1型糖尿病の原因となるT細胞サブセット
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220543
原文:Nature (2022-02-03) | doi: 10.1038/d41586-021-03800-z | A subset of immune-system T cells branded as seeds for type 1 diabetes
自己免疫疾患である1型糖尿病を引き起こす、特定のT細胞サブセットが突き止められた。これは自己免疫疾患の発症を理解する手掛かりになり、また、新しい治療法への道を示す可能性がある。
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1型糖尿病など、多くの自己免疫疾患の特徴は、免疫応答が持続して、解消されないことである。このほどスローン・ケタリング記念がんセンターおよびワイルコーネル医科大学(米国ニューヨーク)のSofia V. Geartyら1は、こうした自己免疫応答の持続は、免疫系のある特定のT細胞サブセットが原因であることを明らかにし、Nature 2022年2月3日号156ページで報告した。この知見は、免疫応答の調節を試みる治療法に関わってくる。
多くの免疫応答の特徴は、感染の際に、標的特異的な防御を行う、いわゆるエフェクター応答が起こることである。例えば、ウイルス感染に対するロバストなエフェクター応答は、CD8 T細胞と呼ばれる免疫細胞によって仲介されることが多い。この応答は、通常は一過性であり、CD8 T細胞が活性化されて、増殖およびエフェクター細胞に分化することで、ウイルス感染細胞を殺傷できる。感染が除去されると、通常は1〜2週間後に、エフェクターT細胞のほとんどが死滅して、防御応答の終了(解消)が明らかになる。ただし、こうしたT細胞の一部は存続して、記憶T細胞集団となり、再び同じ脅威に遭遇した場合に応答できるよう備えている。
しかし、慢性ウイルス感染(図1a)やがんなど、標的が除去されない状況が生じることがある。その場合、T細胞は限られた期間だけ機能するようプログラムされ、その後は活性が失われる。このようにT細胞の免疫細胞活性が喪失する現象は、T細胞の疲弊として知られ、PD1やLAG3など、抑制性受容体タンパク質の発現(転写因子TOXタンパク質が仲介)2によって調節される。抑制性受容体タンパク質は、T細胞のエフェクター機能や増殖能を抑制する「チェックポイント」として機能する2–4。
1型糖尿病などの自己免疫疾患の一部は、CD8 T細胞の異常な応答によって引き起こされる。異常な応答は、健康な組織を標的とするのと同時に、疾患を著しく持続させたり、免疫応答の解消を滞らせたりする。1型糖尿病では、自己反応性CD8 T細胞が膵臓のβ細胞(インスリンホルモンを産生する)を標的として破壊するので(図1b)、血糖値が異常に高くなる5。
a CD8 T細胞と呼ばれる免疫細胞は、慢性ウイルス感染に対する短期間の応答に関与している。この過程では、細胞のT細胞受容体(TCR)がウイルス断片(抗原と呼ばれる)を認識する。またこうしたCD8 T細胞では最初、転写因子TCF1タンパク質の発現が高い。これらの細胞で防御応答を開始させる準備が整っていくにつれて、細胞は増殖し、TCF1発現が低下する。細胞がCD8エフェクターT細胞になると、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)受容体にウイルス抗原を提示する感染細胞を殺傷する。その後、これらの免疫細胞は迅速に疲弊と呼ばれる非機能状態に入り、TOXタンパク質の発現が見られるようになる。こうした細胞はCD8 TPEX細胞と呼ばれる。
b Geartyら1は、自己免疫疾患である1型糖尿病が発症する仕組みを調べるマウス実験について報告している。Geartyらは、CD8 T細胞の中の特定のサブセット(自己免疫性前駆細胞)から自己免疫性メディエーター細胞が生じ、この細胞が膵臓のβ細胞を殺傷することによって疾患が発症することを報告している。この過程は、最初は慢性感染に対する防御の側面を反映しているが、T細胞が疲弊することはない。しかしその理由は明らかになっていない。 | 拡大する
Geartyらは、特徴がよく理解されている1型糖尿病マウスモデルを用いて、疾患の経過の5〜30週間にわたって、β細胞のIGRPタンパク質の断片(抗原と呼ばれる)を特異的に認識するCD8 T細胞の運命を追跡した。Geartyらは、マウス体内において膵臓の流入領域リンパ節と呼ばれる組織の細胞を監視した。CD8 T細胞はこの組織でIGRP抗原を認識することによって初めて活性化され、その後、膵臓でもIGRP抗原を認識して自己免疫によって膵臓を攻撃する。
Geartyらは、5週齢という若齢マウスの膵臓リンパ節および膵臓においてIGRP特異的CD8 T細胞を見いだした。興味深いことに、膵臓リンパ節のCD8 T細胞集団の特徴は、疾患の経過を通して、膵臓のCD8 T細胞の特徴とは異なっていた。膵臓リンパ節のこれらの細胞の特徴は、転写因子TCF1タンパク質の発現が高く、PD1およびCD39のタンパク質の発現が低いことである。対照的に、膵臓のIGRP特異的CD8 T細胞は、TCF1の発現が低く、PD1およびCD39の発現が高いという、より分化した特徴を示した。TCF1は、細胞の自己複製を促進するので、記憶CD8 T細胞の確立と長期的な維持に不可欠である6,7。
TCF1を高発現する幹細胞様集団は、急性感染、慢性感染、腫瘍に対するT細胞応答の際に観察されている6,8–10。さらに、この細胞集団は、自己複製でき、また、より分化したエフェクターT細胞や記憶細胞プールを生み出す「シード(種)」でもある。慢性感染やがんの場合では、分化したエフェクター細胞に、プログラムされた機能制限が適用されて、T細胞の疲弊につながる。Geartyらの知見は、1型糖尿病の発症でもこの細胞移行パターンが反映されていること、つまり、1型糖尿病の発症には分化過程が関与していて、TCF1を高発現する細胞(自己免疫性前駆細胞と呼ばれる)の、TCF1を低レベルで発現するエフェクターT細胞(自己免疫性メディエーターCD8 T細胞と呼ばれる)への移行が見られることを確立している。こうした細胞は、最初は膵臓リンパ節に存在していて、次に、膵臓に移動し、膵臓でさらに分化して、膵臓組織を標的として破壊することで、疾患を引き起こす。この変化は、おそらく抗原認識による活性化によって引き起こされる。
Geartyらは、TCF1を高発現する自己免疫性前駆細胞をマウスに移入すると1型糖尿病を発症するが、TCF1の発現レベルが低い自己免疫性メディエーター細胞を移入しても1型糖尿病は発症しないことを示した(おそらく自己免疫性メディエーター細胞は、膵臓において持続的な組織傷害を引き起こすのに十分な期間、存続できなかったからだと考えられる)。移入された自己免疫性前駆細胞からは、自己免疫性メディエーター細胞だけでなく、TCF1を高発現し自己複製する自己免疫性前駆細胞の集団も生じた。糖尿病を発症したマウスで新たに生じたこれらの自己免疫性前駆細胞を他のマウスに移入すると、レシピエントマウスは1型糖尿病を発症した。膵臓リンパ節からβ細胞特異的な自己免疫性メディエーターCD8 T細胞が流出するのを遮断すると、膵臓において疾患を引き起こす自己免疫性メディエーターCD8 T細胞が、最終的には消失した。これらのデータは、自己免疫性前駆細胞が膵臓リンパ節において自己持続するリザーバーとして機能し、疾患を引き起こす自己免疫性メディエーターの供給源となっていることを示している。
他の動物モデルでの研究から、(慢性感染やがんなどによる)慢性抗原曝露の状況下で同様のタイプの自己複製するT細胞前駆細胞集団が生じ、このT細胞集団が疲弊の兆候を示すことが報告されている〔こうした細胞はT細胞の疲弊前駆細胞(TPEX細胞)と呼ばれる〕8,9,11。しかし、1型糖尿病で観察されたCD8 T細胞(Geartyらが特定した自己免疫性前駆細胞)では意外なことに、応答が持続的に見られたにもかかわらず、TCF1を高発現していて、その機能を保持していた。さらに、この細胞集団から生じる自己免疫性メディエーター細胞は非常に機能的であった。自己免疫性メディエーター細胞は、特に膵臓において、抑制性受容体の発現が通常よりもいくらか高いにもかかわらず、疲弊したCD8 T細胞の重要なマーカー2,4であるTOXの発現が低かった。自己免疫性前駆細胞の遺伝子発現プロファイルを解析すると、従来型の記憶CD8 T細胞あるいはTPEX細胞のいずれとも異なる転写シグネチャーを持つことが明らかになった。
Geartyらの研究から、慢性感染やがんにおいてCD8 T細胞の応答を制限するのに役立つ機構は、1型糖尿病(少なくとも今回研究された動物モデル)には当てはまらないことが示唆された。この研究から生じる重要な2つの疑問は、この自己免疫性前駆細胞集団がCD8 T細胞の持続的な自己免疫応答の一般的なドライバーであるのかどうか、もしそうであるなら、これらの細胞が認識する自己抗原に慢性的に曝露される条件下で、疲弊プログラムが細胞に疲弊を開始させないのはなぜかということである。
これらの疑問に答えることは、疾患を仲介するCD8 T細胞の移動を阻止する新しい治療法を開発する取り組みに役立つ可能性がある。Geartyらは、膵臓リンパ節からこうしたCD8 T細胞の流出を阻止できる薬剤が、1型糖尿病の有望な治療薬になるかもしれないと考えている。しかし、この方法が有効であるのは、自己抗原を認識できるCD8 T細胞の産生が開始された直後に治療を開始した場合であると考えられる。自己免疫性前駆細胞の分子シグネチャーは、従来型の記憶T細胞やTPEX細胞とは大きく異なるため、細胞を選択的に除去したり、細胞に疲弊プログラムを誘導したりすることで、疾患の原因となる免疫応答を停止できる可能性がある。その一方で、これらの自己免疫性前駆細胞が疲弊プログラムを回避する仕組みを理解すれば、がんに対して抗原特異的な応答を持続させるのに利用できる手掛かりが得られるかもしれない。
(翻訳:三谷祐貴子)
Stephen J. Turner、Nicole L. La Grutaは、共にモナッシュ大学(オーストラリア・ビクトリア)に所属。
参考文献
- Gearty, S. V. et al. Nature 602, 156–161 (2022).
- Khan, O. et al. Nature 571, 211–218 (2019).
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- Bluestone, J. A., Herold, K. & Eisenbarth, G. Nature 464, 1293–1300 (2010).
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