Editorial

投獄されたイラン人学者に支援の声を

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220705

原文:Nature (2022-04-13) | doi: 10.1038/d41586-022-00995-7 | Global science must stand up for Iran’s imprisoned scholars

イラン人研究者は、かつてないほどの危険にさらされている。各国政府は静かな外交を促しているが、表立って行動することが必要なのだ。

野生生物保護に取り組むニロウファル・バヤニ(Niloufar Bayani)は、2018年から刑務所に収容されている。 | 拡大する

Niloufar Bayani

テヘランの保護慈善団体「ペルシャ野生生物遺産財団(PWHF)」の共同創設者であるモラド・ターバズ(Morad Tahbaz)は2020年3月、イランでの4年間の囚人生活から解放されて帰国できるかと思われた。だがそれは、ほんの束の間のことだった。

PWHFは、カメラトラップを設置して、絶滅寸前種のアジアチーターを監視していた。イランの司法当局はこれをスパイ行為とする判決を下し、ターバズは7人の同僚と共に10年の拘禁刑に服している。PWHFのもう1人の共同創設者である社会学者カヴォウス・セイド・エマミ(Kavous Seyed Emami)は、逮捕のわずか数週間後、勾留中に死亡した。

イラン、英国と米国の3つの国籍を有するターバズは、当初、取引の一環として、慈善活動家のナザニン・ザガリ=ラトクリフ(Nazanin Zaghari-Ratcliffe)と土木技師アヌーシェ・アシューリ(Anoosheh Ashoori)という英国とイランの二重国籍者2人と共に釈放された。この2人は、速やかに英国行きの飛行機に乗せられた。だがターバズは、刑務所に戻された。彼の家族はショックを受け、茫然自失の状態にある。

イラン国内では、科学的活動に関与する人々がスパイ容疑で投獄される事例が増えており、ターバズの事例もその1つだ。投獄された人々の罪状や拘禁施設での恐ろしい状況がほとんど公表されていないだけに、その苦しい状況は、危うさを増している。逮捕者には、スウェーデンとイランの二重国籍者で、病院を災害に強くする方法を研究し、死刑判決を受けたアフマッドレザ・ジャラリ(Ahmadreza Djalali)、フランスとイランの二重国籍者で、2019年に逮捕・投獄された、パリ政治学院(フランス)に所属する人類学者ファリバ・アデルカ(Fariba Adelkhah)など、さまざまな人々がいる。

二重国籍者が逮捕される理由の1つは、欧米各国の政府から譲歩を引き出すための人質とするためだ。しかし、獄中の学者の大半はイラン国民であり、これらの人々の話はあまり知られていない。かつて国連職員だった野生生物保護論者のニロウファル・バヤニ(Niloufar Bayani;写真)や、シャリフ工科大学(イラン・テヘラン)でコンピューター科学を専攻し、受賞歴もあるアリ・ユネシ(Ali Younesi)など、若い人々も巻き込まれている。

人類学者カイリー・ムーア=ギルバート(Kylie Moore-Gilbert)の新著『The Uncaged Sky』では、獄中の学者が耐えている厳しい精神的懲罰や体罰、とりわけ女性への懲罰が赤裸々に語られている。英国とオーストラリアの二重国籍を持つムーア=ギルバートは、このような本を書けるユニークな立場にある。かつてメルボルン大学(オーストラリア)に所属していた彼女は、2018年に会議に出席するためにイランに入国し、オーストラリアに帰国するために訪れた空港で逮捕された。彼女は、スパイ容疑で2年間拘留されたが、2021年に収監者交換の一環として釈放された。

人類学者ファリバ・アデルカ(Fariba Adelkhah)は2019年に逮捕された。その後、自宅軟禁状態にあった彼女が再び刑務所に収容されることが決まり、彼女を支援するため、パリ政治学院(フランス)の前に集まったアデルカの同僚たち。2022年1月13日撮影。 | 拡大する

THOMAS COEX/Contributor/AFP/Getty

ムーア=ギルバートは、悪名高いエビン刑務所(テヘラン)でバヤニとアデルカと過ごした。著書では、女性たちがどのように尋問や拷問を受け、セクハラを受け、独房で過ごすことを強いられ、基本的な医療を拒否されたかが克明に描写されている。これは、彼女たちをくじけさせて、やってもいないことを自白させるための手段なのだ。

「世間に公表することが大事」ということが、極めて重要なメッセージだ。オーストラリアにいるムーア=ギルバートの家族は、彼女の事件を公表すると釈放交渉がこじれるかもしれないので公表を控えるようにとオーストラリア政府から言われた。しかし、公表を避けた者は、政府にとって優先度が下がる。彼女は父親と電話で話した時に、「政府から黙っているよう勧められた」と言われたことを覚えている。それに対して彼女は、「お父さん、よく聞いて。あまり時間が残っていないの。マスコミに話して。私の身に何が起きているのか伝えて。私が逮捕されて、独房に入れられ、大使館員の面会も拒否されていることを、話して」と父親に伝えた。

人質を取る行為は、関係国の政府が同じ主張をして交渉することで対抗できる。

人質を取る行為は、関係国の政府が、イランと個別に二国間交渉を行うのではなく、同じ主張をして交渉することで対抗できる。そして、絶えず世間に知らしめることが、行動を起こすよう全ての関係者にプレッシャーをかける最良の方法の1つなのだ。

科学界は、投獄された学者を支援するためにもっと行動しなければならない。全世界の科学者は、言論の自由の恩恵を受けられないイランの科学者のために率直に発言すべきだ。イランで投獄されている研究者について声明や書簡、会議やイベントで言及することが、イラン人学者に「世界の科学界が支持している」ことを伝える方法なのだ。イラン人科学者が身の安全を実感しない限り、イランの科学は発展しない。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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