Advances

イッカクの記録

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210815a

その牙に北極の環境変化が刻まれている。

イッカクの牙には、環境についての数十年間の情報が保存されていることが分かった。 | 拡大する

BY WILDESTANIMAL/MOMENT/GETTY

イッカクの牙は環境に関する数十年分の情報を記録し、北極の変化を明確に示していることが、最近のCurrent Biology に報告された。らせんを描いて伸びるイッカクの牙は年ごとに新たな層を成長させ、イッカクが摂取した炭素と窒素の同位体や水銀の一部を取り込んでいる。研究チームは、生活のためにイッカクを狩猟しているグリーンランド北西部のイヌイットから10本の牙を購入し、そこに50年分の情報が含まれていることを見いだした。

これほど長期間のデータを入手できたことは「イッカクの食物や水銀レベルなどに影響する要因を把握する上で、実に素晴らしい一歩でした」と、研究論文の筆頭著者であるマギル大学(カナダ)の海洋生物学者Jean-Pierre Desforgesは言う。

温暖化で食物が変化

研究チームはイッカクの牙(実のところは象牙質でできた歯)を切り開き、その一部をすりつぶして粉にして、同位体の含有量を解析した。その結果、イッカクがどこで何を食べたかや、水銀に曝露されていたかが明らかになった。水銀は体内に蓄積すると動物の免疫系や生殖器系に影響を及ぼす毒物だ。

炭素と窒素の同位体からは、イッカクの生息地の多くが海氷で覆われていた1960年代から1990年代にかけて、イッカクはオヒョウなど食物網の上位に位置して海氷の近くや海底近くにいる魚を食べていたことが示唆された。1990年以降に海氷が急激に縮小すると、炭素同位体の特徴が変わり始めた。同位体記録は、イッカクがホッキョクダラやカラフトシシャモなど、氷のない海域にすむ魚を食べていたことを示した。これらの魚種は食物網の数段下に位置しているので、一般には水銀の含有量が少ない。それでもイッカクはかなり多くの水銀を摂取していた。これは気候変動または排出量の増加、あるいは両者の組み合わせが原因だろうと研究チームはみている。

(翻訳協力:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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