News in Focus

何がCOVID-19の重症化を引き起こすのか

SARS-CoV-2が、肺においてマクロファージ(写真)という免疫細胞に侵入することが、炎症反応の暴走の引き金となり得ることが示された。 Credit: NIAID

免疫細胞が新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)に感染すると、炎症反応の暴走が始まることがある。これが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を重症化させる原因となるようだ。2022年4月6日にNature のオンライン版に掲載された研究1と、2022年4月1日にbioRxivに投稿された未査読の論文2は独立のものだが、どちらもそれを示唆している。

深刻な呼吸困難や肺以外の臓器も傷害を受ける重症COVID-19は、炎症によって引き起こされることが、パンデミック(世界的大流行)初期の研究結果から示唆されていた。しかし研究者らは、その引き金がどのように引かれるかを突き止めるのに苦労していた。

最新の2つの研究によって、炎症の開始には、SARS-CoV-2に感染した2種類の白血球(肺のマクロファージと血液中の単球)が関与していることが分かった。さらにこれらの研究では、SARS-CoV-2が免疫細胞に感染して複製できるという確かな証拠に加え、このウイルスが免疫細胞に侵入する仕組みも明らかにされた。これまで、免疫細胞への感染についてはさまざまな結果が報告されていた。

「これらの研究は、COVID-19の重症化が起こる仕組みについて、説得力のある説明を提供しています。これが唯一の、あるいは最も重要な経路かはまだ分かりませんが、非常に興味深い結果です」と、香港大学(中国)のウイルス学者Malik Peirisは言う。

さらに、感染した免疫細胞は薬剤開発の有望な標的になる可能性があると、アイオワ大学(米国アイオワシティー)の免疫学者Jian Zhengは言う。

過剰な反応

Nature に掲載された研究1では、ボストン小児病院(米国マサチューセッツ州)の免疫学者Judy Liebermanらが、救急部門のCOVID-19患者の血液試料を調べた結果を報告した。調査した患者では平均して、単球と呼ばれる免疫細胞の約6%に、炎症に伴って起こる細胞死(ピロトーシスと呼ばれる)の兆候が確認された。単球は、体内に外来の侵入者がいないか巡回していて、異物を見つけると「初期応答」を行う。

細胞死を起こして死にかけている細胞をたくさん目にすることは珍しいとLiebermanは言う。体内では通常、死にゆく細胞はすぐに取り除かれるのだ。

Liebermanらが細胞死を起こしている細胞を調べると、そうした細胞はSARS-CoV-2に感染していることが分かった。彼女らは、このウイルスがおそらく「インフラマソーム」を活性化したと考えている。インフラマソームは、炎症反応カスケードを開始させる大きなタンパク質複合体であり、インフラマソーム活性化により最終的にはピロトーシスが起こる。

Liebermanらはまた、COVID-19で死亡した患者の肺組織において、マクロファージという別の種類の免疫細胞も調べた。マクロファージは、ウイルスの断片を含む細胞の残屑も貪食するので、マクロファージにSARS-CoV-2が感染したのか、それともウイルスの残屑を貪食しただけなのかを示すことは困難であった。しかしLiebermanらのチームは、マクロファージの約4分の1でインフラマソームの活性化が見られ、そうしたマクロファージの一部に実際にウイルスが感染していることを見いだした。SARS-CoV-2は肺の上皮細胞にも感染するが、上皮細胞では同様の炎症反応は見られなかった。

この結果は、エール大学医学系大学院(米国コネチカット州ニューヘイブン)の免疫学者Esen Sefikらによって2022年4月1日にbioRxivに投稿された論文の結果と一致している。この論文はまだ査読を受けていないが、SARS-CoV-2が、ヒトの肺やヒト免疫系のマウスモデルにおいてマクロファージに感染し、複製できることを示した。これらのマクロファージでも、Liebermanらが報告したのと同様にインフラマソームの活性化が見られ、最終的にはピロトーシスが起こった。

Sefikらはまた、SARS-CoV-2に感染したマウスにインフラマソームを阻害する薬剤を投与すると、重症の呼吸困難が起こらないことも示した。この薬剤によって「マウスの肺の傷害が軽減されたので、重症には至りませんでした」とSefikは言う。この結果は、SARS-CoV-2が感染したマクロファージが、重症COVID-19患者に観察される肺炎の重症化に役割を担っていることを示唆している。

マクロファージの炎症反応は、SARS-CoV-2の複製を阻止する方法かもしれないと、この研究の共著者であり、エール大学医学系大学院の免疫学者Richard Flavellは言う。今回の研究で、マクロファージのインフラマソームが活性化されると、細胞内でのウイルス複製は停止した。しかし、薬剤でインフラマソームを阻害すると、マクロファージは感染性ウイルス粒子の産生を始めたのだ。

この結果は、マクロファージがウイルス感染を促す可能性を示しているため、「驚くべき」知見であるとPeirisは言う。

しかし、COVID-19の重症化に、感染した免疫細胞がどの程度重要であるかを解明するためには、候補と考えられる他の機構と比較したフォローアップ研究が必要であると、アイオワ大学のウイルス学者Stanley Perlmanは言う。

ウイルスの侵入

単球やマクロファージは、SARS-CoV-2の主な侵入受容体であるACE2受容体の発現が低い。そのため研究者らは、SARS-CoV-2がこれらの細胞に侵入する仕組みに頭を悩ませていたのだが、今回、どちらの研究チームもそれを明らかにした。

単球やマクロファージは、ACE2受容体の発現が低い。そのため研究者らは、SARS-CoV-2がこれらの細胞に侵入する仕組みに頭を悩ませていた

SefikとFlavellは、ヒトとマウスの細胞を用いた実験で、SARS-CoV-2が肺のマクロファージに侵入する際、数が限られているにもかかわらずACE2受容体を利用できることを見いだした。しかし、侵入方法はこれだけではなかった。抗体が結合したこのウイルスは、単球やマクロファージの細胞表面にあるFcγ受容体と呼ばれるタンパク質を介して細胞内に侵入することができたのだ。Fcγ受容体は抗体のFc部分に結合する。そのため、ウイルスは抗体に捕捉されると機能できなくなるが、抗体が付着することでFcγ受容体と結合できるようになり、Fcγ受容体を介して細胞内に侵入できるのだ。

ACE2受容体を持たない単球には、こうした方法によってもSARS-CoV-2が侵入できると、Liebermanは言う。Fcγ受容体は好中球やリンパ球の一部にも発現しているが、今回の研究ではこれらの細胞への感染は見られなかったことから、Fcγ受容体を持つ単球のみに感染する可能性がある。

しかし、全ての抗体がウイルスの侵入を促進するわけではないとLiebermanは言う。Liebermanらは、ファイザー社/ビオンテック社が開発したmRNAワクチンの接種を受けた人で産生された抗体では、単球がウイルスを取り込むことができないことを示している。

多くの人がmRNAワクチンの接種を受けていることを考えると、この知見は心強いとPeirisは言う。しかし、どのタイプの抗体が単球によるウイルスの取り込みを促進しているのか、また、他の技術を用いたワクチンが異なる応答を誘導するかどうかを理解するには、さらに多くの研究が必要である。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2022.220611

原文

What triggers severe COVID? Infected immune cells hold clues
  • Nature (2022-04-06) | DOI: 10.1038/d41586-022-00965-z
  • Smriti Mallapaty

参考文献

  1. Junqueira, C. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-022-04702-4 (2022).
  2. Sefik, E. et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/2021.09.27.461948 (2022).