ヒト脳の進化の遺伝的交響曲
交響曲は、オーケストラの多くの楽器を慎重に調律して調和させることから生まれる。それになぞらえれば、生物では、トランス作用因子として知られるタンパク質などの分子が、指揮者のように、離れた場所から複数の遺伝子の発現を制御し、シス調節エレメント(CRE)と呼ばれるDNA領域が、楽器を奏でる楽団員のように、染色体上で近傍にある個々の遺伝子の発現を調節する。CREの変化は、個体群全体の進化的変化の原因ではないかと考えられているが、それはCREが1つの生物の特性に非常に特異的な影響を与えるからである。対照的に、トランス作用因子の変化は、大きな遺伝子群の活動を調整して、複数の特性に影響を与える1。このほど、エール大学医学系大学院(米国コネチカット州ニューヘイブン)の柴田幹士らは、人類の進化の特徴である、前頭前野(PFC)と呼ばれる脳領域のサイズが大きいことと他の領域との神経接続が豊富であることについて、シス調節とトランス調節の変化の相互作用を探り、Nature 2021年10月21日号483ページと489ページに発表した2,3。
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翻訳:古川奈々子
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 1
DOI: 10.1038/ndigest.2022.220137
原文
The genetic symphony underlying evolution of the brain’s prefrontal cortex- Nature (2021-10-21) | DOI: 10.1038/d41586-021-02460-3
- Jenelle L. Wallace & Alex A. Pollen
- Jenelle L. Wallace & Alex A. Pollenは、共にカリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)に所属。
参考文献
- Carroll, S. B. Cell 134, 25–36 (2008).
- Shibata, M. et al. Nature 598, 483–488 (2021).
- Shibata, M. et al. Nature 598, 489–494 (2021).
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