Research Highlights

リサーチハイライト

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220502

「夜に太陽光を利用する方法」「DNA鎖がブロックの自己組織化を促す」「ツタンカーメンの鉄剣は空からの贈り物 」他(2022年2月3日〜2月24日号)。

水素ステーションの整備も進められているが、水素ガスは貯蔵が難しい。 | 拡大する

DAVID PAUL MORRIS/BLOOMBERG VIA GETTY

夜に太陽光を利用する方法

太陽光のエネルギーを利用して、夜間でも必要に応じてクリーンな燃料である水素を生成できる分子が作られた。

太陽電池(光エネルギーを電気エネルギーに変える装置)を使って水素を作れば、太陽が出ていないときでもエネルギーを利用することができるが、水素は貯蔵コストが高い。一方、太陽光で発電した電気を貯蔵した蓄電池を使って水素を作ることもできるが、この過程は効率が悪いことが多い。

ウルム大学(ドイツ)のCarsten Strebらは、太陽光のエネルギーを化学的に貯蔵した後、必要に応じて、そのエネルギーを使って水素を放出できる分子を作り出した。この分子は、大きな金属酸化物を、希土類元素であるルテニウムをベースにした2個の光感受性分子と結合させた化合物である。彼らはこの化合物の分子を、アスコルビン酸ナトリウムという塩を含む溶液に入れた。

ルテニウムをベースにした光感受性分子に光が当たると、その部分の原子がエネルギーを吸収する。すると、光感受性分子に結合している金属酸化物が塩から電子を受け取って貯蔵する。この「液体燃料」は24時間以上にわたり安定していた。

最後に酸を加えると、電子が酸の水素イオンと結合して水素ガスを作った。この研究は、将来の液体エネルギー貯蔵システムの青写真となるだろう。

Nature Chem. https://doi.org/gpbm5n (2022).


軟X線画像で捉えた細胞小器官のダンス

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T. Matsui et al./Meteorit. Planet. Sci.

今回報告されたX線を用いた画像技術を使えば、細胞内の立体構造だけでなく、細胞小器官が相互作用する様子まで、10分程度で明らかにすることができる。

電子顕微鏡などの技術では、細胞の内部を高い解像度で画像化することができる。しかし、これらの手法では通常、細胞の切断、染色、脱水などの時間のかかる段階を踏む必要がある上、細胞を生きたまま観察することはできない。

南カリフォルニア大学(米国ロサンゼルス)のKate Whiteとカリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)のCarolyn Larabellらは、軟X線と呼ばれる低エネルギーのX線を用いたCTスキャンのような「軟X線トモグラフィー(SXT)」という手法により、細胞を傷つけることなくその全体を多角的に撮影した。それをコンピューターで再構成することで、試料を観察する。

SXTを用いて、生きた膵臓細胞の中をのぞき込んだ著者らは、細胞にエネルギーを供給するミトコンドリアやインスリンを蓄える小胞など、さまざまな細胞小器官の形状や化学組成、相対的な位置を定量することができた。また、インスリンの詰まった小胞とミトコンドリアの相互作用も観察することができた。

著者らは、この技術は薬物に反応した細胞内の変化の定量に役立つ可能性があると期待している。

Structure https://doi.org/hg9j (2022).


DNA鎖がブロックの自己組織化を促す

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OIST

DNA鎖を利用して、肉眼で見える大きさのゲルブロックを集合させることができる(写真)。

1本のDNA鎖は、適切な構成要素が適切な順序で並んでいる別のDNA鎖と対合する。研究者たちはDNA鎖のこの性質を利用して、微小な構成要素を集合させ、さまざまな形の粒子を形成させてきた。しかし、DNA鎖を利用して組み立てられる構成要素の直径は、ナノメートルやマイクロメートルのレベルであることがほとんどだった。

今回、沖縄科学技術大学院大学の横林洋平とVyankat Sontakkeは、一辺が1〜2mmのゲルブロックの表面に反応性分子基を付着させた。それぞれの分子基はDNA鎖の末端と反応し、DNA鎖をブロックに融合させた。

ゲルブロックを液体の中で振り混ぜると、対合するDNA鎖が付着したゲルブロック同士が結合した。ゲルブロックは、表面のDNA鎖の密度に応じて、対合したり、指でつまめるほどの大きさの集合体を形成したりした。さらに、特別に設計した1本鎖DNAを溶液に加えると、対合したDNA鎖がそれと置き換わり、集合体が分解されることも示された。

J. Am. Chem. Soc. 144, 2149–2155 (2022).


太陽光発電のクリーンさを台無しにするアルミニウム

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ALEXANDER RYUMIN/TASS VIA GETTY

太陽光発電は矛盾をはらんだ技術である。気候変動を抑制するためのカギとなる半面、太陽電池パネルのフレームや付属品にはアルミニウムが必要で、アルミニウムの採掘と加工のために大量の温室効果ガスが排出されているからだ。

ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア・シドニー)のAlison Lennonらは、このトレードオフ関係を調べるため、太陽光発電産業が必要とするアルミニウムの量をモデル化した。著者らは、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにし、世界の気温の上昇を産業革命以前の水準から2℃以内に抑えるための戦略の一環として、2050年までに太陽光発電によって60兆ワット以上の電力を作り出せるようになる必要があると仮定した。研究者たちの試算によると、これだけの電力を作り出せる太陽光発電設備を設置するには、2050年までに4億8600万tのアルミニウムが必要になるという。

著者らは、アルミニウムの資源量は豊富だが、太陽電池の製造に必要とされる量は非常に多く、その生産はクリーンエネルギーへの取り組みを台無しにしかねないと指摘する。また、アルミニウムの精錬には多くの電力が必要であるため、アルミニウムのカーボンフットプリントを減らすためには、アルミニウムのリサイクル量を最大限に増やすだけでなく、発電の速やかな脱炭素化が不可欠であると結論付けている。

Nature Sustain. https://doi.org/hd22 (2022).


銀河の中心に数百本の奇妙な巻きひげ

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I. HEYWOOD, SARAO

銀河系には明るい電波を放射する謎のフィラメントがある。その本数は、科学者が考えていた数の10倍以上であることが分かった。

電波天文学者のFarhad Yusef-Zadehがこうしたフィラメントを最初に共同で発見したのは1980年代のことだった。フィラメントの正体は、磁力線の周りを光速に近い速度でらせん状に運動する電子である。今回、ノースウェスタン大学(米国イリノイ州エバンストン)のYusef-Zadehらは、南アフリカ共和国の北ケープ州に設置された64基のアンテナからなる電波望遠鏡「MeerKAT」を使い、約200時間をかけて、銀河系の中心部の写真を20枚撮影した。

こうして得られた合成画像から、超新星爆発によって生成した衝撃波の広がりや1000本近いフィラメント(写真は水平構造から伸びるフィラメント)など、さまざまな特徴が明らかになった。フィラメントのスペクトルの特徴は、その起源が超新星爆発とは無関係であることを示唆している。

考えられる説明は、銀河系の中心部にある超巨大ブラックホール「いて座A*」の過去の活動周期に起源を持つのではないかということだ。不思議なことに、いくつかのフィラメントは、くしの歯のように等間隔に並んで集まっているように見える。

Astrophysical. J. 925, L18 (2022).


ガスコンロは火がついていなくても温室効果ガスを排出する

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ANGEL GARCIA/BLOOMBERG VIA GETTY

ガスを燃焼させるタイプのコンロやオーブンは、米国にあるものだけでも毎年自動車50万台分に相当する温室効果ガスを大気中に放出している可能性がある。

米国の家庭用キッチンの約3分の1には天然ガス対応のコンロやオーブンが設置されている。天然ガスの主成分はメタンである。メタンは温室効果ガスで、大気中に滞留する時間は二酸化炭素よりは短いものの、温室効果ははるかに強い。メタンは燃焼により分解されるが、調理中や配管からの漏れにより、どうしても未燃焼ガスが出てしまう。

スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)に在籍していたEric Lebelらは、米国の53軒の家庭でガスコンロとガスオーブンから排出されるメタンの量を測定し、ガス器具の使用後に未燃焼メタンがどの程度周囲の空気中に含まれているかを調べた。その結果、ガス器具で使用されたガスの0.8〜1.3%が未燃焼メタンとして排出されていることが明らかになった。

未燃焼メタンの一部は調理中に排出されていたが、76%はガス器具が使われていない間に排出されていた。これらの数字を全米レベルに換算すると、ガスコンロとガスオーブンから1年間に排出されるメタンの気候への影響は、ガソリン車50万台が1年間に排出する二酸化炭素に匹敵することになる。

Environ. Sci. Technol. https://doi.org/gn93nn (2022).


ツタンカーメンの鉄剣は空からの贈り物

刃のニッケル原子の分布パターンから、ツタンカーメンの短剣が比較的低温で鍛造されたことが分かる(上・中:短剣の両面、下:短剣が1925年に発見された時の写真)。 | 拡大する

V. Loconte et al./Structure

ツタンカーメン王の墓から発見された鉄剣の化学分析により、その鉄がどのような種類の隕石に由来しているかが判明し、この鉄剣が他国の王から贈られたものである可能性が示唆された。

ツタンカーメンの治世は紀元前14世紀で、この時代のエジプトには製鉄技術はなかった。これまでの研究で、この鉄剣に使われた金属は鉄–ニッケル隕石に由来するものではないかと推定されていたが、鉄剣の製造法についてはほとんど分かっていなかった。

千葉工業大学(習志野市)の荒井朋子らは、鉄剣の刃にX線を照射し、その蛍光を分析することで、金属元素の分布を調べた。その結果、ニッケルの分布パターンは、「オクタヘドライト」と呼ばれるタイプの隕石に典型的な網目状構造であることが分かった。この模様をはじめとする隕石特有の特徴が保存されているのは、刃が比較的低い温度で鍛造されたからに違いないと、研究チームは述べている。

また、鉄剣の柄の部分の元素組成は、柄を装飾している石が、当時のエジプトでは一般的でなかった漆喰で接着されていたことを示唆していた。著者らは、この鉄剣はエジプト国外で作られたもので、古代の外交文書にアナトリアの王からツタンカーメンの祖父に贈られたと記載されている鉄剣ではないかと推測している。

Meteorit. Planet. Sci. https://doi.org/hg9k (2022).

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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