News in Focus

子どもは COVID-19にかかっても抗体が誘導されにくい

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220510

原文:Nature (2022-03-10) | doi: 10.1038/d41586-022-00681-8 | Kids show mysteriously low levels of COVID antibodies

Smriti Mallapaty

子どもでは、COVID-19を罹患した際にSARS-CoV-2に対する抗体が不思議なほど誘導されない。子どもは、大人よりもはるかに迅速にこのウイルスを体から排除できるのがその理由と考えられる。

COVID-19にかかった子どものうち何割かは抗体ができなかった。 | 拡大する

Varuth Pongsapipatt/SOPA/LightRocket via Getty

子どもは、新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)に感染し、症状や体内のウイルス量が大人と同程度であっても、このウイルスに対する抗体の産生が大人ほど誘導されないようだ。オーストラリアでの小規模な研究で得られたこの結果は、2022年3月9日にJAMA Network Open で発表された1

SARS-CoV-2感染が起こったとき、子どもは大人よりも、最初に強力な免疫応答を開始し、迅速にウイルスを排除できることを示唆する証拠が増えてきている。今回の報告も、それを裏付ける結果であると研究者たちは言う。しかし、抗体は再感染を防ぐために重要だと考えられているため、この知見から、子どもは今後の感染をどの程度防ぐことができるのかという疑問が浮かび上がる。

メルボルン王立小児病院およびメルボルン大学(オーストラリア)のZheng Quan Tohらは、2020年5月10日〜10月28日にSARS-CoV-2検査で陽性となり、軽度の症状(頭痛や発熱など)もしくは無症状の子ども57人(年齢の中央値4歳)と大人51人(年齢の中央値37歳)において、感染による免疫応答を調べた1

Tohらは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期と回復期に、参加者から鼻と喉のスワブ(ぬぐい液)を採取してウイルスRNA量を測定するとともに、血液試料ではSARS-CoV-2に対する免疫グロブリンG抗体の存在について調べた。その結果、ウイルス量は子どもも大人も同程度であったが、SARS-CoV-2に対する抗体の産生は、大人では76%に見られたのに対し、子どもでは37%にしか見られなかった。

これまでの研究でも、子どもでは大人とは異なる抗体応答が観察されている。コロンビア大学(米国ニューヨーク)の免疫学者Donna Farberらによる解析2から、大人は子どもよりも幅広い種類の抗体を産生し、ウイルス中和活性の高い抗体などが含まれていることが分かっている。Farberは、今回のオーストラリアでの解析は「これまでの知見を確認し、さらに拡大した」ものだと言う。

活発な応答

子どもは、大人よりも堅固な「自然免疫応答」を誘導することが知られている。自然免疫応答とは、体内に侵入した病原体に対する非特異的な応答のことで、防御の最前線を担っている(2021年2月号「子どもはなぜCOVID-19にかかりにくいのか」参照)。それを踏まえると、子どもは、病原体が体内に侵入する際の入り口となる喉や鼻などの場所で、感染に対して大人よりもうまく応答している可能性があり、そのことが、抗体の産生が少ない理由と関係しているのかもしれない。つまり、ウイルスが体内をうろつく前に迅速に排除されるので、抗体を産生させる適応免疫応答が開始しないのだと、Farberは言う。

ウェルカム・サンガー研究所(英国ヒンクストン)の細胞遺伝学者Kerstin Meyerによる研究など3,4から、子どもは感染に対してより強力で迅速な応答を誘導し、そうした応答では自然免疫系が重要な役割を果たしていることが示されている。子どもは若齢であるほど、防御応答が自然免疫系によって駆動されている可能性が高いとMeyerは言う。

しかし、今回のオーストラリアでの研究の共著者であるマードック小児研究所(オーストラリア・メルボルン)の免疫学者Paul Licciardiは、研究チームと共に子どもの一部において自然免疫細胞を調べたとき、「抗体産生が見られなかった子どもの方が強い自然免疫応答を示す」ということはなかったと話す。これは調査すべきことだとLicciardiは言う。

今回、オーストラリアの研究チームは、参加者の一部において血中の免疫細胞のレベルを測定した。すると子どもでは、特定のクラスの抗体産生記憶B細胞や記憶T細胞のレベルが大人よりも低いことが分かった。これは、子どもでは適応免疫応答、つまり、標的への特異性が高く、免疫記憶が生じる応答があまり誘導されていないことを示唆していると、アルバート・アインシュタイン医科大学(米国ニューヨーク)の小児感染症内科医Betsy Heroldは言う。

防御能は不確実

子どもで適応免疫応答がそれほど活発に起こらないならば、子どもは再感染のリスクにさらされているかもしれないと、研究チームは心配している。しかし、Heroldは「そうした結論を導くデータはまだありません」と注意を促している。子どもは再感染を防げないかもしれないが、最初の感染による合併症のリスクは非常に低くなっているとMeyerは言う(2020年8月号「小児で新型コロナ合併症が発生しにくい理由」参照)。

今回のオーストラリアの研究では、パンデミック(世界的大流行)初期に流行していたSARS-CoV-2変異株の感染者のみが調べられたが、感染性の増したデルタ株やオミクロン株では結果が異なるかもしれない。Licciardiのチームは2021年にデルタ株感染者の予備的な解析を行っており、それによれば、ほとんどの子どもと大人で、感染に応答して抗体が産生されていたことが分かった。デルタ株による感染では体内のウイルス量が多くなることと関係しているかもしれないと、Licciardiは言う。現在、オーストラリアの研究チームは、オミクロン株感染者から免疫学的データを収集している。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Toh, Z. Q. et al. JAMA Netw. Open 5, e221313 (2022).
  2. Weisberg, S. P. et al. Nature Immunol. 22, 25–31 (2021).
  3. Yoshida, M. et al. Nature 602, 321–327 (2022).
  4. Loske, J. et al.Nature Biotechnol. https://doi.org/10.1038/s41587-021-01037-9 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度