Editorial

20年を経たBRICSは互恵的な科学協力から前へ進めるか

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220305

原文:Nature (2021-12-01) | doi: 10.1038/d41586-021-03568-2 | ‘BRICS’ nations are collaborating on science but need a bigger global platform

BRICS諸国は、20年前に発表された政策研究報告書をきっかけとして、互恵的な研究協力を推進しているが、欧米主導の政策決定への参加は認められていない。

2018年にヨハネスブルグで開催されたBRICSサミットにて。2021年は100を超えるイベントが開催され、研究者も多く参加している。 | 拡大する

ALEXEY NIKOLSKY/AFP/Getty

経済学者のジム・オニール(Jim OʼNeil)が、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を取って「BRIC」という言葉を造語してから20年が経った。投資銀行ゴールドマン・サックスのグローバル経済調査部長だったオニールは、社内向け政策研究報告書の中で、この4カ国がG7(フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7カ国で構成されるグループ。G7サミットは、この7カ国の政府間の政治フォーラム)の経済大国よりも高い成長率を記録しているとした(go.nature.com/3pgtqsd)。G7のような世界の政策決定クラブは通常、米国と欧州が主導権を握っているが、オニールは、BRICの代表者を招待すべきだと提言した。世界の経済力のバランスが傾いてきており、グローバル・ガバナンス(さまざまな国や地域の私人/公人と民間団体/公的機関が力を合わせて、共通の問題を公式/非公式な方法で解決する継続的なプロセスのこと)を担う巨大機関にそのことが反映される必要があると彼は主張した。

オニールのこの予測には新規性がないという見方もできる。産業化以前の段階にあった中国やインドが経済大国になるという注目すべき予想は、少なくとも1950年代にマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)のウォルト・ホイットマン・ロストウ(Walt Whitman Rostow)をはじめとする経済学者たちによって示されていたからだ。しかし、オニールの予測の後、異例の展開があった。彼の分析を受けて、この4カ国の首脳が、研究協力の強化に重点を置き、国家間の結び付きを強めるための組織を設立したのだった。これらの国々は、自らをBRICsと呼んだ(2010年末に南アフリカ共和国が加わり、2011年にBRICSと改められた)。

2021年は、BRICSの研究カレンダーの中でも特に忙しい年だった。輪番制の議長国だったインドは、100以上のイベントを開催した。その中には、天文学者やエネルギーの研究者、健康関連の研究者の会議だけでなく、医学研究者や医師の会議も含まれている。

それに加えて、BRICSの農業、保健、宇宙関係の当局者の会合も開かれた。さらに11月末には、BRICSの科学担当大臣がニューデリー(インド)での協議を終え、5カ国の若手イノベーターやスタートアップ企業を結び付け、技術移転を促進するためのセンターを設立する計画を発表した。このセンターは、極地・海洋技術、天文学、気候・エネルギー、光学、生物工学などの分野で協力しているBRICSの13の科学ワーキンググループに加えられる。これ以外にもBRICS全体をカバーする50以上の大学が参加するネットワークもある。

こうした協力関係では、各国が単独で進めるには困難を伴うであろう分野で知識と技術革新が生み出され、データが共同利用され、各国が異なる強みを発揮することが認識されている。例えば、天文学のワーキンググループでは、各国の地上望遠鏡を結んだネットワークの実現可能性を検討している。BRICS各国の宇宙機関は、気候や自然災害に関するリモートセンシングデータの共同利用を計画している。また、気候とエネルギーに取り組むグループでは、ブラジルのアマゾン川流域の気象と気候に関する専門家と中国の太陽光発電システムの研究者が結集している。国連の持続可能な開発目標を達成することは、BRICSの科学協力における不変の課題なのだ。

その一方で、足りない部分が気になる。世界の結核症例の約半数がBRICS諸国に集中し、多剤耐性結核の症例数もBRICS諸国が世界で最も多い。BRICS内での結核研究は、明らかに優先順位が高いと考えられるのだが、そうなっていないのだ。BRICSには結核研究ネットワークがあり、2021年8月には結核とCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の接点を研究するための先駆的なゲノム・サーベイランス・ネットワークが発表された。しかし、この分野の研究は、資金提供や共同研究を今よりもかなり高いレベルに引き上げて実施すべきものかもしれない。

利害の衝突

もう1つ、取り組まねばならないのに放置されてきた、より大きな「抜け」がある。オニールは、最高レベルの政策決定の場にBRICS諸国を加えることを2001年に呼びかけたが、ほとんど注目されなかった。そして、パンデミック(世界的大流行)収束などのグローバルな課題に対し、BRICS諸国を含む世界の経済大国によるG20グループが協力して取り組むと一時的に期待されたが、現在も実現していない。しかし、オニールの提言は、注目されないまま終わったわけではなかった。

インド・ニューデリーにあるシンクタンク、開発途上国研究情報システムセンター(Research and Information System for Developing Countries;RIS)の研究者Sachin ChaturvediとSabyasachi Sahaは、2021年のBRICSの会議に提出した論文の中で、国連などの組織は、最貧国や最も力の弱い国の利益を守れていなかったと主張している。低中所得国にワクチンを迅速に提供できなかったのが端的な例だ。インドと南アフリカ共和国が、考えを同じくする100カ国以上を率いて、パンデミックの際には知的財産の保護規定の適用を除外し、医薬品やワクチンをより早く低中所得国に届けることを求めているのは決して偶然ではない。

国連主導のグローバル・ガバナンスのシステムに対する低中所得国の信頼が失われつつある

同様に、2021年11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26(気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、中国とインドが一致団結して、今後の脱炭素化の約束は、電気を利用できない地域への化石燃料供給を拒否して、こうした地域に犠牲を強いるやり方で成り立つようなものであってはならないと警告した。低中所得国のこのような行動を見れば、国連主導のグローバル・ガバナンスのシステムに対する低中所得国の信頼が失われつつあることは明白だ。彼らは、高所得国は低中所得国の提案を否定する、あるいは低中所得国の見解に耳を傾けないと考えているのだ。これは、私たち全員が懸念すべきことである。

低中所得国が共通の目標に向かって協力し、研究インフラを共同で構築することは絶対に必要だ。しかし、それと同時に、既存のG7や世界貿易機関(WTO)、世界保健機関(WHO)などの国際協力を議論する場で、BRICS諸国をはじめとする全ての低中所得国を対等の存在と認識することも極めて重要だ。

権力を握る者たちは、低中所得国をパートナーとして見ることを学ばなければならない

世界を変えるほどの影響力を持つ政策分析に贈られる賞があるとすれば、オニールの報告書は受賞の最有力候補になるだろう。しかし、この報告書にとっての真の試金石は、既成勢力がオニールの提言に耳を傾けるかどうかである。グローバル・ガバナンスが信頼に足るものとなるには、権力を握る者たちが、低中所得国を援助の受け手としてではなく、パートナーとして見ることを学ばなければならない。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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