鉄–硫黄クラスター錯体の鉄原子が窒素を還元
マメ科植物の根に見られる根粒 窒素固定を行う微生物の代表である根粒菌は、植物の根に「根粒」と呼ばれる果粒状の構造を形成し、この中でニトロゲナーゼを用いて大気中の窒素を固定する。 Credit: BILL BARKSDALE/DESIGN PICS/GETTY
窒素(N)は既知の全ての生物にとって不可欠な元素だが、その大部分は、最も反応性の低い窒素分子(N2)の形態で大気中に存在する。この安定なN2を生物が利用できる形態へと化学的に変換する「窒素固定」は、非常に難しい反応として知られており、自然界では、雷の放電で起こる他、ジアゾ栄養生物と呼ばれる一部の微生物(細菌やアーキア)によって行われるのみである1。これまでの研究で、こうした微生物が、鉄(Fe)原子を含む立方体型分子が2つ連結した特異なクラスターを用いて窒素固定(N2還元反応)を行うことは解明されているものの、N2がこのクラスターのどこにどのように結合し、還元反応がどのように進むかは正確には分かっていなかった。このたび、京都大学の大木靖弘(おおき・やすひろ)ら2は、微生物のクラスターを模倣した人工の立方体型分子を合成して、この分子内のFe原子が実際にN2を捕捉して類似の還元反応を触媒できることを実証し、Nature 2022年7月7日号86ページで報告した。この成果は、自然界が窒素固定を行うのに用いている分子装置について、重要な手掛かりをもたらしている。
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翻訳:藤野正美
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 10
DOI: 10.1038/ndigest.2022.221033
原文
Synthetic molecular cluster hints at mechanism of nitrogen fixation- Nature (2022-07-07) | DOI: 10.1038/d41586-022-01787-9
- Daniël L. J. Broere
- Daniël L. J. Broereはユトレヒト大学(オランダ)に所属。
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