキシ基の波線は、これがアミノ酸残基の一部であることを示している。
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翻訳:藤野正美
Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2023.230839
原文
Clues to how water splits during photosynthesis- Nature (2023-05-18) | DOI: 10.1038/d41586-023-01388-0
- Dimitrios A. Pantazis
- マックス・プランク石炭研究所(ドイツ)に所属
参考文献
- Bhowmick, A. et al. Nature 617, 629–636 (2023).
- Greife, P. et al. Nature 617, 623–628 (2023).
- Haumann, M. et al. Science 310, 1019–1021 (2005).
- Nilsson, H., Cournac, L., Rappaport, F., Messinger, J. & Lavergne, J. Biochim. Biophys. Acta Bioenerg. 1857, 23–33 (2016).
- Siegbahn, P. E. M. Biochim. Biophys. Acta Bioenerg. 1827, 1003–1019 (2013).
- Cox, N. et al. Science 345, 804–808 (2014).
- Zahariou, G., Chrysina, M., Petrouleas, V. & Ioannidis, N. FEBS Lett. 588, 1827–1831 (2014).