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性差の視点から社会を変える! ジェンダード・イノベーション研究所

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220825

性差に関する課題を解決し、技術革新と偏り解消を目指す国内初の研究拠点が、お茶の水女子大学に設立された。

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お茶の水女子大学

性差が見過ごされた結果生じた問題に取り組み、性差の視点に基づいた研究により技術革新を創出する拠点として、お茶の水女子大学は「ジェンダード・イノベーション研究所」を2022年4月に設立した。

6月に開催された設立記念イベントでは、同大学長の佐々木泰子氏が冒頭で「ジェンダード・イノベーションを浸透させ、社会に公正性を確立することを目指す」と意気込みを語り、所長の石井クンツ昌子氏は「産官学連携のブリッジとしての機能が、この研究所の強み」と述べた。2024年には共創工学部も設立し、社会実装を加速する。

「この研究所は、これからのイノベーションのハブになる」と期待を寄せるのは、女性活躍担当大臣の野田聖子氏。「男女平等を語る際にEquity(公正・公平)を使うことが多いが、EquityとEquality(平等)は意味が違う。日本はEquityを上手く組み込めないまま来てしまった」と指摘。6月3日に策定した『女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)2022』には、STEM(自然科学、技術、工学、数学)領域に進む女子学生の支援や、同領域への女性登用のための具体策を盛り込み、政府一体となって進めると述べた。

ジェンダーギャップ指数2022(世界経済フォーラム)によれば、男女格差の少なさは、日本は146カ国中116位。アジア諸国では韓国(99位)、中国(102位)よりも格差があるわけだが、見方を変えればチャンスである。ジェンダーに関する課題を通して、今までにないアイデアや物が生まれるからだ。

性差の視点からの再検討

「ジェンダード・イノベーション」という考えは、2005年を皮切りに欧米で広がり始めたと、石井クンツ氏。

AIアシスタントの音声がほぼ女性ということに疑問を持ったことはあるだろうか? 女性は要求に応えてくれそう、つまり社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)が組み入れられている。生物学的性別(セックス)についても、細胞レベルで性差があることが分かってきた。だが性差が検討されていない技術や製品が社会にあふれている。

性差を無視した研究で生まれた製品は、女性にとって使いにくい場合があるだけでなく、命に関わることもある。シートベルトは、成人男性を基準に作られた結果、女性の方が重傷を負う確率が47%高く、胎児死亡原因の第1位だ。薬の開発も、雄の動物や男性被験者で行われることが多い。女性の方が薬物の代謝速度が遅いことは知られているが、その差により、ある睡眠薬では居眠り運転事故が女性で5倍多く発生した。逆の事例もある。骨粗鬆症薬の臨床試験は女性で行われてきたが、男性も発症し、男性の方が予後が悪い(2019年6月号「痛みを生む経路に性差あり」参照)。

見過ごされてきた性差、とりわけ不足している「女性のデータ」を吸い上げて製品化するには、STEM領域に関わる女性がもっと必要だろう。

しかし日本はここでも、他の先進国に水を大きくあけられている。2021年時点における女性研究者やSTEM領域に進学する女子の割合は、経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国中で日本は最下位なのだ。

女性が進路を決める時

STEM領域に魅力を感じていても、大学や研究機関の研究職は一般に任期制であり、企業の研究開発職は求人が少ない(2021年9月号「イノベーション研究の若きトップランナー清水洋氏、シュンペーター賞を受賞 」参照)。女子学生が進路を決める際、妊娠・出産などの休職を要するライフイベントを勘案して、STEM領域に進むのを躊躇することはないだろうか。

働き続ける女性が少なかった時代の影響も否めない。「高校1年の文理選択時に、職業の選択肢をもう少し知りたかった。母は専業主婦で、社会の情報はメーカー社員の父からしか得られなかった」とイベント壇上で語ったのは、東 志保氏(リリーメドテック代表取締役CEO)。「さまざまな職業につながる機会が学生に増えると、両親の影響以外で自分の適性に合う職業に巡り合う機会が増える」。同社は女性特有の臓器や健康問題に取り組むフェムテック企業。高精度乳がん検査機器において不快感低減を目指している。

脳研究分野で性差に触れることは、以前はタブー視されていたと話したのは、大隅典子氏(東北大学副学長)。今は対照的に、性差分析を義務付ける学術誌や助成金が増えている。Nature も、そうした学術誌の1つだ(5ページ「研究における性差分析を強く求めます」参照)。「今は表立って、生物学的な差異を研究できます」と大隅氏。

2004年を境に、科学における影響力が低迷する日本。性差に配慮した研究は、この状況を変えるかもしれない。それに「性差がある(gendered)」ことを配慮するのが当たり前になれば、社会全体の幸福度が向上するのは間違いない。

(編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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