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世界の主要作物の接ぎ木問題が解決

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220540

原文:Nature (2022-02-10) | doi: 10.1038/d41586-022-00050-5 | A hard graft problem solved for key global food crops

Colin Turnbull & Sean Carrington

接ぎ木は、園芸や研究で、異なる植物体の組織を接合するのに古くから利用されてきた。今回、この技術を単子葉類という植物群に拡張する方法が考案され、イネやコムギ、トウモロコシやバナナなどの主要作物でも接ぎ木ができるようになった。

Reevesら1の成果により、単子葉類、双子葉類を問わず、接ぎ木親和性が種子植物に普遍の能力であることが示唆された。世界の主要作物の多くは単子葉類であり、この技術が今後改良されれば、病害耐性や収量増加などを通じて食料問題の解決につながる可能性がある。 | 拡大する

DannyRM/iStock/Getty Images Plus/Getty

葉が付いている1本の植物の茎(シュート)と根の付いた別の1本の植物(台木)とを接合させる「接ぎ木」という技術は、さまざまな状況で極めて有益なものだ。しかし、主要作物であるイネやコムギなどでは、接ぎ木をしようとしてもうまくいかないことが長く続いていた。このほど、単子葉類で利用することができる接ぎ木法の開発に成功したことを、ケンブリッジ大学(英国)のGregory ReevesらがNature 2022年2月10日号の280ページに発表し、単子葉類のイネやムギ、バナナなどで接ぎ木ができる道が開けた1

植物の接ぎ木の歴史は古く、古代文明までさかのぼる。2000年以上も前に共和政ローマの元老院議員カトー(Cato)が著したDe Agri Cultura(『農業論』)には、ブドウをはじめとする果樹の接ぎ木についての詳細な記述があり、接ぎ木が珍しいものではなかったことが分かる。そして、接ぎ木は現在でも広く行われている。

地球上の植物相には、単子葉類が大量に存在している。単子葉類という名称は、種子の中の葉(子葉)が1枚であることを意味しており、子葉を2枚持つ「双子葉類」と呼ばれる植物群と区別される。単子葉類は、接ぎ木を行うのが難しいことが分かっていた。だが、人類の消費カロリーの半分以上を賄っている禾穀類(イネ、ムギ、トウモロコシなど)は、全て単子葉類である。さらに、もう1つの重要な単子葉類がバナナだ。バナナが主食である国は多く、トマトに次いで世界的に普及した果実となっている。

これまで何度も単子葉類の接ぎ木が試みられてきたが、成功例はごく少ない。このため、接ぎ木は決して主流にはならなかった。実際、多くの専門家は単子葉類の接ぎ木をほぼ不可能な技術と見なし2,3、しばしば失敗の原因を、単子葉類と双子葉類の解剖学的な相違、とりわけ単子葉類には双子葉類に見られる「維管束形成層」という特別な内部細胞層がない結果だと考えた。しかし、ストライガ属(Striga)の存在は逆説的だ。双子葉類であるストライガ属の植物は、トウモロコシやソルガムなどの単子葉類作物の根に寄生して生育し、壊滅的な被害を与える4。この寄生植物は、事実上、宿主の輸送系(維管束系)に自然の接ぎ木のように接続された界面を通じて水や栄養素を得ており、人類が実現に苦労してきたタイプの接ぎ木を、大昔に自然が成し遂げていたことを示している。

Reevesらは、単子葉類の接ぎ木が可能であるという有力な証拠を示し、維管束形成層の欠如が制限因子ではないと提唱した。Reevesらが着目したのは、全ての植物に共通の構造である未成熟の組織だった。これらの組織は、再プログラムが可能で、活着に必要不可欠な接続構造を形成することができる。Reevesらは、外科用の精密な器具を使用することにより、植物の発生において根がちょうど生え始めるタイミングで、発芽する若い実生の接ぎ木を正確に行うことができた。一方、同じ方法を成長の進んだ植物体で試すと、成功率ははるかに低かった。

植物が陸上で繁栄しているカギの1つは、嵐や草食動物の摂食、あるいは単純に人間が行う草刈りなどによる、傷害から回復する卓抜した能力と関連している。大半の脊椎動物と比較して再生能力がはるかに高い植物細胞には分化全能性を持つタイプが多く、失われた部位の穴埋めをすることができる。時として、この再生過程では「カルス」と呼ばれる無秩序化した細胞塊の形成が必要であり、カルスから組織や器官が生み出される。接ぎ木において、切られた2つのピースが接合されたとき、傷害修復機構が両ピース間の接続を形成し、新たな植物体が出来上がる。この過程で重要な特徴が、「木部」および「師部」と呼ばれる、植物体の「配管系統」の接続だ。これは維管束系の大通り的な組織で、糖などの栄養素や水、その他の分子を植物全体に輸送する(図1)。

図1 主要作物の接ぎ木
単子葉類と呼ばれる植物群には、多くの穀物や熱帯作物が含まれる。単子葉類の接ぎ木(根とシュートがそれぞれ異なる植物体に由来する植物体を作り出すこと)では、昔から失敗が続いていた。Reevesら1は、単子葉類の接ぎ木を活着に導く方法を明らかにしている。
a ムギやイネなどの禾穀類の場合、この手法では発芽中の種子を使用する。胚のシュート(幼芽と呼ばれる)を切除し、ドナー種子の幼芽で置換すると、移植された材料と幼根(胚の根を形成する領域)との接合が確保される。
b 接ぎ木された組織の界面(接ぎ木接合部)の未成熟細胞は、再プログラムされて上下2つの部位を接合させる。輸送系の木部組織および師部組織がつながったことにより、シュートと根との間で物質(水や栄養素など)のコミュニケーションや移動が可能になった。接ぎ木は、気候変動によって深刻化する病害やストレスに対処する能力を支えるなど、有益な特性を持つ植物体を作製する方法となる。 | 拡大する

論文によれば、単子葉類の接ぎ木を行ってから数日以内に、切断面に塗布した蛍光色素が接ぎ木部位を越えて上下の両方向に移動したのが認められ、さらに維管束細胞が発達して、接ぎ木は手でつまみ上げても外れないほどの強度を持っていたという。

Reevesらはまた、接ぎ木成立を示す目に見える前兆として、接合面を取り巻く細胞で遺伝子が急速に発現していることを明らかにした。これらの遺伝子は、傷害修復因子や調節タンパク質、ホルモンのほか、細胞周期や細胞増殖の再開、細胞壁の再構築、そして重要な維管束接続の形成に必要な因子をコードしており、その発現が再生過程の特徴となっているものが多い。Reevesらが観察した遺伝子発現パターンの一部は、双子葉類の接ぎ木成立時に見られるものに似ていたが5、単子葉類に特有と考えられるものもあった。

興味深いのは、コムギとソルガムのように、従来の授粉手法では雑種子孫の植物が作れないような、遠く離れた系統の穀類の組み合わせでも接ぎ木できる場合があると示されたことだった。Reevesらはまた、大型園芸店の棚や熱帯温室で探し出せるような植物を活用して、食用や観賞用の単子葉類を大々的に調査した。その結果、ヤシ目やユリ目、ヤマノイモ目の植物をはじめ、パイナップルやリュウゼツラン、カルダモンなどの単子葉類について、いずれも小さな実生を切ってつなぐことによって接ぎ木が成立した。

バナナでも接ぎ木ができた。ただし、バナナは大部分の栽培種が種子を作らない。バナナの接ぎ木を成功させるため、Reevesらは、実験室で培養した微視的なバナナのシュートを遺伝学的に異なる植物体の根に接いだ。それは急速に成長し、見た目が普通のバナナ植物体に育った。現在、世界で最も一般的な商用バナナ、キャベンディッシュ種は、真菌が引き起こす壊滅的な新パナマ病(萎凋病)によって絶滅の危機にあり6、病害抵抗性の根にバナナを接ぎ木できればその脅威に立ち向かえる可能性が生まれる。実際、コムギは立枯病と呼ばれる感染症を引き起こす土壌真菌で簡単に枯死するが、Reevesらは、病害抵抗性を持つエンバクの台木にコムギのシュートを接げばコムギが保護されることを発見した。

双子葉類では、植物病に対処するために類似の手法が既に活用されている。例えば、19世紀にはブドウの木がネアブラムシ類の害虫による壊滅的な被害を受けたが、接ぎ木が窮地を救った。今でも世界中で栽培されているブドウの大部分は、ネアブラムシ抵抗性の台木で育てられている7。ヤムイモ(ヤマノイモ目)などの単子葉類の根菜類では、高収量品種のシュートが病害に弱いことで制限を受ける場合があり、病害抵抗性のシュートの接ぎ木が状況を一変させる可能性がある。

単子葉類で接ぎ木が可能であることをReevesらが示したことにより、今まで双子葉類でしか探究されてこなかったテーマも含め、多くの課題を研究するための扉が開かれた。これまでの接ぎ木研究から、植物の異なる部位同士が互いにどうコミュニケーションしているのかについては、既に知見が得られている。さらに、接ぎ木は植物の発生を変化させる方法にもなる。開花開始の加速8、樹高の操作8、そして枝数の調整はその例だ。分枝の調節に関しては、Reevesらは今回、単子葉類の根が、双子葉類でも使われているシグナルを伝えることを確認した。ストリゴラクトン9,10という分枝阻害ホルモンを作れない変異シュートの分枝を、接ぎ木した台木が抑制できたのだ。植物の茎や枝の数を最適化することは、農業上有益だ。少な過ぎれば穀粒や果実を作る花の数が少なくなるが、多過ぎるとシュートは混み合って細くなり、生産力が低下するからだ。

さらに接ぎ木は、植物の維管束を通じて運ばれる分子の種類を明らかにすることができる。例えば、病原体が葉に侵入すると、局所的な防御反応が活性化され、次いでシグナルがその他の部位に伝わることで、以降の病原体の攻撃に先んじて防御を行う免疫応答が広がる。抗菌性代謝物の分子は、多くの防御ホルモンやストレスホルモン、さらにはRNAやペプチド、タンパク質といった、その他の大型のシグナル伝達分子と同じように、接ぎ木部位を越えて移動することができる11

現在禾穀類に使用されている何百万ヘクタールもの広大な農地に接ぎ木を適用するのは無理だろう。耕作地に移植する前に全ての実生の接ぎ木を行うのは非現実的だ。しかし、価値の高い作物や、ヤシのように寿命の長い種では、接ぎ木に大きな利益があると考えられる。それは、ブドウをはじめとする果樹、メロン、トマトなど、双子葉類に接ぎ木が広く利用されているのと同じだ。接ぎ木は、局地的な病害虫問題に対応した特別な根系を開発するための方法となる可能性がある。また、干ばつへの対処、あるいは栄養素不足や高塩分の土壌への適応でも植物を救うかもしれない。そうした問題には、気候変動やある種の集約農業によって深刻化しているものが多い。

また接ぎ木は、優良植物品種にストレス応答因子を導入する上で、通常の育種法を利用するよりも優れていると考えられる。このことは、その因子が栽培化されていない野生の近縁種のものである場合、特に重要となる。通常の育種法ではゲノムが予測不能な形で混じり合い、得てして作物の生産が質的、量的に損なわれてしまうためだ。

今後数年間で、単子葉類の接ぎ木は改良され拡大されるはずだ。それにより、この技術の実用化に道が開かれるに違いない。単子葉類の接ぎ木は、気候変動が地球の生態系に与え続けるさまざまな圧力に対して植物を頑健に保つことができる、新たな武器になると考えられる。

(翻訳:小林盛方)

Colin Turnbullはロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)に所属。 Sean Carringtonは西インド諸島大学ケイブヒル校 (バルバドス・ブリッジタウン)に所属。

参考文献

  1. Reeves, G. et al. Nature 602, 280–286 (2022).
  2. Gautier, A. T. et al. J. Exp. Bot. 70, 747–755 (2019).
  3. Turnbull, C. G. N. in Plant Developmental Biology: Methods and Protocols (eds Hennig, L. & Köhler, C.) 11–26 (Humana, 2010).
  4. Runo, S. & Kuria, E. K. PLoS Pathog. 14, e1006731 (2018).
  5. Melnyk, C. W. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 115, E2447–E2456 (2018).
  6. Viljoen, A., Ma, L.-J. & Molina, A. B. in Emerging Plant Diseases and Global Food Security (eds. Ristaino, J. B. & Records, A.) Ch. 8, 159–184 (APS, 2020).
  7. Powell, K. S., Cooper, P. D. & Forneck, A. Adv. Insect Physiol. 45, 159–218 (2013).
  8. Warschefsky, E. J. et al. Trends Plant Sci. 21, 418–437 (2016).
  9. Gomez-Roldan, V. et al. Nature 455, 189–194 (2008).
  10. Umehara, M. et al. Nature 455, 195–200 (2008).
  11. Kondhare, K. R., Patil, N. S. & Banerjee, A. K. J. Exp. Bot. 72, 4218–4236 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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