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体の生物学的年齢が分かる「炎症時計」

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210910

原文:Nature (2021-07-13) | doi: 10.1038/d41586-021-01915-x | ‘Inflammation clock’ can reveal body’s biological age

Max Kozlov

老化と関係する血液中の炎症のマーカーが機械学習を使用して特定された。iAgeと命名されたこのツールは、人々の健康寿命を延ばすのに役立つことが期待される。

健康な人は、実年齢よりも生物学的年齢が低くなる可能性がある。 | 拡大する

Al Bello/Getty Images for Lumix

採取した血液で慢性炎症を評価して、心血管疾患や神経変性疾患などの加齢関連疾患を発症するリスクがあるかどうかを予測できる、新しいタイプの年齢「時計」が報告された。その時計で測定する「生物学的年齢」は、健康を考慮に入れたもので、実年齢に必ずしも一致しない。

2021年7月12日にNature Aging1で報告された炎症老化時計(iAge)は、炎症を用いて健康を評価するタイプのツールの中で最初のものの1つだ。これまで報告されてきた他の年齢時計は、エピジェネティックマーカーを使用している。エピジェネティックマーカーとは加齢とともにヒトのDNAに付加される化学基で、細胞分裂後も引き継がれる。

iAgeを開発した研究者たちは、炎症は治療可能であることから、このツールによって介入の恩恵を受ける人をふるい分けでき、健康寿命を何年か延ばせるようになるかもしれないと期待を寄せている。

この研究は「免疫系は不健康な加齢を予測するためだけでなく、不健康な加齢を促進する機構としても重要であるという事実をさらに裏付けるものです」と、エール大学医学系大学院(米国コネチカット州ニューヘイブン)の免疫生物学者Vishwa Deep Dixitは述べている。Dixitはこの研究に関わっていない。

若さを保つ

iAgeは、人が年を取るにつれて、細胞が損傷を受けて炎症を引き起こす分子を放出するようになるために、体は慢性的な全身炎症状態となるという考え方に基づいている(2020年10月号「老化細胞を標的とするように設計されたT細胞」、2021年5月号「免疫細胞の代謝変化により老化した脳が障害される」参照)。これが最終的に組織や臓器の損傷につながる。健康な免疫系を持つ人はこの炎症をある程度中和することができるが、そうでない人はより早く老化する。

スタンフォード大学(米国カリフォ ルニア州)のシステム生物学者David Furmanと血管専門家のNazish Sayedを含む研究チームは、iAgeを開発するために、8~96歳の1001人から採取した血液試料を分析した。これらの人々は、慢性全身炎症の特徴が加齢とともにどう変化するかを調べることを目的とした1000イムノームプロジェクトの参加者である。研究者たちは、参加者の年齢と健康情報を機械学習アルゴリズムと組み合わせて使用し、全身炎症を最も明確に示す血液中のタンパク質マーカーを特定した。特に、免疫シグナル伝達タンパク質であるサイトカインのCXCL9が最も重要な関与因子として特定された。CXCL9は主に血管の内層で生成され、心臓病の発症に関連付けられている。

Sayedは、CXCL9がiAgeの重要な要素となったことは、「老化は動脈年齢で分かる」という格言に新たな信憑性を与えると言う。

iAgeを開発した後、研究者たちは99歳以上の19人の血液を採取し、このツールを使用して被験者の生物学的年齢を計算することによってiAgeをテストした。プレスリリースによると、平均して、この100歳以上の人々はiAge年齢が実年齢より40歳低かった。これは、免疫系が健康な人は長生きする傾向があるという考え方と一致している。

優雅に老いる

科学者たちは、ある人が現在どれほど健康であるかを予測するものとして、年齢時計という考え方を長い間探求してきた(2019年12月号「薬剤で生物学的時計が巻き戻った?」、2021年3月号「生物時計を逆回しして老齢マウスの視力を回復」参照)。この分野でのエピジェネティクスに基づく研究は、ある程度の見込みを示しているが2、マドリッド自治大学(スペイン)の分子生物学者María Mittelbrunnは、DNAのエピジェネティックな変化を測定することによってヒトの生物学的年齢を評価することは難しい場合があると述べている。血液検査で炎症を測定する方が簡単で、iAgeなどのツールが臨床現場ではより実用的だろう。

Furmanは、炎症に基づくiAgeなどの年齢時計は、個別化治療も可能にするのではないかと期待している。

Furmanらは、全身炎症のバイオマーカーとしてCXCL9を調べていたとき、血管の壁を構成するヒト内皮細胞をシャーレで培養し、繰り返し分裂させることによって人工的に老化させた。CXCL9のレベルが高いと細胞は機能不全状態になることが観察された。CXCL9をコードする遺伝子の発現を抑制したところ、細胞がいくらか機能を回復したことから、CXCL9の有害な影響は可逆的である可能性が示唆される。

早期に発見すれば、「炎症は私たちが治療できる最善のターゲットの1つです」と、Mittelbrunnは言う。「素晴らしい抗炎症ツールがいくつも開発されています。だから、炎症については豊富な知識がありますし、容易に標的にできる生物学的プロセスだと思います」。例えば、サリチル酸(アスピリンの出発物質)は昔から知られており、そして最近では、関節リウマチなどの炎症性疾患を治療するためのJAK/STAT阻害剤が開発されている。

Sayedは、将来、加齢関連疾患を発症するリスクを監視するために、誰もが定期的に炎症性バイオマーカーのプロファイリングを受けられるようになることを期待している。「もっとインパクトのあるやり方で老化を制御できれば、私たちはより優雅に老いることができると思います」と彼は言う。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Sayed, N. et al. Nature Aging 1, 598–615 (2021).
  2. Fahy, G. M. et al. Aging Cell 18, e13028 (2019).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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