腫瘍細胞表面に提示され、T細胞に認識される細菌ペプチド
抗原提示細胞(APC)とT細胞。 Credit: JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty
ヒトの腫瘍には微生物が定着しており1、腫瘍微生物相と総称される。こうした微生物は、例えば、炎症や局所での免疫抑制を引き起こすことで2、腫瘍の微小環境に影響を及ぼし得る。これによって、体の免疫系が腫瘍に応答する仕組みが変化したり、治療への応答が変化したりする可能性が示唆されている3。しかし、腫瘍内の細菌は、免疫系によって認識されるのか? このほどワイツマン科学研究所(イスラエル・レホボト)のShelly Kalaoraら4は、細菌由来のペプチド(タンパク質断片)が腫瘍細胞の表面に提示され、T細胞と呼ばれる免疫細胞に認識されることをNature 2021年4月1日号138ページで報告した。この発見は、がん免疫療法に利用できる可能性がある。
免疫系は、腫瘍抗原を認識することで、腫瘍細胞と正常細胞を区別できる。全ての細胞は抗原プロセシング(抗原を取り込んでペプチド抗原まで分解する過程)を行う装置を持っていて、この過程で生じた抗原由来のペプチドは、細胞表面のヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる特殊な分子に提示され、免疫系はこれを認識するのだ。免疫系に認識されるペプチドは、エピトープ(抗原決定基)と呼ばれる。
腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原と腫瘍特異的抗原の2種類に大きく分けられる5。腫瘍関連抗原は、腫瘍だけでなく正常組織にも発現するため、免疫応答を容易に活性化することはない。だが、いったん腫瘍関連抗原に対する免疫応答が開始すると、この抗原を発現する正常組織に対して有害な自己免疫応答を起こすリスクがある。そうではあるが、腫瘍関連抗原は、多数のタイプの腫瘍や多くのがん患者で見られるため、免疫療法の優れた標的として広く適用可能になり得る。対照的に、腫瘍特異的抗原は腫瘍細胞にのみ発現するため、腫瘍に対する特異的な免疫攻撃を開始する理想的な標的である。腫瘍特異的抗原の1つのサブタイプであるネオアンチゲンは、腫瘍細胞特異的な遺伝子変異から生じるため、ネオアンチゲンは通常、腫瘍に特異的かつ患者に特異的である。従って、ネオアンチゲン由来のペプチド(ネオエピトープと呼ばれる)を標的とするには、真に個別化された免疫療法が必要になる。
黒色腫と呼ばれる皮膚がんでは、3つのクラスの腫瘍関連抗原が知られているが、通常、黒色腫細胞は多くの遺伝的変異を持つため、ネオアンチゲンが存在する可能性が高くなる6。そのため黒色腫は、腫瘍抗原の発見やがん免疫療法の開発の最前線にある7-9。今回Kalaoraらが黒色腫試料を用いて、別のクラスの腫瘍抗原を報告したのは当然といえる。
Kalaoraらは、9人の黒色腫患者の17の転移巣の細菌組成を調べることから始めた。細菌の組成は、同一患者であれば異なる転移巣でも非常に類似しており、時には別の患者試料とも非常に類似していることが分かった。黒色腫に特定の細菌種が共通に見られることを示したこの結果は、さまざまなタイプのがんに特異的な腫瘍微生物相が存在することを報告したこれまでの研究と一致する1。またKalaoraらは、これらの細菌が黒色腫の周囲の細胞外微小環境ではなく、黒色腫細胞内に存在することを確認した。
Kalaoraらは次に、これらの細胞内細菌に由来するペプチドが他の細胞内抗原と同様の方法で免疫系に提示されるかどうかを調べることにした。この目的のために、HLAが提示するペプチドを直接検出することができる「免疫ペプチドミクス」と呼ばれる、質量分析を基盤とする解析手法を用いた。その結果、試料において41の細菌種由来のペプチドが約300見つかった。いくつかのペプチドは、同一患者の複数の腫瘍や、異なる患者の腫瘍でも見つかった。
Kalaoraらはさらに、細菌ペプチドが、抗原提示細胞(APC)と呼ばれる免疫細胞ではなく、実際に黒色腫細胞によって提示されるかどうかを調べた。APCは、病原体を検出して取り込み、免疫系の他の細胞に提示する役割を担う。Kalaoraらは、免疫細胞のマーカータンパク質を用いて、2つの黒色腫試料の細胞をAPCと腫瘍細胞に分けた。免疫ペプチドミクスによる解析で、この両方の細胞が細菌ペプチドを提示することを明らかにした。ペプチドの一部のサブセットはAPCと腫瘍細胞の両方によって提示されたことから、同一ペプチドによって、APCでの提示を介して免疫応答を開始させるのと同時に、腫瘍細胞を免疫攻撃の標的にできる可能性が示唆された。その上、黒色腫から単離されたT細胞(HLAに提示されたペプチドを認識する)が、今回特定された細菌ペプチドに応答することが示された。このようなペプチドの一部は腫瘍間や患者間で共通である。
以上のことからKalaoraらの結果は、腫瘍が提示する細菌ペプチドが、これまで特定されていなかったクラスの腫瘍抗原である可能性を示している(図1)。しかし疑問もいくつか残る。正真正銘の腫瘍抗原であれば、特定された細菌種は非腫瘍組織には侵入していない。従ってそのペプチドは非腫瘍細胞のHLAには提示されないはずだ。もし、非腫瘍組織での提示が検出されれば、そのようなペプチドは免疫療法の標的として適していない。さらに、細菌ペプチドは非常に豊富だと考えられるのだが(少なくとも、黒色腫で特定されたネオエピトープの数7と比較した場合)、なぜ体は黒色腫に対して効果的な免疫応答を開始しないのだろうか? このようなペプチドが有望な臨床的役割を持つかどうかを解明するために、腫瘍に提示される細菌ペプチドの患者情報と組み合わせた研究が必要になるだろう。Kalaoraらが得たデータは、研究者ががん免疫療法の手法に適した細菌標的を選択するのに役立つかもしれない。
図1 細菌によって引き起こされる抗腫瘍免疫に至るルート
Kalaoraら4は、黒色腫の細胞に特定の細菌が侵入できることを報告。細菌由来の分子から生じたペプチドは、ヒト白血球抗原(HLA)タンパク質により腫瘍細胞表面に提示される。T細胞と呼ばれる免疫細胞は、提示されたこの細菌由来ペプチドを認識して活性化される。腫瘍が提示するこの抗原により、T細胞は腫瘍細胞と正常組織を区別できることから、この細菌ペプチドは、これまで特定されていなかったクラスの腫瘍抗原である可能性がある。
結論として、Kalaoraらが特定した細菌ペプチドは、免疫療法において魅力的な標的になり得る。細菌ペプチドは非自己であるため、これに対する強力な免疫応答を誘導するのは比較的容易と考えられる。また、どの正常組織にも提示されていないことが確認できれば、自己免疫についての懸念も消えるだろう。従って、腫瘍に提示される細菌ペプチドは、患者間で共通の腫瘍特異的抗原として機能する可能性があり、このような稀で有用な治療に適した組み合わせは、これまではウイルス感染によって引き起こされる腫瘍でしか見つかっていなかった。ウイルス感染腫瘍の場合、エピトープはがんを引き起こしたウイルスのタンパク質由来になり得る5。最近のデータから、腫瘍への細菌の侵入は一般的な現象である可能性が示されている1,2。従って、Kalaoraらの研究は、さまざまなタイプの腫瘍に共通する腫瘍特異的抗原を特定するための基盤になる可能性がある。
翻訳:三谷祐貴子
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2021.210740
原文
Bacterial peptides presented on tumour cells could be immunotherapy targets- Nature (2021-04-01) | DOI: 10.1038/d41586-021-00640-9
- Angelika B. Riemer
- Angelika B. Riemerは、ドイツがん研究センターおよびドイツ感染症研究センター(ハイデルベルク)に所属。
参考文献
- Nejman, D. et al. Science 368, 973–980 (2020).
- Xavier, J. B. et al. Trends Cancer 6, 192–204 (2020).
- Geller, L. T. et al. Science 357, 1156–1160 (2017).
- Kalaora, S. et al. Nature 592, 138–143 (2021).
- Coulie, P. G., Van den Eynde, B. J., van der Bruggen, P. & Boon, T. Nature Rev. Cancer 14, 135–146 (2014).
- Schumacher, T. N. & Schreiber, R. D. Science 348, 69–74 (2015).
- van der Bruggen, P. et al. Science 254, 1643–1647 (1991).
- Bassani-Sternberg, M. et al. Nature Commun. 7, 13404 (2016).
- Waldman, A. D., Fritz, J. M. & Lenardo, M. J. Nature Rev. Immunol. 20, 651–668 (2020).
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