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誓約の履行で2℃未満の温暖化抑制は可能

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220739

原文:Nature (2022-04-14) | doi: 10.1038/d41586-022-00874-1 | Net-zero commitments could limit warming to below 2 °C

Zeke Hausfather & Frances C. Moore

COP26での気候に関する各国のコミットメント(誓約)を分析した結果、そうしたコミットメントが履行されれば、2100年までの地球温暖化を2℃未満とすることができる可能性が示された。しかし、それには短期的な政策による裏付けが前提となる。

2021年、COP26に先立って国連に提出された日本のNDCでは、「2050年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、我が国は、2030年度において、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく」としている。その実現にはさまざまな取り組みが要求されるが、中でも再生可能エネルギーの最大限の導入は不可欠だ。 | 拡大する

Mint Images/Mint Images RF/Getty

人類文明と自然界に対する気候変動の影響は、まさしく今世紀末までに地球がどれだけ温暖化するかに左右される。この問題の答えは、関連する2つの不確実性によって決まる。それは、物理的な気候システムが温室効果ガスにどう反応するのか、そして人類がどれだけの量の温室効果ガスを大気中に放出するのか、という2点だ。Nature 2022年4月14日号の304ページでは、メルボルン大学およびクライメート・リソース社(共にオーストラリア・ビクトリア州メルボルン)の気候科学者Malte Meinshausenら1が、長期的な排出量の抑制に関する各国のコミットメントの履行によって、産業革命以来の気温の上昇を2℃以内に抑えられる可能性があることを明らかにしている。しかし、将来の排出量削減のコミットメントが短期的な取り組みの強化によって裏付けられなければ、楽観視すべきではない。

10年前、世界は気候に関して非常に厳しい未来に突き進んでいるように思われていた。このまま「対策なし」で経済活動を続ければ、2100年の気温は産業革命前の水準を4~5℃上回るだろうという主張が多かったのだ2。現在は様相が異なっている。二酸化炭素排出量の増加はここ10年で顕著に鈍化しており3、現在の政策とコミットメントの下では、何年かすると排出量が頭打ちになることが見込まれている4

高排出量シナリオは、21世紀のエネルギー生産の相当部分を石炭が占めることを想定しているが、世界の石炭使用量は2013年以降増加しておらず、国際エネルギー機関によれば、今世紀末に向けて減少する見通しだという4。さらにクリーンエネルギーの価格が下落した。これは、太陽光発電と蓄電のコストが2010年の8分の1以下に低下したことによる5

エネルギーの市場と技術を巡るこうした傾向は、気候政策の表明と実施の両方での気運の盛り上がりと一致している。2015年のパリ気候協定の一環として、各国は気候政策案の提出を開始した(2016年3月号「地球温暖化の抑制へ歴史的合意」参照)。それはNDC(Nationally Determined Contribution;国が決定する貢献)として知られている。初回のNDCは、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」というパリ協定の目標を達成するには程遠いものだった6。だが、パリ協定は、5年ごとにNDCのコミットメントを更新することによって気運を高めていくことを意図していた。

Meinshausenらは、その意図が、少なくとも部分的には実現されたことを明らかにした。排出量目標が時とともに着々と意欲的なものになっているのだ。過去2年の間に、CO2または温室効果ガスの排出量を2050年、2060年、あるいは2070年までにネットゼロ(実質ゼロ;人間活動による排出量と人間活動による大気中からの除去量とが釣り合った状態)にする、という長期的なコミットメントを発表する国が相次いだ。現在、76カ国によるコミットメントが、2020年の世界の温室効果ガス排出量の少なくとも75%をカバーしている1

2021年に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に先立って、2回目のNDCが同年提出されているが、論文では、そこで表明された短期的、長期的コミットメントの両方が検討されている。分析の結果、そうしたコミットメントが完全に履行されれば、産業革命以降の気温上昇を2℃未満に抑制できる可能性が高いと予測された。さらに過去3年からの推定値と合わせることにより6-16(図1)、地球の気候に関してはるかに明確な将来像が示されている。

図1 2100年までの温暖化に関する推定の比較
本News & views筆者によるこの調査は、現在の政策6-14、2030年に向けて各国が立案した気候政策(国が決定する貢献;NDC)6,8,9,11–13、および排出量ネットゼロ・コミットメント1,6,10–12,15に基づく推定の結果をまとめている。この調査では、産業革命前を基準として予想された2100年までの世界の気温上昇の推定値は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2021年にまとめた第6次評価報告書6で示されている温暖化の帰結の広がりよりも、予測の幅が狭くなることが示されている。Meinshausenらの分析1では、温暖化が報告書の示す範囲の下側に収まることが示唆されているが、それにはネットゼロ・コミットメントが履行されることが前提となる。 | 拡大する

ここ数年で発表されている排出量ネットゼロという意欲的な長期的コミットメントは確かに福音だが、各国政府がそのコミットメントの実現に向かっているのかどうかについては疑いが残る。30年先、40年先、それどころか50年先について意欲的な気候目標を設定するのはたやすいが、持続可能性の高い将来に向けてエネルギーシステムを変える政策を直ちに実行に移すのははるかに困難なことだ。今後10年間で、短期的な目標を達成するコミットメントを各国が実行するという後押しがなければ、長期的な目標には疑いの目を向けざるを得ない。

2100年の温暖化の着地点に関するこれまでの推定を比べると、気候に関する各国の長期的なコミットメントについて慎重になるべきであることがよく分かる。推定される2100年の温暖化の中央値は、現状の政策の下では約2.6℃(範囲は2.0~3.7℃)6-14、2030年までの短期的なNDCのコミットメントでは約2.4℃(同1.8~3.4℃)6,8,9,11–13であり、まだ目標の2℃を大きく上回っている。気候システムの不確実性を考慮すると、排出量が削減されなければ、今世紀中に4℃またはそれを超える温暖化という可能性も完全には排除しがたい6

今後の排出量に関して、現在の政策とコミットメントが必ずしも上限とはならないという認識が重要だ

特に重要なのは、今後の排出量に関して、現在の政策とコミットメントが必ずしも上限とはならないという認識を持つことだ。この先の気候政策における機運の盛り上がりを期待することには合理性がある16。しかし、現在起こっていることからも分かるように、ナショナリズムの復活がもたらす未来を排除するのは誤りだろう。ナショナリズムは国際関係の緊張を高め、国内の化石燃料資源に対する依存度の上昇とそれに伴う排出量の増加につながる17

さらに、各国が2030年のNDCのコミットメントを達成するという保証もない。2021年に発表された推定は、経済規模の大きなG20の各国に関して、現時点で2030年には年間11億tのCO2が当初のNDCに対して達成できないという予測を示唆している6。そして、産業革命前との比較で2100年に気温が2.4℃、あるいは2.6℃も上昇した世界では、4~5℃の上昇よりははるかにましだとはいえ、それでも一部の人類や自然界のシステムには破滅的な影響が及ぶと考えられる18(2019年1月号「1.5℃の壁を越えないために人類がなすべきこと」参照)。

悪いことに、パリ協定の1.5℃目標を達成できそうにないこともだんだん分かってきた6。1800年代後半以降、世界の気温は既に約1.2℃上昇しており19、Meinshausenら1が指摘するように、現在のネットゼロ・コミットメントを履行しても、今世紀内の上昇幅が1.5℃以内にとどまる可能性は6~10%にすぎない。

さまざまなモデリング手法による一連の研究の結果をまとめることで、21世紀末までの温暖化の成り行きについて想定される範囲が絞られ、地球の気候に関する将来の明確な見通しを示すことができる。これは、気候変動による影響への現実的な対応を方向付けるための参考になる。かなりの不確実性が残されているが、未来の気候変動のあらゆる可能性に関する理解を深めることは、今後の変化に備えるための適応戦略を策定する政策立案者や部会にとって有益だ。それは、現実味が増してきた今世紀内の1.5℃目標を達成できるよう補うために、ネットゼロ・コミットメントをこれからどれだけ強化しなければならないかを判断するのにも役立つ。

(翻訳:小林盛方)

Zeke Hausfatherはストライプ社およびNPO法人バークレー・アース(共に米国カリフォルニア州バークレー)に所属。Frances C. Mooreはカリフォルニア大学デービス校(米国)に所属。

参考文献

  1. Meinshausen, M. et al. Nature 604, 304–309 (2022).
  2. Hausfather, Z. & Peters, G. P. Nature 577, 618–620 (2020).
  3. Friedlingstein, P. et al. Preprint at Earth Syst. Sci. Data https://doi.org/10.5194/essd-2021-386 (2021).
  4. International Energy Agency. World Energy Outlook 2021 (IEA, 2021).
  5. Bloomberg New Energy Finance (BNEF). 2H 2021 LCOE Update (Bloomberg, 2021).
  6. United Nations Environment Programme. Emissions Gap Report 2021 (UNEP, 2021).
  7. Hausfather, Z. & Richie, J. A 3C World Is Now “Business as Usual” (Breakthrough Inst., 2019).
  8. Liu, P. R. & Raftery, A. E. Commun. Earth Environ. 2, 29 (2021).
  9. Network for Greening the Financial System. NGFS Climate Scenarios for Central Banks and Supervisors (NGFS, 2021).
  10. Ou, Y. et al. Science 374, 693–695 (2021).
  11. Climate Action Tracker. 2100 Warming Projections (CAT, 2021).
  12. International Energy Agency. World Energy Outlook 2021: Technical Note on the Emissions and Temperature Implications of COP26 Pledges (IEA, 2021).
  13. Sognnaes, I. et al. Nature Clim. Change 11, 1055–1062 (2021).
  14. Morris, J., Hone, D., Haigh, M., Sokolov, A. & Paltsev, S. Environ. Econ. Policy Stud. https://doi.org/10.1007/s10018-021-00339-1 (2022).
  15. Climate Resource. COP26 Briefing Paper: Updated Warming Projections for NDCs, Long-Term Targets and the Methane Pledge. Making Sense of 1.8°C, 1.9°C and 2.7°C (Climate Resource, 2021).
  16. Moore, F. C. et al. Nature 603, 103–111 (2022).
  17. Riahi, K. et al. Global Environ. Change 42, 153–168 (2017).
  18. Intergovernmental Panel on Climate Change. Climate Change 2022: Impacts, Adaptation, and Vulnerability. Contribution of Working Group II to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change (eds. Pörtner, H.-O. et al.) (Cambridge Univ. Press, in the press).
  19. Intergovernmental Panel on Climate Change. Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change (eds. Masson-Delmotte, V. et al.) (Cambridge Univ. Press, in the press).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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