若い脳脊髄液によって記憶想起が回復
現代の認知症治療では、薬物治療の他に、図のようなグループセラピーなどで、症状を改善させたり進行を遅らせたりする試みがなされている。今回の成果は、線維芽細胞増殖因子17(FGF17)が認知機能回復の標的治療薬になり得ることを示唆しており、高齢化社会の重要な問題の1つを解決に導くかもしれない。 Credit: Ridofranz/iStock/Getty
老化に伴う認知機能低下は、60歳を超える成人の4分の1にも及ぶとされる1。認知機能の低下を防ぐには、健康的な食事や定期的な運動が役立つ場合もあるが、現状、回復させる治療法はない2。近年、発生や老化の過程で脳がどのように変化するかに関して理解が進んできており、若い個体に存在する因子を利用して、老化に伴う認知の変化を遅らせたり、あるいは老化した脳を若返らせたりさえするという考えが生まれ、期待が増している。このほど、スタンフォード大学医学系大学院(米国カリフォルニア州)のTal Iramら3は、若齢マウスの脳脊髄液を用いた研究により、このような考えを裏付ける成果をNature 2022年5月19日号509ページで報告している。脳脊髄液(CSF)は、脳組織の周りを満たす液体で、脳の正常な発生に必要ないくつかの増殖因子タンパク質を含んでいる。
全文を読むには購読する必要があります。既に購読されている方は下記よりログインしてください。
本サービスでは、サイトご利用時の利便性を向上させるためにCookiesを使用しています。詳しくは、シュプリンガーネイチャー・ジャパン株式会社の「プライバシー規約」をご覧下さい。
翻訳:三谷祐貴子
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2022.220849
原文
Young cerebrospinal fluid improves memory in old mice- Nature (2022-05-19) | DOI: 10.1038/d41586-022-00860-7
- Miriam Zawadzki & Maria K. Lehtinen
- Miriam ZawadzkiとMaria K. Lehtinenは、共にボストン小児病院(米国マサチューセッツ州)に所属。
参考文献
- Röhr, S. et al. Alzheimer’s Res. Ther. 12, 167 (2020).
- Anderson, N. D. CNS Spectrums 24, 78–87 (2019).
- Iram, T. et al. Nature 605, 509–515 (2022).
- Pan, S., Mayoral, S. R., Choi, H. S., Chan, J. R. & Kheirbek, M. A. Nature Neurosci. 23, 487–499 (2020).
- Steadman, P. E. et al. Neuron 105, 150–164 (2020).
- Villeda, S. A. et al. Nature 477, 90–94 (2011).
- Islam, M. R. et al. Nature Metab. 3, 1058–1070 (2021).
- Lehtinen, M. K. et al. Neuron 69, 893–905 (2011).
- Fame, R. M. & Lehtinen, M. K. Dev. Cell 52, 261–275 (2020).
- Silva-Vargas, V., Maldonado-Soto, A. R., Mizrak, D., Codega, P. & Doetsch, F. Cell Stem Cell 19, 643–652 (2016).