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夜間絶食によって寿命が延びる可能性

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220146

原文:Nature (2021-10-14) | doi: 10.1038/d41586-021-01578-8 | Evidence that overnight fasting could extend healthy lifespan

Stephen L. Helfand & Rafael de Cabo

夜間を含んで長い絶食時間を作ると健康寿命が延びることが、ショウジョウバエを使った研究で示された。これは、夜間には、細胞内の物質が分解されてリサイクルされるオートファジーと呼ばれる過程が促進されることと関係している。

キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster) | 拡大する

Whitepointer/iStock/Getty Images Plus/Getty

タイミングは、喜劇や人生における成功の秘訣であると言われているが、健康長寿の秘訣の1つでもあるかもしれない。ヒトにおける研究ではこれまで、カロリー摂取量を操作することで健康寿命を延ばすことができる可能性が示されている1,2(2016年1月号「老化を制御し、予防する」、2018年6月号「カロリー制限による老化減速をヒトでも確認」参照)。しかし、強烈な空腹感は多くの人にとって耐え難く、カロリー制限は短期間ならばともかく、継続的に行うことは困難である。一方、摂取するカロリー量ではなく、摂取のタイミングに焦点を合わせて操作することは、はるかに継続可能であるかもしれない。この方法には、時間制限摂餌(TRF)などがある。このほどコロンビア大学医学系大学院(米国ニューヨーク)のMatt Ulgheraitら3は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)では、長時間の夜間絶食を含んだTRFスケジュールで健康寿命が延びたことをNature 2021年10月14日号353ページで報告している。この結果は、オートファジー(細胞内での分解およびリサイクルの過程)の働きによるものと考えられ、オートファジーは特に夜間に促進される4,5ことが知られている。

さまざまな生物種における断続的絶食(絶食時間と摂餌時間を交互に設けるタイプのTRFスケジュール)の研究では、カロリー摂取量を減らさなくても、断続的絶食によって多くの健康指標が改善されることが一貫して報告されている。ヒトにおける断続的絶食の利点には、腹部脂肪の減少および、グルコース代謝、血圧、心拍変動、身体持久力の改善が挙げられる6–8。さらに、カロリー制限が代謝、器官機能、疾患抵抗性にもたらす主な正の影響のいくつかは、断続的絶食により再現され、また、体重減少や総カロリー摂取量の影響から切り離すことができた1,6

TRFおよび他のタイプの断続的絶食スケジュールは、世界のどこでも適用可能なライフスタイル介入であり、従って誰もが利益を享受することが可能な真に平等な方法といえる。しかし、まず、TRFスケジュールが健康を促進して寿命を延ばす仕組みを理解しなければならない。断続的絶食は、糖や炭水化物の代謝から脂肪酸やその他の栄養素の代謝への変化を引き起こす。この過程は代謝移行と呼ばれる。断続的絶食をはじめとする各摂餌レジメンに対する体の応答をより完全に把握するには、代謝移行の健康への関与と、絶食に起因するカロリー制限や体重減少の健康への関与を区別する必要がある。

標準的なTRFスケジュールは12時間の絶食と12時間の摂餌を交互に行うものであるが、Ulgheraitらはこのレジメンを変更し、夜間(ショウジョウバエが、ヒトのように、最も活動的でない時間帯)を含む20時間の絶食と28時間の摂餌を交互に行うことにした(図1a)。この断続的な時間制限摂餌(iTRF)スケジュールに従ったハエは、自由摂餌のハエと比較して、雌では18%、雄では13%、寿命が延びた。

健康が維持されていない場合、寿命が延びることは望ましくない。ギリシャ神話のティートーノスは、不死になったが、永遠の若さを持たなかったために、永久に老化する運命だった。しかしUlgheraitらは、iTRFが寿命を延ばすだけでなく、加齢に伴う筋肉、神経、腸の機能低下も防ぐことを示している。

TRFやiTRFのスケジュールを、ハエの成虫期の10日目に開始し、40日目に終了すると、寿命の延長に最適な効果が見られた。Ulgheraitらは、40日を超えると、iTRFでは寿命への明確な利益は見られなかったこと、また、TRFでは余命が短縮し得ることを観察した。このような介入を臨床へ橋渡しする前に、TRFあるいはiTRFが有益となり得る年齢の範囲を検討すべきである。

Ulgheraitらは、マウスにおける断続的絶食の研究と同様に1,9、iTRFにより意図せず食餌量制限が誘導されている可能性を除外した。iTRFレジメンが行われているハエは実際、継続的に摂餌が可能なハエよりも食餌量が多かった。さらに、iTRFとカロリー制限あるいは食餌中タンパク質制限を組み合わせると、どちらか単独の場合よりも寿命の延長につながったことから、これらの食餌操作が寿命を延ばす機構は異なっていることが示された(図1b)。同様の結果は、マウスの研究においても観察されている1,7,8(2021年4月号「タンパク質制限食による老化防止機構」参照)。インスリンというホルモンのシグナル伝達が変化すると、ショウジョウバエを含む、多くの生物の寿命が延びることが報告されている10。Ulgheraitらは、インスリンシグナル伝達に寿命を延ばす変化が起こったハエは、この変化とiTRFが組み合わされた場合に、さらに寿命が延びることを見いだした。これもまた、この2つの介入の基盤となる機構が異なっていることを示している。これらの研究は、iTRFが、食餌への介入あるいはインスリン関連の介入と組み合わされた場合に、いずれかのタイプの介入単独よりも健康や寿命を大きく改善する可能性があることを示している。

図1 食餌の組成は変えずに摂餌のタイミングを変えると、健康寿命が大きく改善する
a Ulgheraitら3はショウジョウバエにおいて、夜間を含む20時間の絶食時間と28時間の摂餌時間を交互に行う、断続的な時間制限摂餌スケジュール(iTRF)の影響を調べた。その結果、食餌を継続的に摂取可能(自由摂餌)なハエよりも寿命が延びることを見いだした。体内の「24時間」時計を構成するperiodper)やtimelesstim)などの時計遺伝子群の発現は、昼夜で周期的に変動する。その結果、概日時計に約24時間周期の振動が起こる。iTRFは、pertimの夜間の発現を増強した。このような時計遺伝子発現の変化によって、オートファジーに必要なタンパク質の発現が夜間にさらに上昇した。オートファジーとは、細胞内の物質が分解されて、リサイクルされる過程である。
b カロリー制限(CR)、食餌制限(DR)、およびインスリンシグナル伝達の変化もオートファジーを促進するが、健康寿命に及ぼすiTRFの効果は、これら他の介入とは独立していて、それらの介入に相加的に働くことが観察された。 | 拡大する

ハエ、齧歯類、ヒトの摂食行動と代謝は、体内の24時間(概日)時計によって調節されている。一連の遺伝子が相互作用することで、時刻に応じてさまざまな細胞機能が調整されるのだ6,11。Ulgheraitらは、さまざまな時計遺伝子(Clockperiodtimelessなど)が機能しない変異型ハエにおける一連の実験で、iTRFが健康や寿命に有益な効果を及ぼすには概日時計が必要であることを示した(図1)。さらに、12時間ずれたiTRFスケジュール(絶食時間が夜間ではなく、ほぼ日中になる)に置かれたハエは、無制限に摂餌可能なハエと比較して、寿命の延長が見られなかった。これは、iTRFが概日時計によって調節される機構を介して効果を及ぼしている可能性を示唆している。

オートファジーは、概日時計によって調節されており、ピークは夜間であること、また、寿命と関連があること4–6が、これまでの研究で示されている。Ulgheraitらは、オートファジーに必要な細胞内装置の構成要素を遺伝学的に破壊すると、iTRFによる寿命の延長が起こらないことを示した。また、ハエにおいて遺伝学的手法を用いて、夜間のオートファジーを人工的に通常のレベルより上昇させると、継続的に摂餌可能にしても寿命が延びることが分かった。従って、健康寿命に及ぼすiTRFの効果には、概日時計が駆動する夜間のオートファジーの促進4,5が重要であることが裏付けられた。Ulgheraitらの今回の研究によって、iTRFによる健康寿命への効果の基盤となる分子機構や、その分子機構が働く時間帯も明らかになった。これにより、iTRFの効果、特に夜間のオートファジーに及ぼす効果を模倣するのに使用できる薬剤を特定できる可能性がある。

この10年間で、研究は、栄養と概日リズム、それらの間に相乗効果がある可能性、それらが組み合わされてヒトの健康や老化に及ぼす効果に集約されてきているように思われる。新たな証拠から、概日リズムに基づいた摂餌時間と絶食時間のタイミングは、カロリー制限によって生じる健康や長命への利益の多くを受け取るのに重要であり、栄養摂取量を制限する必要がない9,12ことが示唆される。今後は、摂餌のタイミングやカロリー量、および食餌の質に基づく有望な戦略についてさらに研究を進め、概日リズムに沿った摂餌スケジュールを実行することが、器官および種全体に一貫して意義ある利益をもたらすかどうかを確立する必要がある。これらの研究は、行動やライフスタイルを変えることで、高価な薬剤を必要とせずに、どの国でも健康長寿を実現できるという興味深い可能性を示唆している。

(翻訳:三谷祐貴子)

S. L. Helfandはブラウン大学(米国ロードアイランド州プロビデンス)、R. de CaboはNIH国立老化研究所(米国メリーランド州ボルティモア)に所属。

参考文献

  1. de Cabo, R. & Mattson, M. P. N. Engl. J. Med. 381, 2541–2551 (2019).
  2. Mattson, M. P. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 111, 16647–16653 (2014).
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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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