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核融合炉のエネルギー発生量で新記録

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220508

原文:Nature (2022-02-09) | doi: 10.1038/d41586-022-00391-1 | Nuclear-fusion reactor smashes energy record

Elizabeth Gibney

欧州トーラス共同研究施設が、核融合により発生したエネルギー量の記録を従来の2倍に更新した。

英国オックスフォード近郊アビンドンの欧州トーラス共同研究施設のトカマク型核融合炉。 | 拡大する

CHRISTOPHER ROUX (CEA-IRFM)/EUROFUSION (CC BY 4.0)

24年間破られなかった核融合反応の記録がついに塗り替えられた。2022年2月9日、欧州トーラス共同研究施設(JET、英国アビンドン)の科学者たちが、核融合によって過去最高の持続的なエネルギーパルスを生成させ、1997年に同研究施設が打ち立てた記録を2倍以上も上回ったと発表した。

JETの拠点であるカラム核融合エネルギーセンター(CCFE)のIan Chapmanセンター長は、「この画期的な成果により、私たちが科学的にも工学的にも最も難しい問題の1つを克服する日が大幅に近づきました」との声明を出した。なお、JETは英国原子力公社(UKAEA)の管理下にあるが、その研究プログラムは欧州各国の核融合研究機関で構成されるコンソーシアム、EUROfusionによって運営されている。

核融合は、太陽のエネルギー源となる反応である。研究者がこの反応を制御してエネルギーを発生できるようになれば、人類はほとんど無尽蔵のクリーンエネルギー源を手にすることになる。しかしこれまでのところ、投入したエネルギー以上のエネルギーを発生できた核融合実験はない。その意味では今回のJETの結果も同じだが、同じ技術と混合燃料を使用する後続の核融合炉プロジェクトが、いずれこの目標を達成できることを示唆する点で重要である。現在南フランスで建設中の国際熱核融合実験炉「ITER(イーター)」は、予算220億ドル(約2兆7000億円)の巨大プロジェクトで、2025年に核融合実験に着手する予定になっている。

ステラレーター型という別のタイプの核融合炉を研究している、アイントホーフェン工科大学(オランダ)の核融合物理学者Josefine Prollは、「JETの核融合炉は、理論モデルで予想された通りの結果を出しました。同じモデルで、ITERもうまくいくと予想されます」と言う。「非常に良い兆候で、私も興奮しています」。

20年の研究の集大成

マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)のプラズマ物理学者で、トカマク型核融合炉(JETで使用されているドーナツ型の核融合炉)を研究しているAnne Whiteは、今回の実験は20年近くに及ぶ研究の集大成であり、科学者がITERの挙動を予想し、その稼働設定の指針にするために重要であると評価する。「核融合研究者の中で、JETのチームを心から祝福したいと思うのは、私だけではないはずです」。

JETとITERは、水素同位体のガスを超高温にしたプラズマを、磁場を利用してトカマク型核融合炉の中に閉じ込める。高温・高圧下でこれらの同位体が融合してヘリウムとなり、中性子の形でエネルギーを放出する(2014年10月号「核融合発電に挑むベンチャー企業」参照)。

発生エネルギーの記録を更新するため、JETでは、水素の放射性同位体で存在量の少ないトリチウムと、安定同位体である重水素を同量ずつ混ぜた燃料を使用した。ITERでも同じ燃料が使われる予定である。トリチウムと重水素が融合する反応では、重水素同士の反応よりもはるかに多くの中性子が発生する。これによりエネルギー出力も高まるが、この激しい反応に装置が耐えられるようにするために、JETは2年以上かけて改修を行わなければならなかった(2021年6月号「JETでトリチウムと重水素の核融合実験を近く開始」参照)。トカマク型核融合実験装置でトリチウムが使われたのは、JETが前回の記録を打ち立てた1997年以来である。

発表によると2021年12月21日の実験では、JETのトカマク型核融合炉は5秒間の核融合「パルス」の間に59メガジュール(MJ)のエネルギーを発生させた。これは、1997年の実験で約4秒間に発生した21.7MJのエネルギー量の2倍以上である。CCFEのプラズマ科学者で今回の実験を監督したFernanda Riminiは、「ピークパワー」は1997年の記録の方が高いが、当時のスパイクは1秒にも満たず、平均のパワーは今回の実験の半分以下だったと説明する。パワーをここまで引き上げるには、20年がかりで実験を最適化し、ハードウエアをアップグレードする(燃料の損失を減らすためのトカマク型核融合炉の内壁の交換など)必要があったという。

Q値

ITERの稼働に極めて重要なプラズマの内部の加熱・冷却・運動を理解するには、数秒間にわたってエネルギーを発生させることが不可欠である、とRiminiは言う。Prollは、「エネルギーの発生を5秒間持続させることは、恐ろしく大変なのです。これが実現できたのは本当に、本当に素晴らしいことです」と語る。

2021年には、レーザー核融合の研究を行っている米国エネルギー省の国立点火施設(National Ignition Facility;NIF)が、別の記録を打ち立てている(2021年12月号「レーザー核融合の新記録を米国の『国立点火施設』が達成」参照)。核融合を起こすために投入したエネルギーに対する発生したエネルギーの比を表すQ値の最高記録を出したのである。Q=1なら投入したエネルギーと同じだけのエネルギーが核融合により発生したことになるが、NIFは0.7というQ値を叩き出し、レーザー核融合の記録としては、JETが1997年に出した数字を上回る画期的な記録となった。ただ、反応はごく短時間で終了し、40億分の1秒足らずの間に1.3MJのエネルギーを発生させただけだった。

Riminiによれば、JETの今回の実験では、0.33というQ値を5秒間維持することができたという。JETの核融合炉はITERの小型版で、プラズマ体積は10分の1しかない。これは、プールと比較した浴槽のようなものだとProllは言う。そのためJETの核融合炉はITERよりも熱を失いやすく、Q値を1にすることは元から期待されていない。しかし、今回と同じ条件および物理学的アプローチをITERに適用すれば、Q値を10にする、つまり、投入したエネルギーの10倍のエネルギーを発生させるという目標を達成できるかもしれないと、Prollは続ける。

核融合研究者は、全ての問題に対する答えを持っているわけではない。例えば、ITERの排気領域の熱にどう対処するかという問題が残っている。ITERの排気領域の面積はJETの核融合炉よりも大きくなるが、対処が必要な熱負荷の増大ほどは大きくならない。どのような設計にすればこの熱に耐えられるか、研究が進められているが、答えは出ていないとProllは語る。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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