Chia-Hsuan Hsu
写真は、台北市の南東に位置する宜蘭(ギラン)県の大坑罟(ダーケング)という海岸の集落で夜間に撮影されたものです。左に写っているのが私で、他の2人の研究者と共にアカテガニ(Chiromantes haematocheir)の体長を測定しています。
地元のおじいさんは、昔は繁殖期になると道路がカニだらけになって横断するのが大変なほどだったのに、一体どこへ行ってしまったのだろうと言っていました。カニは地元の人々にとって大切な思い出であり、この地の文化の一部でもあるのです。
コンクリートの普及などによる生息地の喪失が、カニの減少に拍車をかけているようです。私は地元の人たちと一緒に、アカテガニの微小生息域となる岩場や人工湿地を作っています。アカテガニは動物の死骸などの有機物を食べて分解し、栄養循環のカギとなる役割を担う、重要な腐肉食動物です。
小さな生物たちは、生息地の喪失に対して、反対することも抵抗することもできません。彼らは、私たちの助けを必要としています。けれども台湾では、カニよりも海岸の別荘の方が重要だと考える人が多いのです。企業は国立公園内に豪華な施設を建設したがり、当局もしばしばそれを承認します。私は、手付かずの生息地が破壊され、コンクリートで覆われるのを何度も見てきました。
私がカニに興味を持つようになったきっかけは、国立中山ちゅうさん大学の学生だった頃に、寮で頻繁にオカヤドカリ(Coenobita cavipes)を見かけたことです。大学は高雄市の山と海に挟まれた海岸緩衝地帯にあります。オカヤドカリは普段は陸上で生活していますが、雌が抱えている卵が孵化するときには海に放つ必要があり、海に向かう途中でここを通っていたのです。
乱開発によってカニやヤドカリの生息地が次々と破壊されていくのを目の当たりにして、私は、これを阻止するためには科学をしているだけではだめだと気付きました。重要なのは、論文を何本出版するかではなく、教育とコミュニケーションを通じて市民とつながることだと思ったのです。社会科学の博士号を取ることにした理由はそこにあります。私は自然保護をライフワークにするつもりです。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2022.220752
原文
Up for crabs: making a home for red-clawed crustaceans in Taiwan- Nature (2022-03-28) | DOI: 10.1038/d41586-022-00810-3
- Flynn Murphy
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