News in Focus

COVID罹患後に糖尿病リスクも上昇

COVID-19で入院した人々は、糖尿病と診断されるリスクが高い。 Credit: BERTRAND GUAY/Contributor/AFP/Getty

新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群2;SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)に罹患した人は、たとえCOVIDが軽度で済んでも、その後最長で1年間は、糖尿病を発症するリスクが糖尿病にかかったことのない人に比べて高くなることが、約20万人を対象とした大規模研究1で示された。

COVID-19発症からその後数カ月間は、糖尿病のリスクが高まる可能性があることを示す研究2が増えている(2020年8月号「新型コロナウイルス感染で糖尿病発症リスク上昇か」参照)。2022年3月初めにThe Lancet Diabetes & Endocrinology に発表されたこの研究もその中の1つだ。

「このパンデミック(世界的大流行)が全て終息したとき、その遺産、つまり慢性疾患という遺産が残されるでしょう。そしてヘルスケアシステムはその準備ができていません」と、研究の共著者で退役軍人省(VA)セントルイス・ヘルスケアシステム(米国ミズーリ州)の主任研究員Ziyad Al-Alyは述べる。

リスクが増幅

Al-Alyと、同じくVAセントルイス・ヘルスケアシステムに所属する疫学者Yan Xieは、COVID-19発症から1カ月以上生存した18万人以上の患者の医療記録を調べた。彼らはこの記録を、未感染者約400万人で構成されている2つの対照群の記録と比較した。1つの対照群は、パンデミックの前にVAヘルスケアシステムを使用した人々(歴史的対照群と呼ばれる)で、もう一方は、パンデミックの最中にVAヘルスケアシステムを使用した、SARS-CoV-2に感染していない人々(同時対照群と呼ばれる)である。Al-AlyとXieは以前に同様の方法を使用して、COVID-19にかかると腎臓病3と、心不全と脳卒中4のリスクが高まることを示している(15ページ「軽症COVIDでも循環器疾患リスクが上昇」参照)。

最新の分析によると、COVID-19にかかった人は、感染後1年以内に糖尿病を発症する可能性が対照群の退役軍人よりも約40%高いことが分かった。1000人当たりで比較すると、糖尿病と診断された人はCOVID-19群では対照群に比べて約13人多かったのである(COVID-19罹患群では1000人当たり48.38人に対し、同時対照群では34.93人、歴史対照群では35.99人であった)。検出されたほとんど全ての症例が、体がインスリン抵抗性になるか十分なインスリンを作れなくなる2型糖尿病であった。

糖尿病を発症する可能性は、COVID-19の重症度が増すにつれて上昇した。入院した、または集中治療室に入った人々は、COVID-19にかかっていない対照群と比較してリスクは約3倍になっていた。

感染が軽度で、以前に糖尿病のリスクファクターがなかった人々でさえ、この慢性疾患を発症する可能性が高くなったとAl-Alyは言う。入院しなくて済んだCOVID-19罹患群について、1年後に糖尿病を発症する人数を対照群と比較すると、1000人当たり8人多かった(COVID-19罹患群では1000人当たり42.70人に対し、同時対照群は34.42人、歴史的対照群は35.37人であった)。肥満の尺度のボディーマス指数(BMI)は2型糖尿病の考慮すべきリスクファクターであることが知られているが、この指数が高い人々はSARS-CoV-2感染後に糖尿病を発症するリスクが2倍以上になった。

世界的な負担

COVID-19症例は現時点で、世界で4億8000万以上確認されている。この衝撃的な症例数を考えると、今回の研究で観察された傾向が真実であるなら、糖尿病リスクのわずかな増加と対応して、糖尿病と診断される人の数が世界中で劇的に増加する可能性を示していると、ベイカー心臓・糖尿病研究所(オーストラリア・メルボルン)の疫学者Jonathan Shawは述べる。

しかし、この調査結果は他の集団には当てはまらないかもしれない。ウーロンゴン大学(オーストラリア)で糖尿病を研究している疫学者Gideon Meyerowitz-Katzは、この研究の対象となった米国の退役軍人は主に高齢の白人男性であり、その多くは高血圧で高体重であるため、糖尿病を発症するリスクが高くなっていると述べている。糖尿病の発症リスクは、若い人たちでははるかに低いし、リスクがより高い民族集団もあると、彼は言う。

Al-Alyは、対照群の一部には、SARS-CoV-2の感染を調べる検査を受けておらず、発見されないほど軽度かまたは無症候性のCOVID-19であった可能性のある人も含まれていることから、データは歪曲している可能性があると付け加えている。

またShawは、COVID-19から回復した人々において糖尿病が明らかに増加していることに関して、それを招く要因が他にもあるかもしれないと言う。例えば、実は既に糖尿病にかかっていたのだが、COVID-19の治療を受けるまではそれが分からなかった可能性がある。

突き止めにくい原因

パンデミックの初期に研究者たちは、若年者や小児の事例報告に基づいて、SARS-CoV-2が他のウイルスと同様に、インスリンを産生する膵臓の細胞に損傷を与え、1型糖尿病を引き起こす可能性があるという懸念を表明した。

しかし、SARS-CoV-2感染と、1型糖尿病の初発と診断された症例との関連に関するデータは、いまだに統一性がない。いくつかの研究5–7では、COVID-19が若い成人や子どもたちの1型糖尿病症例の増加を引き起こしているという証拠は見つからなかった。また、2022年2月に発表された実験室研究でも、SARS-CoV-2がインスリン産生膵臓細胞を破壊するという説に異議が唱えられた8

COVID-19患者で観察された代謝の変化が1年後も持続するかどうかは、すぐには解決できない疑問だ。糖尿病を突然初めて発症する症例について、長期的な傾向を集団レベルで明らかにし、それらを引き起こしている可能性のある原因を突き止めるためには、さらなる研究が必要だとShawは述べる。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2022.220518

原文

Diabetes risk rises after COVID, massive study finds
  • Nature (2022-03-31) | DOI: 10.1038/d41586-022-00912-y
  • Clare Watson

参考文献

  1. Xie, Y. & Al-Aly, Z. Lancet Diabetes Endocrinol. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(22)00044-4 (2022).
  2. Wander, P. L. et al. Diabetes Care 45, 782–788 (2022).
  3. Bowe, B., Xie, Y., Xu, E. & Al-Aly, Z. J. Am. Soc. Nephrol. 32, 2851–2862 (2021).
  4. Xie, Y., Xu, E., Bowe, B. & Al-Aly, Z. Nature Med. 28, 583–590 (2022).
  5. McKeigue, P. M. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2022.02.11.22270785 (2022).
  6. Messaaoui, A., Hajselova, L. & Tenoutasse, S. J. Pediatr. Endocrinol. Metab. 34, 1319–1322 (2021).
  7. Salmi, H. et al. Arch. Dis. Child 107, 180–185 (2022).
  8. van der Heide, V. et al. Cell Rep. 38, 110508 (2022).