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COVID罹患後の脳の変化が画像で判明

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220749

原文:Nature (2022-04-28) | doi: 10.1038/d41586-022-00503-x | Brain changes after COVID revealed by imaging

Randy L. Gollub

SARS-CoV-2への感染前後の画像検査により、感染後の脳には明らかな変化が認められることが分かった。大規模な脳画像追跡研究には高い水準が要求されるが、この研究はその模範を示している。

Douaudらは、英国バイオバンク参加者において、磁気共鳴画像法(MRI;写真)を用いて感染後の脳の変化を調べた。ウイルス感染が脳の構造に与える影響は非常に小さいことから、この脳画像追跡研究では、参加者の追跡を確実に行い、同一のMRIで同一手順で撮像された画像を使用するなど、慎重に実施された。その結果、(1)眼窩前頭皮質や海馬傍回における灰白質の厚さや組織コントラストの大幅な減少、(2)一次嗅皮質に機能的に接続している領域での組織損傷マーカーの大きな変化、(3)全体的な脳サイズの大幅な減少が見いだされた。 | 拡大する

JazzIRT/iStock/Getty

新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群2;SARS-CoV-2)に感染すると、嗅覚や味覚の喪失、頭痛、記憶障害など、多彩な神経精神症状が引き起こされることが知られている1,2。感染によって脳に生じる変化を正確に知ることは、これらの症状の病態生理を理解するのに役立つだろう。脳に生じたわずかな変化を定量的に評価することは、大規模な脳画像研究により可能となるが、その実施には多大な困難が伴う。Gwenaëlle DouaudらがNature 2022年4月28日号の697ページで報告している785人の脳画像研究3は、この難しい課題に正攻法で取り組んだ最初の例といえる。

英国バイオバンクでは、COVID-19脳画像追跡研究が2020年に始まり、パンデミック発生前にMRIを撮っていた参加者を対象に、パンデミック後の画像が撮られた

大規模な生物医学データベースである英国バイオバンク(www.ukbiobank.ac.uk)は、約50万人の遺伝情報および健康関連情報を収集・公開している研究資源である。そのうち10万人の参加者については、磁気共鳴画像(MRI)の撮像が既に済んでいるか、これから撮像される予定だ4。英国バイオバンクでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)脳画像追跡研究が2020年に始まり、パンデミック(世界的大流行)が発生する前にMRIを既に撮っていた参加者を対象に、パンデミック後の画像が撮られた(go.nature.com/3gvj6qe参照)。

英国バイオバンクは、51〜81歳の785人について、パンデミック前後の脳画像データを公開している。2回の撮像の間にCOVID-19に罹患した参加者が401人、罹患しなかった参加者が384人である。感染した変異株の種類は不明だが、2回目の撮像はオミクロン変異株が出現する前に行われた。これらの脳画像データを解析したDouaudらは、パンデミック前後の画像を比較することで感染による変化と既存の疾患による変化を区別している。

ウイルスが脳の構造に与える影響は非常に小さく、最新の画像処理技術を使ってようやく検出することができる。そのため、脳のMRIは厳密に同一の条件で撮像し、注意深く較正した高品質のものであることが不可欠であった4,5。英国バイオバンクの画像検査センターには全て同一のMRI装置が設置されており、撮像の手順も標準化されている4。さらにDouaudらは、パンデミック前に脳画像の変化が追跡されていた、独立の参加者群のデータを基準として使用した6。このようにデータ品質の水準の高さをDouaudらが重視したことは重要だ。血糖値測定のような確立された医療検査とは違って、複雑な脳画像の撮像と解析については標準的といえるような手順がまだ定まっていないからである。

英国バイオバンクでは、脳の構造と機能に関するさまざまな特徴を明らかにするために、6種類の手法でMRIを撮像している5。その後、自動処理パイプラインにより、画像由来表現型(imaging-derived phenotype;IDP)と呼ばれる固有の特徴が画像から抽出される5。1回の撮像セッションで、1人につき2000以上のIDPが生成される。各IDPは、例えば脳内の各構造の体積、組織の微細構造特性、あるいは2つの脳領域間の神経接続の強さなど、それぞれ異なる情報を伝えてくれる。COVID-19では味覚と嗅覚が損なわれることが多いことから、Douaudらはさらに、味覚と嗅覚に関わる脳領域に変化が生じるという仮説を検証するためのIDPのセットを開発した。COVID-19による脳の変化と、2回の撮像セッションの間に生じた加齢に関連した脳の構造と機能の変化は、以前のバイオバンク画像研究7で得られた計算モデルを用いることで区別することができた。

図1 COVID-19に罹患した人に見つかった、大脳皮質の一部における厚さの減少
Douaudら3は、SARS-CoV-2への感染により脳にどのような変化が生じるかを調べるために、パンデミックの発生前に1回目、発生後に2回目の撮像を受けた785人の脳画像を比較した。脳のさまざまな領域における皮質の厚さなど、脳の構造と機能の多様な側面が検討された。このグラフは2回の撮像の間に、さまざまな年齢層で左眼窩前頭皮質の厚さが平均して何%変化したかを示している。COVID-19に罹患した人(症例群)の方が、罹患しなかった人(対照群)よりも厚さの減少が大きい(文献3の図1より引用)。 | 拡大する

この大規模な研究の結果、SARS-CoV-2の検査で陽性の結果が出たことがある人(症例群)とそうでない人(対照群)の画像には、有意な違いがあることが明らかになった。例えば、症例群では対照群に比べ、大脳皮質の一部で厚さや組織のコントラストが減少していた(図1)。このような変化は、しばしば脳の健康状態の悪化に関連している。また、症例群の嗅覚や味覚に関わる脳領域では、組織損傷を示すマーカーが増加していた。一方、一次嗅覚経路には群間で違いは検出されなかった。しかし、これは予想通りであった。一次嗅覚経路のMRI画像には、空気と組織の境界で発生するアーチファクト(偽像や虚像とも呼ばれる)が映り込むため、MRIでは観察が難しい領域として有名である。これらの結果は全脳解析でも確認され、他の脳領域でもびまん性の萎縮が認められた。

症例群のほとんどの人でCOVID-19の症状は軽症から中等症だったことを考えると、こうした脳の変化が検出されたのは驚くべき結果だ。入院が必要になった少数の人々を解析から除外しても、結果は変わらなかった。基準として使用した脳画像追跡研究群では、撮像セッションの間にCOVID-19とは無関係の肺炎に罹患した場合、同様の変化は生じなかった。従って、検出された脳の変化はCOVID-19に特異的なものであることが裏付けられたといえる。

この種の研究で最も難しい課題の1つは、症例群と対照群を適切にマッチングさせることである。マッチングが適切になされていないと、偽陽性の結果を招く恐れがあるからだ。つまり、共変化する別の原因が実際には作用しているのにもかかわらず、感染が変化の原因だと誤って解釈されてしまう。このような状況では、例えば、COVID-19に罹患したことのある症例群の人々における脳の変化が大きく見積もられたり、あるいはベースラインでの脳の違いが過大に評価されたりする。問題をさらに複雑にし得るのは、参加者を誤って分類する可能性があることだ。これは検査で偽陽性の結果が出た参加者を症例群に分類したり、無症候性感染の経験がある参加者や、検査で偽陰性の結果が出た参加者を対照群に分類したりすることで起こり得る。ただし、そのような誤分類は両群間の差を誇張するのではなく、むしろ小さくする方向に結果をゆがめるはずである。

Douaudらは、この難しい課題に正攻法で取り組んだ。募集された参加者は、検査で陽性となったことがある人々とない人々との間で、性別、民族集団、生年月日、1回目の撮像を行った画像検査センターと時期について、適切にマッチングしているかどうかがまず確認された。データに不備のある参加者を全て除外した上で、最終的なコホートについてこれらの基準が再確認された。また、2回の撮像セッションの間隔、参加者の社会経済的状況、COVID-19流行前の健康状態(血圧、肥満度、飲酒量など)についても、両群間でマッチングしているかどうかが評価された。

Douaudらは、英国バイオバンクで利用可能な広範な非画像特性データ(例えば、神経精神疾患の指標など)を用いて交絡因子分析を行い、個別アプローチでもクラスター化アプローチを採用しても、既存の特性に関する症例群と対照群の違いでは、報告したような脳の変化を説明できないことを示した。Douaudらは慎重を期して、ベースラインの撮像セッションにおけるIDP間の差でも、所見を説明できないことを示した。しかし、報告された差が、これら以外の考慮されていない群間の差に由来するものである可能性を完全に除外する方法はない。

この貴重なデータセットから有用な情報を抽出し尽くすためには、やるべきことがまだたくさんある。COVID-19脳画像追跡研究は現在もなお進行中で、最終的には2000人の脳画像が公開される予定だ。その頃までには、COVID-19の急性および慢性症状に関して、参加者ごとの健康関連情報が入手できるようになることが期待される。そのような情報は、脳の変化がCOVID-19の特定の症状とどのように関連しているかを検討するのに役立つだろう。英国バイオバンクのデータとDouaudらによる解析プログラム(go.nature.com/3uu4r5k参照)は公開されており、COVID-19の神経精神症状の原因の究明とその予防法や治療法の開発に、多くの研究者が参加することが期待される。

(翻訳:藤山与一)

Randy L. Gollubは、マサチューセッツ総合病院McCance記念脳健康センター、およびハーバード大学医学系大学院ハーバード–MIT保健科学技術部門(いずれも米国マサチューセッツ州ボストン)に所属。

参考文献

  1. COVID-19 Mental Disorders Collaborators. Lancet 398, 1700–1712 (2021).
  2. Misra, S. et al. Neurology 97, e2269–e2281 (2021).
  3. Douaud, G. et al. Nature 604, 697–707 (2022).
  4. Littlejohns, T. J. et al. Nature Commun. 11, 2624 (2020).
  5. Miller, K. et al. Nature Neurosci. 19, 1523–1536 (2016).
  6. Alfaro-Almagro, F. et al. NeuroImage 166, 400–424 (2018).
  7. Alfaro-Almagro, F. et al. NeuroImage 224, 117002 (2021).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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