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軽症COVIDでも循環器疾患リスクが上昇

COVID-19と診断された人は、少なくとも1年間にわたって、心不全や脳卒中など20種類の循環器疾患の発症リスクが高くなることが報告された。 Credit: Matthias Tunger/DigitalVision/Getty

新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群2;SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)と診断された人は、たとえ軽症だったとしても、少なくとも1年間は循環器疾患の発症リスクが高くなることが、最近の研究で明らかになった。COVID-19から回復した患者は、かかったことのない人と比べて、心不全や脳卒中など多くの疾患の発症率が大幅に高いことが分かったのだ(Y. Xie et al. Nature Med. 28, 583–590; 2022)。

肥満や糖尿病などのリスク因子を持たない65歳未満の人でさえ、その発症リスクは高くなっていた(17ページ「COVID罹患後に糖尿病リスクも上昇」参照)。

この論文の共著者で、米国退役軍人省(VA)セントルイス・ヘルスケアシステムの研究開発責任者を務めるワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)のZiyad Al-Alyは、「これらの疾患の発症リスクは、年齢や喫煙経験の有無には関係なく確かに高くなっていたのです」と話す。

Al-Alyらは、VAが管理している診療録の大規模データベースを利用して研究を行った。COVID-19にかかってから30日以上生存していた15万人以上の兵役経験者と、500万人以上の2つの未感染者群とを比較した。一方は、パンデミック(世界的大流行)期間中にVAの医療制度を利用した「感染していない」人々(同時対照群)で、もう一方は、SARS-CoV-2が流行する前の2017年に医療制度を利用した人々(歴史的対照群)である。

循環器系合併症

COVID-19から回復した人では、感染後1年間にわたって20種類の循環器疾患の発症率が大幅に高くなっていた。例えば、脳卒中の発症率は同時対照群に比べて52%高く、1000人当たりでいえば、COVID-19群では脳卒中を発症した人が対照群に比べて約4人多かった(COVID-19群では11.80人に対し、同時対照群では7.77人、歴史的対照群では7.93人であった)。

心不全の発症リスクは72%上昇し、COVID-19群では同時対照群に比べて1000人当たり約12人多かった(COVID-19群では27.92人に対し、同時対照群では16.31人、歴史的対照群では17.77人であった)。COVID-19で入院した人が回復後に循環器疾患を発症するリスクが高くなっていたのみならず、入院までは至らなかった人でさえも、多くの疾患の発症リスクが高まっていた。

ノースウェスタン大学(米国イリノイ州シカゴ)の循環器専門医Hossein Ardehaliは、電子メールによるNature の取材に対して、「COVIDによる循環器系合併症がこれほど遅れて発症することもあるという研究結果を目にして、正直驚いています」と答えている。重症の場合は、軽症のときよりも合併症の発症リスクがはるかに高くなるため、「ワクチン接種を済ませていない人は、すぐに接種を受けることが大切です」とArdehaliは言う。

この研究は観察研究であることから、注意すべき点もいくつかあるとArdehaliは指摘する。例えば、同時対照群に属する人はCOVID-19の検査を受けたわけではないため、実際には無症状のCOVID-19を経験したことがある可能性も考えられる。また、VAの医療制度を利用するのは白人男性が多いため、この研究の結果があらゆる集団に当てはまるとは限らない。

循環器疾患の増加に対処できるように世界中の医療機関が準備を整えておくべきだという点では、ArdehaliとAl-Alyの意見は一致している。だが、COVID-19の患者数は依然として多く、今でもなお医療資源を圧迫していることから、パンデミックの余波に対する備えにまで医療機関は手が回らないのではないかとAl-Alyは心配している。「COVIDへの対応で判断を誤ってしまった我々ですが、その余波への対応でも同様に判断を誤るように思えてならないのです」とAl-Alyは言う。

翻訳:藤山与一

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2022.220517

原文

Heart-disease risk soars after COVID — even with a mild case
  • Nature (2022-02-10) | DOI: 10.1038/d41586-022-00403-0
  • Saima May Sidik