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COVID-19に罹らない人を探す世界規模の計画が始動

寝食を共にする「カップル」は、COVID-19抵抗性に関する重要な情報をもたらしてくれる。 Credit: Peter Cade/Stone/Getty

パンデミック(世界的大流行)を引き起こした新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)に対し、生まれつき抵抗性があったら、どうだろう? 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したり、このウイルスを広げたりする心配をしなくていいかもしれない。このような特性を有する人を、研究者たちは探している。そして、研究に協力してほしいと思っている。もしかすると、あなたも候補者かもしれない。

国際的な研究チームは、SARS-CoV-2の感染に抵抗性を与える遺伝的要因を有する人を世界的に探し始め、その戦略を2021年10月にNature Immunology で発表した(E. Andreakos et al. Nature Immunol. https://doi.org/g4sh; 2021)。このような人を見つけ、感染を防いでいる遺伝子を特定することが、COVID-19からの防御だけでなく、感染の伝播も防ぐ「ウイルス遮断薬」の開発につながると、彼らは期待している。

「素晴らしいアイデアです。賢いやり方です」と、フレデリック国立がん研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の免疫遺伝学者Mary Carringtonは言う。

しかし、「成功が保証されているわけではありません。このコロナウイルス科ベータコロナウイルス属のSARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性が存在するとしても、その形質を持つ人は『ほんの一握り』かもしれません」と、ルーバン・カトリック大学(ベルギー)の小児免疫学者で医師であるIsabelle Meytsは言う。彼女はこの取り組みを支えるコンソーシアムの一員である。

「問題は、抵抗性を示す人をどのように見つけるかです。これは非常に難しいことですから、『やり遂げる』という強い意思が必要です」と、テキサス大学サンアントニオ健康科学センター(米国)の感染症専門医Sunil Ahujaは言う。

不一致(感染者と非感染者の)カップル

そうした意見はあるものの、この論文の著者らは、該当者を探し出せると自信を持っている。「1人見つかるだけでも、この戦略で最も重要なことは達成されるのです」と、研究に参加するアテネアカデミー生物医学研究財団(ギリシャ)の免疫学者Evangelos Andreakosは言う。

最初の段階は、対象を絞り込むことである。具体的には、COVID-19患者と長期間にわたって濃厚接触している人の中から、ワクチン接種などの予防措置を取っていないのにSARS-CoV-2感染検査で陽性にならない、あるいはこのウイルスに感染した細胞を除去する免疫応答が起こっていない人を探す。特に興味深いのは、感染したパートナーと家やベッドを共有する人である。こうしたカップルは「不一致カップル」として知られる。

Andreakosらの研究チームは、ブラジルやギリシャなどの世界10カ所の研究センターに属する研究者で構成されていて、こうした基準をクリアした有力候補者を約500人、既に確保している。また、彼らが論文を発表して以降、ロシアやインド在住の人も含む少なくとも600人から「私も該当する」との申し出があった。

この研究の共著者であるロックフェラー大学(米国ニューヨーク)の遺伝学者Jean-Laurent Casanovaは、この反応に本当に驚いたと言う。「SARS-CoV-2に曝露されても明らかに感染していない人が、自ら連絡をくれるなんて、思いもしなかったのです」。

目標は、少なくとも1000人の候補者を確保することである。研究チームは既にデータの解析を開始しているとAndreakosは言う。

今後の大きな課題

しかし、候補者が多量のSARS-CoV-2に曝露されたことを証明するのは難しい。「それを考えると、この研究はほぼ不可能かもしれません」とAhujaは言う。カップルの一方が無症状の濃厚接触者である場合、感染したパートナーが生きたウイルスを大量に排出していたことを確認する必要があるだろう。

Ahujaによれば、不一致カップルは珍しくないが、これらの基準を満たしていて、定期的に検査を受けているカップルが見つかることはめったにないと言う。彼はまた、現在では多くの人がワクチン接種済みのため、SARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性は目に見えなくなっている可能性があり、この研究の候補者確保はいっそう難しくなっていると付け加える。

候補者を絞り込んだら、次は、抵抗性に関連する遺伝子を見つけ出すために、候補者のゲノムを感染者のゲノムと比較する。そして抵抗性に関連すると考えられる全ての遺伝子を細胞や動物のモデルで研究し、抵抗性との因果関係を確認することで、作用機序が確立されるのだ。

Casanovaの研究チームは、重症COVID-19への感受性を高める稀な変異をこれまでに特定しているが、現在、研究は抵抗性を調べる段階に移っている(2021年11月号「COVID患者の重症化・死亡に自己抗体が関連か」参照)。

他の研究グループは、ゲノムワイド関連解析(GWAS)と呼ばれる遺伝学的研究で、数万人のDNAにおいて一塩基変化(通常は弱い生物学的効果しかない)を調べ、感染のしやすさ(感受性)の低下に関連する有望な候補変異を特定している(2021年9月号「COVIDのリスクに関連する遺伝的バリアントが分かってきた」参照)。

「このような変化の1つは血液型O型の原因遺伝子に見られます。ただし、その防御効果は小さく、防御の仕組みも分かっていません」と、Carringtonは言う。

抵抗性機構

この最新のプロジェクトを支える研究者らは、明らかになる可能性のある抵抗性機構がどんなものか、仮説を立ててきた。最も疑う余地がない機構と考えられるのは、一部の人には、SARS-CoV-2が細胞に侵入する際に利用する機能的なアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体がない、というものだ。査読前論文ではあるが、あるGWAS研究から、ACE2遺伝子の発現を低下させると考えられる1つの稀な変異が感染リスクの低下に関連し得ることが明らかになった(J. E. Horowitz et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/ghqgn5; 2021)。

この種の抵抗性機構は、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)でこれまでに観察されている。HIVはCCR5受容体を利用して白血球に侵入する。AhujaとCarringtonは1990年代初頭から、白血球上のCCR5受容体の機能を喪失させる稀な変異の特定に役立つ研究に関わってきた。

「この知識は本当に役に立っています」とCarringtonは言う。この知識からHIVの遮断薬という分類クラスが開発された。また2人の患者は、CCR5の抵抗性遺伝子を2コピー持つドナーから骨髄移植を受けた後、HIVが明らかに除去された(2019年5月号「幹細胞移植後にHIVが消滅した第2の症例」参照)。

このような機構によらずにSARS-CoV-2抵抗性を示す人の体内では、SARS-CoV-2に対する非常に強力な免疫応答が起こっている可能性があり、それは鼻の内側を覆う細胞周囲で特に顕著なのかもしれない。そうした人たちの中には、例えば、ウイルスの複製と新しいウイルス粒子への再格納を阻止する遺伝子や、細胞内のウイルスRNAを分解する遺伝子の機能を増強する変異を持つ人がいるかもしれないと、Andreakosは言う。

Andreakosは、今後も課題はあるが、生まれつきSARS-CoV-2に抵抗性である人を見つけ出すことについて楽観的である。「私たちは、こうした人を見つけ出せる自信があります」と彼は言う。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2022.220209

原文

The search for people who never get COVID
  • Nature (2021-10-29) | DOI: 10.1038/d41586-021-02978-6
  • Smriti Mallapaty