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デルタ株はワクチン接種完了者からも広まる

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210909

原文:Nature (2021-08-12) | doi: 10.1038/d41586-021-02187-1 | How do vaccinated people spread Delta? What the science says

Nidhi Subbaraman

新型コロナウイルスのデルタ株は、他の変異株に比べ、ワクチン接種完了者からも広まりやすいようだ。

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NIAID

ワクチン接種によって新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)の伝播を抑えられるという初期のフィールドデータが示されたとき、研究者たちはこれをおおむね楽観的に受け止めていた。だが、デルタ株の出現で新たな懸念が生じている。デルタ株はインドで2021年4月〜5月に爆発的に流行した後、世界で急拡大した。ワクチン接種完了者が多い国でも感染が広がっていることから、デルタ株はワクチン接種完了者からも広まることが危惧されるのだ。

実際、米国や英国、シンガポールでの研究で、ワクチン接種完了後にデルタ株に感染した人は、未接種の人と同程度の量のウイルスを鼻腔内に保有している場合があることが報告された。

ウィスコンシン大学マディソン校(米国)のウイルス学者David OʼConnorは、「デルタ株にブレークスルー感染(ワクチン接種後感染)した人の中には、ウイルス量が非常に高い人がいて、気付かないうちにウイルスを広める恐れがあります。ワクチン接種完了者であっても感染防止策を取るべきです」と言う。つまり、ワクチン接種完了者は、ワクチンにより重症化や死亡から保護されていても、デルタ株を周囲に伝播し得るため、感染拡大に寄与している可能性があるということだ。

OʼConnorらは、デーン郡の保健局と共に、2021年6月〜7月に州内で発生した症例を調べた。鼻腔液検体中のウイルス濃度を推定するPCR検査では、ウイルス核酸の増幅を繰り返して蛍光シグナルを検出することで、ウイルスの遺伝物質を検知する。蛍光シグナルが検出されるまでに必要な増幅サイクル数をCt値といい、Ct値が低いほど、検体中のウイルス濃度が高い。

OʼConnorらは、6月29日〜7月31日に採取した719人分の検体のCt値を比較した(塩基配列を決定した122検体のうち90%がデルタ株だった)。ワクチン接種完了後に感染した311人のほとんどが、Ct値が25未満と低かった。ウイルス量が多く、周囲にウイルスを伝播する恐れがあるとされるレベルだ。未接種者の大半もCt値が25未満であった。また、ワクチン接種完了者と未接種者から採取したCt値25未満の55検体を培養し、その大半から感染力のあるウイルスを分離した。この結果は、8月11日にプレプリント論文1で公開された。

論文共著者で同僚のウイルス学者Thomas Friedrichは、「要するに、ワクチン接種完了者がウイルスを広めることはあり得るということです。それがコミュニティー全体でのウイルス拡散にどのような役割をしているかは、まだ分かりませんが」と説明する。

米国マサチューセッツ州の海岸の街プロビンスタウンのデータからも同様の知見が得られている。米国疾病対策センター(CDC;ジョージア州アトランタ)が8月に発表した報告書によると、プロビンスタウンで大規模な集会が開かれた後に州内で新たに発生したCOVID-19患者469人のうち4分の3近くが、ワクチン接種完了者であったという2。そして、ワクチン接種完了者も未接種者もCt値が比較的低く、ウイルス量が多いことを示していた。さらに、塩基配列が決定された133検体のうち90%がデルタ株であった。CDCはこの知見を受けて7月27日にガイドラインを改訂し、感染者が多い地域では屋内でマスクを着用するように再び推奨した。

生物学的機序が異なる?

ヒューストン・メソジスト病院(米国)のデータによると、2021年3月以降、デルタ株に感染した患者の約17%がワクチン接種完了者であり、デルタ株のブレークスルー感染の割合は、それ以外の全変異株によるブレークスルー感染を合わせた割合の3倍近くに上った。また、デルタ株に感染した患者は、他の変異株に感染した患者よりも入院期間がやや長かった。同病院の分子・トランスレーショナルヒト感染症研究センターの所長で分子病理学者のJames Musserは、「デルタ株は、感染の生物学的機序が他の株とはわずかに異なっている可能性があります」と語る。彼のチームは、ワクチン接種完了者と未接種者のCt値が同程度であることを明らかにしている3

しかしシンガポールの研究チームは、ワクチン接種完了者と未接種者のウイルス量を毎日追跡した結果、ワクチン接種完了者がデルタ株に感染した場合、周囲に伝播する恐れのある期間は短くなるかもしれないとしている。デルタ株のウイルス量は、ワクチン接種完了者のグループでは7日目以降に急速に低下した4。論文共著者であるシンガポール国立感染症センターの感染症臨床医Barnaby Youngは、「デルタ株に感染してから最初の1週間のウイルス量の多さを考えると、マスク着用や手洗いなどの感染対策によりウイルスの伝播を減らすことが重要です。それは、ワクチン接種が完了しているか否かにかかわらずです」と言う。

ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)のチームが主導するREACT-1プログラムでは、数週間おきに10万人以上の英国人ボランティアの検査・分析を実施してきた。研究チームは、英国内でデルタ株が他の変異株に急激に取って代わった5月〜7月に採取した検体のCt値を分析した。その結果、陽性者のうち、ワクチン接種完了者の平均ウイルス量は、未接種者に比べて少ないことが分かった。同大学の疫学者Paul Elliottは、この研究が他の研究と異なる結果になったのは、この研究では母集団から無作為にサンプリングしており、無症状で陽性と判定された人も含まれているからだと説明する。

Elliottは、これらの知見と、ワクチン接種未完了の若年患者の増加は、ワクチンの2回接種がデルタ株に対して有効であることを強調していると言う。「できるだけ早く、できるだけ多くの人々、特に若い世代に2回の接種を完了してもらうことが非常に重要です」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Riemersma, K. K. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2021.07.31.21261387 (2021).
  2. Brown, C. M. et al. MMWR Morb. Mortal. Wkly. Rep. 70, 1059–1062 (2021).
  3. Musser, J. M. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2021.07.19.21260808 (2021).
  4. Chia, P. Y. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2021.07.28.21261295 (2021).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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