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小中学校の休校に感染抑止効果は確認できず

福元 健太郎

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220233

2020年春、政府は新型コロナウイルスの感染拡大を食い止める目的で、全国の小中高校を一斉休校とするよう市区町村に要請を出した。休校は、子どもたちに学習不足や運動不足などの悪影響を及ぼしただけでなく、親が休職を余儀なくされた家庭では、経済状況にも影響が及んだ。福元健太郎・学習院大学法学部教授は、自身の子どもの休校体験から「多くの犠牲をもたらした休校に、感染拡大の抑制効果はあったのか」と疑問に思い、公的なデータを用いて「休校にした自治体」と「開校にした自治体」の新規感染者数を比べ、「休校による感染抑止効果は認められない」との結果を得た。

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recep-bg/E+/Getty

―― 休校による感染抑制効果を解析された理由とは?

福元氏: きっかけは、私の子どもたちの学校が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で休校になり、「休校で本当に感染者が減ったのか?」と疑問に思ったことです。親としては「効果はなかったのでは」と思ったのですが、研究者としては「効果はあったかも」とも考えました。私が専門とする計量政治学は、政治や社会に関わる事象を数字にし、統計学的手法により分析する学問です。これまでに、「国会で法案はどのように審議されるのか」「どうすれば選挙で得票を増やせるのか」「内戦はいつ、どのように終結するのか」といったことをテーマにしてきました。

こうした私の研究と比べると、今回の論文は極めて異質です。COVID-19という世界中の人が直面している問題に対し、実践的な答えを導き出すことを目的に行った研究だったからです。この研究では、チャールズ・マックレーン(Charles McClean)ミシガン大学(米国アナーバー)トヨタ客員教授および中川訓範・静岡大学准教授と共にデータの分析を行い、今回の結果を得るに至りました。

―― 使用したデータや分析手法はどのようなものですか?

福元氏: 情報ソースにしたのは、文部科学省が各市区町村から収集した「休校のデータ」と、各都道府県が発表する日ごとの「新型コロナウイルスの新規感染者数データ」です。ただし、後者については、市区町村別で数値が得られるのは27都府県に限られました。よって分析は、その中の847市区町村を対象にしました。2020年の春は、政府が全国の市区町村に一斉休校の要請を出したことで、多くの市区町村が小中学校を休校にしましたが、開校にしていた市区町村もありました。高校以上の学校は、通学の範囲が市区町村で区切れないので、分析対象から外しました。

分析には、コンピューターを駆使する「マッチング法」を用いました。この手法をごく簡単に説明すると、分析の対象(以下、説明対象)に影響する多くの要因の数値が似たもの同士をペアにし、説明対象についてペア間で比較します。マッチング法のソフトウエアは何種類かあり、どのような要因をいくつ用いるかは、自由に設定できるようになっています。

今回は、「新型コロナウイルス新規感染者数」が説明対象に当たります。それに影響する要因として、人口、病院の数、1校当たりの生徒数、財政力指数、住民の平均所得など、40以上の変数を使いました。国が公表する『統計でみる市区町村のすがた』に掲載された情報などの中から、新型コロナウイルスの感染と関連しそうなものを要因として拾った結果です。各ペア間で「要因の数値」が似ていれば似ているほど、妥当性の高い比較ができますが、「全要因の数値が同じ、双子のようなペア」はあり得ません。そこで、「数値の変動が小さい要因」よりも「数値の変動が大きい要因」を重要視して似ている度合いを計算し、ペアを作るように工夫しました。例えば、人口は都市部か農村部かによって、大きな違いがあります。それに比べれば、「1校当たりの生徒数」はそれほどは違わないでしょう。そのような場合は、ペア作成時に「1校当たりの生徒数」よりも「人口」を重要視することになります。

このようにした上で、2020年3月4日〜6月1日に8回あった、文部科学省による休校調査日それぞれについて(図1)、休校にした市区町村と開校にした市区町村とで「住民10万人当たりの新規感染者数」を比べました1

図1 調査日ごとの休校市区町村および開校市区町村の数
調査日
(2020 年)
休校にした
市区町村数
開校にした
市区町村数
合計 休校市区町村
の割合(%)
3月4日 761 10 771 98.7
3月16日 718 29 747 96.1
4月6日 256 483 739 34.6
4月10日 491 307 739 34.6
4月16日 523 267 790 66.2
4月22日 710 80 790 81.6
5月11日 641 145 786 81.6
6月1日 2 783 785 0.3
2020年に文部科学省が行った全8回の休校調査日それぞれにおいて、「休校にした市区町村数」と「開校にした市区町村数」を示した。開校と休校が混在した市区町村と、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規感染者数やそれに影響する要因が欠測となった市区町村は分析に用いなかったため、合計欄の数は、分析対象となった27都府県内の市区町村数の847より少ない。

―― 「感染者が急増している状況で休校」という自治体では、新規感染者が多くて当たり前では?

福元氏: はい、休校にする理由が「直近に感染者が急増したから」という市区町村は少なくなかったでしょう。このような市区町村では、休校前の感染者の影響を考慮しないと、「休校という単一の要因」による感染者数の抑制効果を正しく判定できません。そこで私たちは、マッチングでそろえる要因の中に、「調査日直近1週間の住民10万人当たりの新規感染者数」を入れて、それらがほぼ同じ市区町村をペアにしました。

ほとんどの調査日において、開校にした市区町村の数の方が少なかったため、開校にした市区町村の数だけペアを作ることになり、ペアの数は調査日によって大きく異なる結果となりました。

―― いずれかの調査日を例に、具体的に説明いただけますか?

福元氏: 2020年4月6日を例に説明しましょう。4月6日に開校していたのは、全国で483市区町村でした。これらの各市区町村について、「直近1週間の住民10万人当たりの新規感染者数」がほぼ同じで、他の要因の数値もなるべく似ていて、かつ、休校だった市区町村を探し出し、ペアにしました。これら483ペアを対象に、「開校にしていた市区町村」と「休校にしていた市区町村」とに分けて、4月27日までの毎日、新規感染者数の平均値を求め、グラフに表しました(図2)。

図2 2020年4月6日の休校の有無と、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規感染者数
この日に休校した市区町村における、人口10万人当たりのSARS-CoV-2の新規感染者数平均値(黒い点線)は、休校にしなかった市区町村におけるそれ(赤線)よりも、少なくならなかった。前者のうち、マッチング法で40以上の要因が後者と似ている市区町村に絞った場合(黒い実線)も、こうした傾向は変わらなかった。 | 拡大する

両者の差について統計的に検定したところ、ほとんどの観測日で有意差は認められず、「休校による新規感染者の抑制効果はない」との結論に至りました。4月6日以外の調査日についても同様の分析を行いましたが、いずれも同じような結論となりました。

念のため、マッチング法以外の方法でも分析してみました。例えば、1つの保健所管轄区域内で、休校にしていた市区町村と開校にしていた市区町村との間で、同じように住民10万人当たりの新規感染者数を比べるというものです。やはり、結論は変わりませんでした。

―― 「休校に効果が認められない」との結果を、どのように受け止めましたか?

福元氏: 親としては、子どもが休校中の新規感染者数を見ていたので、そんなものかなと思った半面、研究者としては「介入に効果があるかもしれない」と予想していたので、意外にも思いました。

休校は、学習不足、運動不足や給食の中断による心身への影響、家庭内の虐待増加、保護者の就業への影響や低所得者層へのしわ寄せなど、実に多くの問題点が指摘されています。今回の結果から、短絡的に「常に休校にすべきではない」とまでは言えません。ただ、日常的に休校・開校の状況と新規感染者数をモニターしておき、いつでも今回のような政策評価が行えるように備えておくべきだと考えます。その分析結果を含めて慎重に検討し、休校にするか否か、休校を続けるか否かを判断すべきだと思うのです。

今回の論文は文部科学省にも送りましたが、反応は今のところありません。日本の政策がエビデンスベースになっていないのは承知していますが、やはり残念な気持ちです。

放課後児童クラブ(学童保育)施設についても、利用がエッセンシャルワーカーに制限されるなどの影響が及んだ。子どもの預け先がなくなった結果、保護者が仕事を休まざるを得ない状況となった家庭もあった。小学校の低学年の児童は、通学や学習の習慣が身に付いていない状態で、自宅学習を余儀なくされた。 | 拡大する

―― 研究者や一般の人々の反応はいかがでしたか?

福元氏: 研究者も一般の方も、多くは、結果をそのまま受け止めてくださっているようです。Nature Medicine が公開しているデータによると、1月5日時点で論文アクセス数が約2万9000に上っており、とてもうれしく思います。公衆衛生の専門家の方にも多く読んでいただけているようです。私が専攻している政治学は、疫学と同様、人間社会を調査対象にしていますので、今回の分析には共通点も多かったのかなと感じています。

一方、一部の一般の方からは、「なぜ人文系の研究者が、このような研究をするのか?」といった懐疑的な反応もありました。私としては、論文がNature Medicine に採択されたのは、学問分野を問わず共通する科学的手法に則っていることが認められたからだ、と自負しています。今回の知見は、研究者もさることながら、一般の方々、特に休校を巡って大変な思いをしている皆さんに知っていただけることを願っています。Nature Medicine に掲載していただいた結果として、多くのメディアや一般の方々に研究成果をお届けできたのは、幸運でした。そして何より、COVID-19に関する論文が毎号掲載されているNature Medicine で発表できたことを、うれしく思います。

実は、2011年の東日本大震災の際にも、研究面から少しでも社会貢献したいと思ったのですが、うまくいきませんでした。ですので、今回の成果で、肩の荷が下りた気もしています。

―― 今後も調査解析を続けられるのでしょうか?

福元氏: 休校と新規感染者数についての研究は、これで一区切りとなります。一方で、COVID-19関連として「五輪がCOVID-19に与えた影響」も分析し、こちらも興味深い成果が得られました。現在、論文投稿の準備をしているところです。

最後に申し上げておきたいのは、今回の成果は、一部の人たちが主張するような「マスクに新規感染者の抑制効果なし」といった話とは全く別次元だということです。その点は、誤解のないようにお願いしたいと思います。

―― ありがとうございました。

聞き手は、西村尚子(サイエンスライター)。

Author Profile

福元 健太郎(ふくもと・けんたろう)

学習院大学 法学部 教授
博士(法学)。1972年生まれ。1995年 東京大学法学部卒業。同大学助手などを務めた後、ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)およびワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)客員研究員を経て、2007年より現職。専門は政治学、特に政治分析方法論(政治現象の統計分析)。著書は、『日本の国会政治 全政府立法の分析』(東京大学出版会、2000年)、『立法の制度と過程』(木鐸社、2007年)。Japanese Journal of Political Science の編集者、Political Analysis の編集委員も務める。

福元 健太郎

編集部註:マスク着用に関する議論は、Nature ダイジェスト 2021年7月号「マスク着用義務の解除について、科学の視点で考えてみる」を参照されたい。

参考文献

  1. Fukumoto, K., McClean, C. T., & Nakagawa, K. Nature Medicine 27, 2111–2119 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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