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学術界サバイバル術入門 — 助成金を申請する④:申請書の作成

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220334

前回までで、申請書を説得力のあるものにする準備が整いました。今回は、研究計画調書などのフォーマットに沿って、研究提案を実際に作りましょう。

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学術界サバイバル術入門
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前回の記事では、関連性のある研究課題(リサーチクエスチョン)、つまり分野に付加価値を与える「新規性のある課題」と、それに取り組むための「目的」を明確にすることの重要性についてお話ししました。そして私たちは今、申請書を書き始める絶好の状態にあります。

用意はいいですか? 始めますよ。

申請書を作成する

他の重要計画と同様に、始める前には常に「何を書くか」を計画する必要があります。また、読者(この場合は審査員と助成金配分機関)を常に念頭に置いてください。

この「助成金を申請する」シリーズの最初で、助成金配分機関の資金は有限であることを説明しました。ですから、彼らは、受諾する研究提案から投資に見合う十分な見返りが得られること、そして同時に、リスクを最小限に抑えられることを確信したいと考えています。あなたの研究が良い投資先であると助成金配分機関が納得するには、申請書を書く際に以下の重要な疑問を考慮することが大切です。

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  • 質が高く、国際的に競争力のある科学研究か?
  • 重要な問題に取り組んでいるか?
  • 新規性があり刺激的かつ興味深いものか?
  • プロジェクトの目的と見込まれる成果は明確か?
  • 資金が得られた場合、助成金配分機関には何が提供されるのか? 例えば、論文や特許など。
  • 予備データは申請する研究提案を裏付けているか?
  • 研究は実行可能か? 計画通りに進行しない場合に備えて、緊急時対応計画はあるか?
  • 申請者(あなたのチーム)は、助成期間内にプロジェクトを完了できるか?

申請書で、これらの疑問の答えを審査員と助成金配分機関の両方に確実に示すことで、成功率を高めてください。

伝える必要があるものが明確になったら、まず骨子を準備します。骨子から始めるのが一番良い理由は下記の通りです。

  • 申請書自体よりも書くのが簡単なため、ストレスが少ない。
  • 申請書の原稿よりもはるかに短いため、同僚に読んでもらってフィードバックを得るのが容易である。
  • 完全に書き上げた申請書よりも、同僚の意見に基づいて更新や変更を簡単に行える。

さて、骨子を準備するときは、助成金の申請者用のガイドラインを読んで、どんなことを含める必要があるか、調べておくことをお勧めします。以前に説明したように、科研費にはさまざまな種目がありますが、含めるべき内容には共通の構造があります。

  1. 研究目的と研究方法
  2. 申請する研究提案の構想につながった経緯
  3. 研究を実施する申請者の遂行能力と研究環境
  4. 人権保護と法令順守に関連する問題

次に、セクションごとに、含めるべき内容と、アイデアを効果的に伝える方法について説明します。

1. 研究目的と研究方法

科研費では、このセクションに最大3ページ書くことができます。これは、申請書の大部分を占めます。小さなセクションがいくつかあるので、記入の際には、読者に各セクションが明確に分かるように、見た目の工夫をしてください。

概要

これは申請する研究提案を10行で要約したものであり、論文の抄録(abstract)に似ています。審査員はここを最初に読むので、彼らの第一印象になります。しっかり取り組んで好印象を与えましょう! 審査員は40〜50の申請書を読んでいることを忘れないでください。ですから注目してもらうには、目立たせなければなりません。概要には、以下の4つの重要な要素が含まれていなければなりません。

  • 研究提案の紹介:研究提案で達成しようとしていることを1文にまとめ、はっきりと示す必要があります。
  • 背景と研究の疑問:まず、トピックについて既知のことを、2つか3つの文章で説明し、次に、分かっていないことを強調します(つまり、研究課題のことです。提案の背後にある研究の動機をここで述べます)。
  • 目的と方法:さらに2つか3つの文章で、まずあなたの目的(この時点で慎重に作成されていなければなりません)を紹介し、次にそれらの目的を達成するための研究計画の概略を簡潔に説明します。
  • 影響と利益:締めくくりとなる1つか2つの文章で、この研究提案によって予想される影響と適用、そしてそれが分野や社会にどのように役立つかをはっきりと示す必要があります。

本文

本文には、次の3つの重要な要素があります。

  • ①科学的背景
  • ②研究の目的、重要性、独創性
  • ③期待される結果

①科学的背景

提案では「研究の目的、重要性、独創性」が最も多くのスペースを必要とするため、「科学的背景」は短くすることをお勧めします。ここでは、あなたのトピックについて既知のことを審査員に知らせます。ですから、ここで文献を簡潔に要約するわけですが、文献には発表論文、プレプリント、さらにはリポジトリも含まれる場合があります。これまでの経緯の完全な概要を示せば、読者はそのトピックに関してあなたのことを「信頼できる研究者」と考えることでしょう。また、このセクションでは、研究課題が重要である理由を強調することも不可欠です。なぜなら、これが、提案に資金を提供する動機となるためです。

②研究の目的、重要性、独創性

前述のように、ここは提案の中で最も長い部分になります。ここでは、具体的な「目標」「方法」、およびあなたが提案する研究の「独創性と重要性」を紹介する必要があります。

目標:研究の全体的な目的を達成するために、具体的な「目標」を2〜3個設定しなければなりません。目的に取り組むための異なるアプローチを2〜3個提示するわけです。目標は相互に依存していないことが重要です。そうでないと、1つの目標を達成できなかった場合、他の目標も無効になってしまうからです。

2019年に始まった東京大学の岩佐義宏教授の助成金の申請書を例に考えてみましょう1。彼の研究提案に書かれている「研究の目的」は、次のとおりです。

The purpose of this research is to fabricate a variety of van der Waals (vdW) heterostructures and identify novel properties and functions impossible to realize in single materials.(この研究の目的は、ファンデルワールス(vdW)ヘテロ接合からなるさまざまな新物質を作製し、単一物質では決して得られない新しい特性と機能を見いだすこと)

次に、彼はその目的を達成するための明確な目標を列記しました。

  • 目標1:Evaluate symmetry control of vdW heterostructures, and their nonreciprocal transport and their photovoltaic effects.(vdWヘテロ接合の対称性制御、およびそれによる非相反輸送現象と光起電力効果を評価すること)
  • 目標2:Evaluate the novel superconducting and magnetic phases arising from proximity effects at the vdW heterointerfaces.(vdWヘテロ界面での近接効果に起因する新しい超伝導および磁性相を評価すること)

両方の目標が、目的全体に関連していますが、どちらの目標も他方に依存していません。これにより、資金提供の観点から、研究提案はより強固で、低リスクになります。

方法:ここでは、各目標を達成するために使用する方法を紹介します。いくつかの技術は複数の目標で使用されますが、他の技術は特定の目標に限られる場合があります。従って、技術がどの目標に使用されるかを示すと、審査員に分かりやすいでしょう。

審査員はあなたのトピックに関連する技術的専門知識を持っていない可能性があるため、研究設計を紹介するときは説明を明確かつシンプルにしましょう。技術を視覚的に表現すると分かりやすいと思われる場合は、イラストや略図の使用も検討できますが、申請書の貴重なスペースを占めることにならないよう、注意が必要です。

提案した方法でうまくいかない場合に備えて、緊急時対応計画を含めておくことも考慮すべきです。助成金配分機関に「この提案はリスクが高い」と思われないようにすることが大切なのです。

「方法」セクションを準備する際に考慮しなければならないもう1つの重要事項は、予算です。提案した研究設計は、あなたが要求している予算で賄えますか? そうでない場合、審査員が研究提案を評価する際に良い影響を与えません。科研費がカバーするのは、あなたの研究提案に関連する直接経費のみで、以下のようなものが含まれます。

  • 機械器具や備品の費用。ただし、施設設備や建物の費用は含まれない。
  • 化学薬品、実験動物、ガラス製品などの消耗品の費用。
  • 国内および海外の旅費(会議またはフィールドワーク用)
  • ポスドクと技術者などの人件費
  • 雑費

独創性と重要性:この部分は、あまり長くすべきではありません。1段落程度にしましょう。しかし、あなたの研究が既に行われた研究とどのように異なるかを示す必要があります。ここで、あなたの提案する研究の「独創性」が、評価に大きく物を言うのです。さらに、あなたの研究で誰が利益を得るかを強調する必要もあります。もちろん他の研究者も恩恵を受けるかもしれませんが、社会に幅広い影響を与える可能性もあります。助成金配分機関は公的な組織ですから、社会に利益をもたらすことは、投資に対する大きな見返りと見なします。

例えば、助成金申請の最近の成功例である、慶應義塾大学の柚﨑通介教授の研究提案2を見てみましょう。彼は細胞外足場タンパク質による神経シナプスの調節に研究の焦点を合わせていて、この研究の幅広い影響を、次のように述べることで強調しています。

Structure-based design of new synthetic synaptic connectors is expected to pave the way for new treatments in neuropsychiatric or neurological disorders caused by synaptic abnormalities.(新しい人工シナプスコネクターの構造ベースの設計は、シナプス異常によって引き起こされる神経精神障害または神経障害の治療に新たな道を開くと考えられる)

③期待される結果

本文の最後のセクションでは、目標ごとに期待される結果を明確に示す必要があります。さらに、そうした結果が得られた場合、研究提案の全体的な目的を達成するためには、その新しい情報に基づいて次にどのようなステップを構築したらいいでしょうか? 期待される結果ごとに1つの段落に収めれば十分でしょう。まず、期待される結果を紹介し、次にそれらの結果に基づいて構築する後続の研究を紹介します。

「助成金を申請する」シリーズは、次回が最後となります。次回は、申請する研究提案につながった研究の経緯、研究を遂行する能力、人権保護と法令順守など、申請書の残りの部分について説明します。また、助成金の申請書を取り巻く重要な倫理的問題と、申請書を競合相手よりも目立たせるのに役立つ執筆上の工夫についても説明します。

次回は、2022年5月号の予定です。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。


Nature Research Academies は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金作成、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。

参考文献

  1. https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/12_kiban/ichiran_r01/e-data/r_1_eng_19h05602.pdf
  2. https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/25_tokusui/data/kadai_shinki_02/r02_e112_yuzaki.pdf

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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