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COVID-19の新しい飲み薬:5つの質問

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220207

原文:Nature (2021-11-18) | doi: 10.1038/d41586-021-03074-5 | COVID antiviral pills: what scientists still want to know

Heidi Ledford

臨床試験の結果と同等の有効性を実際に発揮できるならば、モルヌピラビルとパクスロビドはパンデミックの今後の流れを変える可能性がある。

新しい経口抗ウイルス薬であるモルヌピラビルとパクスロビドは、COVID-19による入院を減らすことができる。 | 拡大する

SERGEI SUPINSKY/AFP VIA GETTY

新型コロナウイルス感染症(COVID-19;SARS-CoV-2が引き起こす感染症)に有効な抗ウイルス薬が一気に2種類登場する。それも、どちらも飲み薬として服用できる。COVID-19発症後すぐに治療を受けた患者を対象とした臨床試験において、これらの抗ウイルス薬は、この感染症による入院と死亡を減少させることが確認されたのだ。

モルヌピラビル(molnupiravir)は、メルク・アンド・カンパニー社(本社は米国ニュージャージー州ケニルワース。以下、メルク社)とリッジバック・バイオセラピューティクス社(Ridgeback Biotherapeutics;米国フロリダ州マイアミ)が共同開発した抗ウイルス薬で、2021年11月4日に英国で初めて承認された。「ラゲブリオ(Lagevrio)」という商品名で販売される予定のこの薬が、軽症または中等症のCOVID-19患者の入院リスクを半減させたと両社が発表してから、わずか1カ月後のスピード承認だった。モルヌピラビルが英国で承認された翌日、ファイザー社(本社は米国ニューヨーク)は、同社の抗ウイルス薬パクスロビド(Paxlovid、商品名パキロビッド)がCOVID-19患者の入院を89%減少させたと発表した。

COVID-19の治療薬としてこれまでに承認されていた抗ウイルス薬は、高価な上、医療機関で静脈内投与する必要があった。新しい2種類の薬は製造コストが比較的低く、自宅で内服できるのが長所だ。国連の支援組織で、医薬品の公平な分配を目指して活動している医薬品特許プール(Medicines Patent Pool;本部はスイス・ジュネーブ)の事務局長Charles Goreは、「ワクチンの普及が進んでいない世界の大部分の国々にとって、まさに天の恵みです」と話す。

これらの新しい抗ウイルス薬は、パンデミックの今後の流れを変える可能性がある。Nature は、その成否を左右する重要な要因を5つの質問に整理してみた。

新しい抗ウイルス薬の有効性は?

プレスリリースを読む限り、どちらの抗ウイルス薬も発症後すぐに投与することでCOVID-19による入院を減らすことができる。

ピッツバーグ大学医療センター(米国ペンシルベニア州)の感染症専門医John Mellorsは、臨床試験に参加した患者の年齢や民族集団、健康状態の詳細が、研究者には気になるところだろうと言う。

抗ウイルス薬は発症後早期に投与する必要があることが多いので、試験ではどのタイミングで投与されたのか、投与のタイミングと有効性に相関があるのかどうか、Mellorsも詳しく知りたいと思っている。どちらの抗ウイルス薬の試験でも、死亡を予防する効果について明確な結論を出すのに十分な数の参加者を確保できなかったが、治療群では死亡した患者はいなかった。

これらの抗ウイルス薬にSARS-CoV-2の排出を減らす効果があるかどうか、あるいは感染した人が発症するのを予防する効果があるかどうかについても、研究者たちは何らかの情報を得たいと考えており、追加で臨床試験を行うことも検討している。

そのような効果がもしあれば、ワクチンと抗ウイルス薬の組み合わせが強力な武器になるかもしれないと、国際ワクチン研究所(本部は韓国ソウル)の所長Jerome Kimは期待する。「COVID-19の感染制御のアプローチに新たな可能性が加わるのです」。

新しい抗ウイルス薬は安全か?

どちらの抗ウイルス薬も忍容性は良好で、有害事象が発生したとしても軽微なものだった。ただし、それぞれの薬の特性により服用禁忌とすべき患者もいる。

モルヌピラビルは、ウイルスの複製過程で、RNAでできたウイルスゲノムに変異を導入することで作用する。この薬の代謝物がRNA依存性RNAポリメラーゼというウイルスの酵素に取り込まれ、ウイルス複製時にゲノムに組み込まれる。変異が加わったウイルスゲノムは、その後の複製時に多くの複製エラーを引き起こすことになり、ウイルスは増殖できなくなるという仕組みだ。

ヒトのゲノムは、DNAでできている。しかし、モルヌピラビルはヒトのDNAにも変異を導入し得ることが、ある基礎研究で示唆されている(S. Zhou et al. J. Infect. Dis. 224, 415–419; 2021)。

モルヌピラビルによる治療は、わずか5日間の内服で終わる。しかし、特に妊婦に対する投与について、規制当局は慎重な判断をするかもしれないとKimは言う。

一方、パクスロビドは、いくつかのウイルスタンパク質を「機能を有する最終的な形」に加工するのに必要な酵素を阻害することで作用する。この薬は開発コードでPF-07321332と呼ばれる新しい抗ウイルス薬と、リトナビル(ritonavir)という別の抗ウイルス薬の合剤である。リトナビルは肝臓の酵素を阻害して、PF-07321332がコロナウイルスを無効化する前に分解されてしまうのを防ぐ働きをしているが、他の薬(よく使われている心疾患治療薬、や免疫抑制薬、鎮痛薬など)の体内での代謝にも影響を与える可能性がある。

そのため、多くの患者がパクスロビドによる治療の禁忌となる可能性がある。ただし、薬物相互作用の一部は回避する方法が見つかるかもしれない。

懸念される変異株にも有効なのか?

これらの抗ウイルス薬は、理論上は、デルタ株を含む既知のSARS-CoV-2変異株にも有効なはずである。既知の変異株では、変異は主に、免疫系やワクチンが標的とするスパイクタンパク質などの領域で起こっている。しかし、モルヌピラビルとパクスロビドの標的はスパイクタンパク質ではないため、そうした変異に影響されない。

だが、そうだとしても、これまでに出現した変異株にも実際に効くことを証明する必要があるだろうとMellorsは言う。メルク社は、モルヌピラビルがデルタ株やその他の変異株(南アフリカ共和国で最初に検出されたベータ株の系統を含む)にも有効であることを示す基礎研究を済ませている。

コロナウイルスは抗ウイルス薬に対する耐性を獲得するか?

薬剤耐性は身近な問題であり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症やC型肝炎のような一部のウイルス感染症が、複数の抗ウイルス薬を併用して治療されているのもそのためだ。メリーランド大学ボルティモア校(米国)で抗ウイルス薬を開発している化学者のKatherine Seley-Radtkeは、「結論から言えば、今後は併用療法の必要性がさらに高まるでしょう」と話す。

モルヌピラビルとパクスロビドについては、今のところ単剤治療の試験のみが行われている。

モルヌピラビルやパクスロビドが効かない患者を詳しく検討し、ウイルスの耐性獲得が原因なのかどうかを確認することが重要になってくるだろうと話すのは、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の感染症専門医Douglas Richmanだ。また、免疫機能が低下している患者に投与する際には、注意深くモニターする必要がある。このような患者では感染が長く続く可能性があるので、耐性も出現しやすくなるかもしれないとRichmanは指摘する。

新しい抗ウイルス薬は公平に分配されるか?

メルク社は医薬品特許プールとの間で、低・中所得国でモルヌピラビルを製造するのに必要な知的財産ライセンスを供与することに合意し、契約を結んだ。Goreによれば、医薬品特許プールはファイザー社とも協議中だという。低・中所得国が抗ウイルス薬を安価に購入できるような段階的価格設定を導入することも両社は発表している。

だが、富裕国が既に大量の発注をかけていることから、低・中所得国への分配が在庫不足により不十分になるのではないかと懸念する声もある。クマシ熱帯医学共同研究センター(ガーナ)のグローバルヘルス・感染症研究グループを率いるJohn Amuasiは、このような状況は毎度のことだと嘆く。「ワクチンがどうなっているかを考えてみてください」。

(翻訳:藤山与一)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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