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ペストの大流行による急速な自然選択

産業革命が起きた時代、オオシモフリエダシャク(Biston betularia)と呼ばれるガの体色が数十年間に急速に変化した。ばい煙で黒く汚れた樹皮に止まったときに、捕食者である鳥類に見つかりにくい黒っぽい体色の個体が自然選択されたのだ1。進化生物学者の間では、条件が整えば自然選択が急速に進み得ることは古くから知られており、この話はその典型的な例としてよく引き合いに出される。このほど、マックマスター大学(カナダ・オンタリオ州ハミルトン)とダイセルアーバーバイオサイエンシーズ社(米国ミシガン州アナーバー)のJennifer Klunk、およびシカゴ大学(米国イリノイ州)のTauras P. Vilgalysらは、Nature 2022年11月10日号の312ページで、個体数が少なく世代交代に要する時間が長いヒトでさえも、驚くほど短い期間で環境に適応する場合があると報告している2。だが、進化の超特急列車に乗ることには代償が伴うかもしれない。

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翻訳:藤山与一

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230244

原文

Ancient DNA reveals rapid natural selection during the Black Death
  • Nature (2022-11-10) | DOI: 10.1038/d41586-022-03160-2
  • David Enard
  • アリゾナ大学(米国トゥーソン)に所属

参考文献

  1. Haldane, J. B. S. Trans. Camb. Phil. Soc. 23, 19–41 (1924).
  2. Klunk, J. et al. Nature 611, 312–319 (2022).
  3. Izdebski, A. et al. Nature Ecol. Evol. 6, 297–306 (2022).
  4. Green, M. H. Mediev. Globe 1, 9–26 (2015).
  5. Quintana-Murci, L. & Barreiro, L. B. Ann. NY Acad. Sci. 1214, 1–17 (2010).
  6. Ioannidis, A. G. Nature 597, 522–526 (2021).
  7. Souilmi, Y. et al. Curr. Biol. 31, 3504–3514 (2021).