Where I Work

David Monacchi

Credit: Nature by Elisabetta Zavoli

私は常に自然のサウンドスケープ(音風景)に魅了されてきました。音響技術と電子音楽作曲の素養のある、生態音響学と電子音響学の研究者として、仕事の際には常に芸術と科学のバランスを取ることを心がけています。

地球上の動植物のうち3万5500種以上が絶滅の危機に瀕していることを私が初めて知ったのは1998年のことでした。そのとき、「Fragments of Extinction(絶滅の断片)」プロジェクトのアイデアがぱっと頭に浮かびました。熱帯雨林が気候変動によって取り返しのつかないダメージを受ける前に、24時間の「音響の断片」のコレクションを構築しようと思ったのです。可能な限り高い明瞭度で録音を行い、はるか古代からそこにあった、生物多様性に富む、手付かずの熱帯雨林の音の遺産を記録するのです。

熱帯森林では、林冠からも地面からも木の幹からも生物の鳴き声が聞こえます。大木の幹は音響拡散器のように鳴き声を拡散させます。私たちは38のオーディオチャンネルとマイクで同時に録音することで、森林の音の肖像を立体的に捉えています。

写真の私は、イタリアのペーザロにあるジオデシック・シアター「ソノスフェラ(Sonosfera)」の中に立っています。聴衆はこの中で、アマゾン、アフリカ、ボルネオの熱帯雨林のサウンドスケープを体験することができます。音響的に完璧な隔離空間に45台の高音質スピーカーが配置され、生態系の自然音をリアルに再現しています。

パフォーマンスの最初の15分間は、ソノスフェラの中は真っ暗です。聴衆は音に耳を傾けることで、自分の周りに森林の空間を「構築」することができます。虫や両生類がいる場所も、鳥や哺乳類が林冠の中を移動する様子も分かります。その後、写真の奥に見えているスペクトログラムを投影して音について説明し、熱帯雨林の生態系が消滅しつつあることを示すデータを見せていきます。

ゾウが発する可聴下音(ヒトには聴こえない低い音)や、昆虫が発するバイオリンやトランペットそっくりの鳴き声も捉えられています。私たちが録音してきた生態系の音は、どれも全く違います。これがお気に入りというものはありません。コレクションなので。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2021.210854

原文

My race against time to capture the sounds of ancient rainforests
  • Nature (2021-03-01) | DOI: 10.1038/d41586-021-00535-9
  • James Mitchell Crow
  • David Monacchiは、 「Fragments of Extinction」プロジェクト 創設ディレクター、ロッシーニ音楽院 (イタリア・ペーザロ)の電気音響研究者。