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温暖化でアホウドリの離婚が増加

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220525a

海水温上昇がアホウドリの“結婚”に冷や水を浴びせている。

マユグロアホウドリ。 | 拡大する

ENRIQUE AGUIRRE AVES/PHOTODISC/GETTY

マユグロアホウドリよりも情愛の深い動物はそういない。マスカラのような黒い眉が付いたこの大型の海鳥は一雌一雄制で、つがいは一生連れ添うことが多い。このロマンチックに見える“結婚”には実際的な目的がある。同じパートナーと連れ添って信頼を築くことは、餌探しの遠征や抱卵の仕事を交代でするために重要なのだ。

だが“離婚”もないわけではない。他の一雌一雄制の動物と同様、雌のアホウドリは繁殖がうまくいかなかった場合には夫婦関係を解消する。この経過は控えめであって、別れる2羽の間で激しい口げんかが起こることもないと、リスボン大学(ポルトガル)の生物学者であるFrancesco Venturaは言う。1年たっても繁殖がうまくいかないと雌が判断した場合、単に相手に見切りをつけ、次の繁殖シーズンには別の雄と一緒に現れる。

離婚率の変化を追跡

こうした離婚は無理からぬものだが、Venturaはフォークランド諸島にあるニューアイランドという岩の小島で繁殖するマユグロアホウドリのつがい約1万5500組を観察する中で、離婚率が毎年変化することに気付いた。研究チームが約15年間の繁殖データを精査した結果、「前年よりも離婚率が明らかに高い年があったのです」とVenturaは言う。

研究チームは詳しく調べるために、アホウドリにとって重要な2つの環境変数に注目した。風速と海面温度だ。それぞれがアホウドリに異なる道筋で影響を与える。風が強いと、高く舞い上がる飛行が容易になり、遠くまで食物を集めに行ける。一方、海面温度が上がると植物性プランクトンの発生が減り、これが海の食物網に連鎖的な影響を与えて、アホウドリが得られる食物が減る。この結果、アホウドリは十分な食物を見つけるために遠くまで飛ばねばならず負担が増す。それによって繁殖スケジュールが狂う他、つがいの間に生じるストレスが高まる。どちらの要因も繁殖の成功率を下げる可能性がある。

VenturaらはProceedings of the Royal Society B に発表した論文で、海水温が上昇するとニューアイランドのマユグロアホウドリの離婚率が高くなると結論付けた。環境要因が一雌一雄制の野生動物個体群の離婚率を高める証拠を示したのはこれが初めてだと、研究チームは言う。

繁殖が成功した後でも

ここで海水温上昇とアホウドリの離婚増を結び付けたのは、繁殖の失敗だった。だが研究チームがさらに詳しく検討したところ、高温の年には、繁殖が成功した後であっても雌が去る確率が高いことが分かった。

「海水温上昇の影響を最も大きく受けた雌は、前年に繁殖に成功した雌でした」とVenturaは言う。「理屈の上では元のパートナーと一緒にいて然るべきなのですが、離婚の例がむしろ多かったのです」。これはVenturaが「パートナー非難仮説」と呼ぶものの帰結かもしれない。環境条件によって生じたストレスとパートナーの能力不足を雌がごっちゃにして、全て雄のせいにしてしまうという見方だ。

Venturaは同様のパターンが他の海鳥集団や一雌一雄制の哺乳動物にも生じている可能性があるとみている。気候変動がもたらし得るこれまでは見逃されていた影響といえるだろう。リバプール大学(英国)で海鳥の繁殖行動を研究しているNatasha Gilliesによると、同様のシナリオは繁殖の選択肢を減らし、鳥の小規模個体群に「甚大な」影響を与える恐れがある。「海面温度の上昇が高離婚率につながるとすると、それは個体群全体の繁殖の成功率を低下させます。最終的に世に送り出されるアホウドリが減り、それが個体群にさらに広く影響を与えることになるのです」とGilliesは言う。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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