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電磁石で非磁性体を操る

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220140

原文:Nature (2021-10-21) | doi: 10.1038/d41586-021-02771-5 | Non-magnetic objects induced to move by electromagnets

Eric Diller

複数の電磁石を使って、磁性体でない金属物体に触れずに、金属物体を自在に動かすことができた。この方法は、SFの「トラクタービーム(牽引ビーム)」のように、宇宙でスペースデブリなどの危険な物体を動かす作業に使えるかもしれない。

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Petrovich9/iStock / Getty Images Plus/Getty

地球を回る軌道上で、ロケットノズルの破片を捕まえることを想像してほしい。破片は(地球に対して)弾丸よりも速く運動し、ぐるぐると高速で回転している。そうした軌道を回るスペースデブリ(宇宙ごみ)は、米国宇宙監視ネットワークが追跡できるほど大きいもので約2万7000個あり、活動中の宇宙船と人工衛星を常に脅かしている。デブリが磁性体(強磁性体=磁石に付く物質)なら、磁石を使ってデブリを安全に捕まえ、処分できるだろう。しかし、軌道上のデブリは、磁性体材料をほとんど、あるいは全く含まないことが多い。ユタ大学(米国ソルトレークシティー)のLan N. Phamらは、磁石を使って、ある距離だけ離れたまま非磁性体(強磁性体ではない物質)の物体をつかむことを可能にする方法をNature 2021年10月21日号439ページで報告した1。この方法は将来、デブリの捕獲と処分を行う「掃除衛星」で使われるかもしれない。

磁場を使えば、ある距離だけ離れたまま、磁性体の物体を押したり、引いたり、回転させたりすることができる。この原理は、電気モーターの軸を回転させるために使われている。磁場を使った高度な運動制御も可能で、磁性体の物体を三次元内で器用かつ迅速に操作することができる2。しかし、この方法は磁性体材料を含む物体に限られるので、多くの場面で使えるわけではない。

今回Phamらが導入した非接触操作方法は、非磁性体物体が金属などの導電性の材料で作られていれば、その物体を三次元の中で押したり、引いたり、回転させたりすることができる(図1)。彼らが利用したのは電磁誘導と呼ばれる現象で、高速に変化する磁場が導体の中で電流を誘導し、導電性の物体を磁石に変える。電磁誘導は、短い距離だけ離れた導体間でエネルギーを無線で送るために19世紀から使われてきた。その用途は、現代の電子機器と電力供給ネットワークのどこにでもある変圧器から、ワイヤレス充電のスマートフォンや電磁調理器まで多岐にわたる。

図1 電磁誘導による操作
a 電磁石によって、あるいはこの図に示すように回転する永久磁石によって、変化する磁場を作ることができる。変化する磁場の中に導電性の物体を置くと、その内部に環状の電流が誘導される(図には示していない)。
b 環状電流は二次的な磁場を作る。導電性の物体は、永久磁石から遠ざかる方向(図中の矢印)に押され、また、その方向と磁石の回転軸の両方に垂直な方向にも押される。
c Phamらは、電磁石のアレイを使って磁場を作り、その磁場が導電性の物体を電磁誘導によって三次元内で動かして操作することができ、物体の向きも制御できることをシミュレーションで示した1。この方法の操作能力は、二次元で実験的に示された(図には示していない)。 | 拡大する

周期的に向きが変わる磁場が誘導する電流は、その導体の中で環状の電流になる(渦電流と呼ばれる)。渦電流は二次的な磁場を作る。こうして変化する磁場は、あらゆる導体を二次的な電磁石に変えることができる。二次的な電磁石は、元の磁場の源に磁力を及ぼす。もしも、元の磁場が運動する磁石や回転する磁石が作ったものならば、誘導された力は、元の磁石の運動を妨げ、磁石の運動を遅くするように働く。この抵抗力を及ぼす効果は、一部の列車で受動的なブレーキ装置として使われている。電磁石によって誘導される力は、産業用モーターやジェットコースターの磁気推進システムでも使うことができ、さらには、レールガンと呼ばれる高度な武器から弾丸を発射するためにも利用できる。これらの応用では、力は機構部品の運動を決められた軸に沿って制御する。Phamらはこの方法を一般化し、自由に運動する導電性物体を三次元の中で操作した。

自由に運動する非磁性体物体の電磁誘導による操作は、静止した永久磁石や回転する永久磁石を使って既に報告されている3,4。こうした電磁誘導による操作方法は、スペースデブリの非接触操作などの応用のため、さらに、修理・点検ロボットを国際宇宙ステーションの外面に沿って移動させる目的でも研究されてきた。しかし、これらの方法は、限られた方向にしか力を加えることができず、大きくて重い永久磁石が必要だった。

Phamらは、別の方法を採用した。彼らは、電磁石のアレイ(配列)を使い、任意の軸を中心に回転できる磁気双極子による磁場を作った。彼らは、発生した磁場は、非磁性体物体を三次元内の任意の軸に沿って動かすことができ、同時に非磁性体物体の向きも制御できることを数値シミュレーションで示した。Phamらは、この方法を使って実際にある平面内で銅製の球を動かしてみせることにより、二次元内での一般的操作能力も実験的に示した。彼らは、宇宙での低摩擦環境の自由な運動を模擬するため、水槽の中の浮き台を使い、導体の球を浮かべた(参考文献1の図3e-g)。

Phamらの方法は、軌道上のスペースデブリを操作し、片付ける作業に応用できる可能性が大いにある。デブリの量は急速に増えており、低地球軌道(人工衛星の大半とあらゆる有人宇宙船の軌道がある高度2000kmまでの宇宙空間)のデブリを片付ける方法が見つからなかったら、非常に有用な低地球軌道を使えなくなってしまう恐れがある5

軌道上のデブリは、大部分はアルミニウムでできている。アルミニウムは非磁性体だが、導電性の高い金属だ。デブリを捕まえて、デブリが燃え尽きる、より低く大気密度の大きい軌道へ引っ張って行くために、無数の解決法がこれまでに提案された。しかし、軌道上のデブリは高速に回転している場合があるので、デブリを安全につかみ、押すことは難しい。SFのトラクタービームのように働く、Phamらの非接触磁気操作法は、デブリの回転速度を安全に落とし、低い軌道へ引っ張っていって処分する有望な方法になる。

しかし、Phamらの実験的実証は、単一面内の運動に限られたものであることを指摘しておくべきだろう。電磁誘導効果は電磁石と物体の間の距離が広がるにつれ、急速に弱くなる。今回報告された実験では、操作するための電磁石と物体との間隔は約5~10cmにすぎなかった。さらに、この方法で加えることができる力は小さい。従って、地上で物体を操作するためには、物体の重量が克服すべきハードルになる。宇宙では物体の重量が問題になることはなく、力が小さくてもゆっくりした操作には十分かもしれない。この方法を使って完全な三次元操作が可能であることを実験的に示すのは地球周回軌道上でなければ難しいだろう。

電磁石アレイを制御するアルゴリズムをさらに最適化する余地もある。Phamらは、可能な電磁石入力の一部のみを考慮することによってアルゴリズムを単純化した。連続的な、全ての可能な入力を考慮することにより、より速く、より強い操作が実現するかもしれない。そうなれば、このアイデアの応用にさらに役立つだろう。

(翻訳:新庄直樹)

Eric Dillerは、トロント大学(カナダ)に所属。

参考文献

  1. Pham, L. N. et al. Nature 598, 439–443 (2021).
  2. Kummer, M. P. et al. IEEE Trans. Robot. 26, 1006–1017 (2010).
  3. Liu, X., Lu, Y., Zhou, Y. & Yin, Y. Adv. Space Res. 61, 2147–2158 (2018).
  4. Reinhardt, B. Z. & Peck, M. A. J. Spacecr. Rockets 53, 241–248 (2016).
  5. Nature 561, 24–26 (2018).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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