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学術界サバイバル術入門 — 学術誌の編集方針改定に対処する①

Credit: fatmawati lauda/iStock/Getty

学術界サバイバル術入門
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Nature Masterclasses

学術誌は、学術出版における最近の傾向に対応するために、編集方針を時とともに改定します。そして、著者ガイドラインの更新と併せて改定内容を発表するわけですが、論文著者がこれらの方針を理解してうまく対処するには、少々コツが必要な場合があります。

Nature はここ数年間に、編集方針をいくつか更新していて、研究者たちから頻繁に質問が寄せられています。そこで、学術界サバイバル術入門の今回のシリーズでは、新たな編集方針に関して、よく寄せられる質問に答えることにしました。

第1回で取り上げる編集方針は、2016年に発表された「データ利用可能性ステートメント(data availability statements)」です1(2016年12月号「データ共有と再利用促進のための新方針」参照)。この方針に関して、次のような質問がよく寄せられます。

  • この方針は何を意味するのか?
  • なぜこの方針を実施することにしたのか?
  • この方針は研究コミュニティーをどう支援するのか?

今回は、これらの質問の全てに答えるとともに、それ以上の内容についてもお話ししたいと思います。

よくある質問1:Nature のこの方針は、何を意味するのか?

データ利用可能性ステートメントとは、研究を裏付けるデータがどこで見つかるか、あるいは入手できるかを記述した説明文のことで、論文の末尾に付されています。このステートメントでは、研究コミュニティーとのデータ共有方法について述べる必要があるのですが、どのような示し方・やり方があるか、ご存じですか? 一般的なのは、①論文内、②外部サイト、③リクエストに応じて、という3つです。

① 論文内

著者が研究コミュニティーとデータを共有するための最も簡単な方法は、論文そのものにデータを含めることです。データは、本文内のみに示す形でも、本文と補足情報(supplementary information)内で示す形でも、どちらでもよいです。この方法でデータを共有する利点は、読者がすぐにデータにアクセスできることです。さらに、関連する全データを、論文を投稿した学術誌に提供することで、その学術誌にデータのアーカイブも担ってもらえます。将来そのデータが必要になったときのためにデータをアーカイブしておくことは重要です。それに、研究チームは時間が経つとメンバーが変わりますから、データの所在が分からなくなったり、データが誤って削除されたり、どこにあるか分からなくなったりする可能性があります。関連する論文と一緒にデータがアーカイブされていれば、データが必要なときにいつでも見つけられるようになりますよね。

論文内での共有は、最も簡単なデータ共有方法ですが、頻繁に行われるわけではありません。もしこの方法でデータを共有することに決めたら、データ利用可能性ステートメントに「All data generated in this study are provided in the manuscript and Supplementary Information(この研究で生成された全てのデータは、本論文と補足情報に記載されている)」と書くとよいでしょう。

② 外部サイト

データを共有する、もう1つの透明性のある方法は、データリポジトリにあなたのデータを保存することです。リポジトリには一般的なものと専門的なものがあります。よく知られている一般的なリポジトリには、Dryad2、FigShare3、Open Science Framework4があります。一方、専門的なリポジトリは、遺伝子塩基配列や化学構造、地質調査、材料データなど、分野ごとの特定のデータセットの保存に対応しています。データリポジトリにはさまざまなものがありますが、利用方法について非常に役立つ情報が、Scientific Dataのデータリポジトリガイダンスのページ5に掲載されています(2014年2月号「データジャーナルScientific Data創刊」参照、同年6月号「研究データを共有する際の礼儀作法」参照)。発表した学術誌でのデータ共有と同様に、有効なリポジトリにデータを保存することで、後に使用するための適切なアーカイブとデータへのアクセス性を確保することができます。

この方法でデータを共有することに決めた場合、データ利用可能性ステートメントには、データが保存されているリポジトリ名と併せて、関連するアクセッション番号または識別番号を記載し、できればデータに直接リンクしておく必要があります。例えば、「RNA-sequencing data that support the findings of this study have been deposited in the Gene Expression Omnibus (GEO) under accession codes GSE202291 and GSE161121(本研究の結果を裏付けるRNA塩基配列データは、Gene Expression Omnibus〔GEO〕にアクセッションコードGSE202291およびGSE161121として保管されている)」6などと記述します。

③ リクエストに応じて

データを共有する3つ目の方法は、「it is available upon reasonable request(正当な要求があれば利用可能)」と記載することです。この方法は、データ利用可能性ステートメントの書き方としては最も多く用いられているのですが、有用性が最も低いことが、最近明らかになりました。なぜでしょう? このタイプのデータ利用可能性ステートメントを使っている論文著者は、他の研究者からのデータ共有の要求に対し、ほとんど応じていなかったのです。Livia Puljakらの報告7によれば、出版された論文内で「データは要求に応じて入手可能」と述べていた著者1792人のうちの90%が、生データに対する要求を拒否するか、要求に対し回答しなかったことが分かりました(2022年9月号「データを共有すると言いながら共有していない研究者たち」参照)。ですから、あなたがデータ共有でこの方法を選択した場合は、必ず要求に応じ、順守してください。

Natureおよび関連誌の「データ利用可能性ステートメント(data availability statements)」は、全ての科学的情報を誰もが自由に利用できる「オープンサイエンス」を推進して研究を支援することを目的としています。 Credit: cifotart/iStock/Getty

それから、先ほど私が「reasonable request(正当な要求があれば)」と書いたことに気付いた方もいるかもしれません。なぜ「reasonable(正当な)」という言葉を入れたと思いますか? 機密性の高いデータの中には、守秘義務に違反したり、倫理的・法的な問題が絡んでいたりして、共有できないものもあります。ですから、共有できないデータがある場合は、データ利用可能性ステートメントに「正当な(reasonable)」という言葉を使うことをお勧めします。

データ利用可能性ステートメントでデータ共有方法について記述する際、上記の3つを組み合わせても問題ないことも、明言しておきます。

よくある質問2:Nature はなぜ、この方針を実施することに決めたのか?

「オープンサイエンス」が世界的に普及しつつある今、研究資金配分機関や出版社は、この重要な傾向を支援するための体制を整える必要があります。オープンサイエンスとは、全ての科学的情報を誰もが自由に利用できるようにすることであり、オープンサイエンスは研究の発展を促進すると考えられています。さらに言えば、ほとんどの研究は公的資金(税金)によって支えられているため、その資金が使われた研究のデータも同様に、全ての人に無料で公開されるべきだと研究資金配分機関は考えています。ですから、研究資金配分機関がオープンアクセス出版やオープンデータなどの「オープンサイエンスの要件」を導入し始めると、出版社もそうした取り組みをサポートしたいと考えるようになりました。

Nature は2016年にデータ利用可能性ステートメントの義務付けを始めましたが、その後、エルゼビア社8やワイリー社9など多くの出版社がその例に倣い、自社の学術誌への論文投稿の要件としてデータ共有に関する説明を求めるようになりました。投稿する学術誌の編集方針を順守するために、対象学術誌の著者ガイドラインを必ず読むようにしてください。

よくある質問3:Nature のこの方針は、研究コミュニティーをどう支援するのか?

前述のように、時が経つと研究チームのメンバーが変わったり、チームが移動したりしますから、データの所在が分からなくなったり紛失したりします。これは、非常によく起こる問題です。しかし、研究データは、発表された研究の妥当性を裏付けるために必要なものですから、データにアクセスできる状態を保つことは不可欠です。それに、あなたが論文を出版した後、他の研究者があなたの研究を土台に研究を進めたいと思うかもしれません。これは素晴らしいことです。あなたの研究がその分野に影響を及ぼしている証拠なのですから。しかし、あなたの研究を土台にしたくても、必要なデータが入手できなければ研究を進めることはできません。ですから、データの安全性とアクセス性を確保することは、あなたが発表した研究を裏付け、分野や社会に対するあなたの研究の影響力を最大にするために重要なのです。

第2回では、Nature が2018年に実施したもう1つの重要な編集方針の改定、「非金銭的利益相反(non-financial conflicts)の明示」10について、説明します。

次回は、2023年4月号の予定です。

これまでのTrainingはこちらからご覧いただけます。

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Masterclasses 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。

Nature Masterclasses は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金申請、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230236

参考文献

  1. https://www.nature.com/articles/537138a
  2. http://datadryad.org/
  3. http://figshare.com/
  4. http://osf.io/
  5. https://www.nature.com/sdata/policies/repositories
  6. Efstathiou, S. et al. Nat. Cell Biol. 24, 1714–1725 (2022).
  7. Gabelica, M. et al. J. Clinical Epid. 150, 33–41 (2022).
  8. https://www.elsevier.com/authors/tools-and-resources/research-data/data-statement
  9. https://authorservices.wiley.com/author-resources/Journal-Authors/open-access/data-sharing-citation/data-sharing-policy.html
  10. https://www.nature.com/articles/d41586-018-01420-8