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米国が温室効果ガスの大幅削減を公約

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210709

原文:Nature (2021-04-22) | doi: 10.1038/d41586-021-01071-2 | US pledges to dramatically slash greenhouse emissions over next decade

Jeff Tollefson

米国大統領の温室効果ガス排出量を半減させる公約に対して、研究者たちは、この取り組みだけでは気候変動の抑制には不十分かもしれないと危惧している。

多くの国で温室効果ガス削減政策を実施しているが、パリ協定の1.5℃目標にはまだまだ不十分だ。 | 拡大する

Alexandros Maragos/Moment/Getty

去る4月22日、バイデン米国大統領は、ホワイトハウスで開催されたバーチャル気候変動サミットの冒頭で、新しい野心的な目標を発表した。米国の温室効果ガスの排出量を2030年までに、2005年比で少なくとも50%削減するというのだ。これは、オバマ元大統領が掲げた、2025年までに温室効果ガスを2005年比で26%以上削減するという目標を拡大・強化したもので、米国としてはこれまでで最も果敢で挑戦的な目標となる。

米国の今回の発表は、苦境にあえぐ自国の石炭産業を保護するために2015年に採択されたパリ協定からの離脱を図ったトランプ前大統領の下での過去4年間の方針から、大きく舵を切ったことを示している。

バイデン大統領は地球温暖化を「私たちの存亡に関わる現代の危機」と呼び、米国は行動を起こす決意をしたと宣言して、各国の首脳に闘いに参加するように呼び掛けた。彼は「いかなる国も単独でこの危機を切り抜けることはできない」とし、全ての国が気候変動対策の「ギアを1段上げなければならない」と述べた。

米国が主催し、世界40カ国の首脳が参加した2日間のサミットは、気候変動対策への国際的な行動の機運を高めることを目的としていた。

米国の新たな目標は、欧州連合(EU)や一部の国々の最近の目標とほぼ一致している。こうした国々は、今世紀半ばまでに完全な脱炭素社会を実現するための重要な第一歩として、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させようとしている。米国のこの目標はまた、今回の気候変動サミットに向けた準備中に、科学者や環境保護主義者が政府の積極的な取り組みを求めて圧力をかけたことも反映している。

環境保全団体WWF(世界自然保護基金)の気候変動部門(米国ワシントンD.C.)の上席副理事長であるMarcene Mitchellは、「米国以外の主要温室効果ガス排出国にさらに踏み込んだ対策を取らせ、2030年までに自国の排出量を抑制するように促すためには、このレベルの野心的な目標が必要です」と説明する。次のステップは、バイデン大統領が社会を動かし、この公約を実現することだとMitchellは言う。

現在、気候変動対策チームが詳細を詰めているところだが、バイデン大統領は既に大まかな方針を示している。それによると、2035年までに電力部門を脱炭素化し、電気自動車の導入を促進して運輸部門の温室効果ガス排出量を削減することに加え、新技術を活用して産業界の排出量を抑制し、大気中の炭素を除去する森林や自然の生態系を保護することを目指すという。その実現に向け、バイデン大統領は2021年3月に、クリーンエネルギー技術、インフラ、雇用の分野に多額の投資を行う、2兆3000億ドル(約250兆円)の大規模政策を発表している。

それでもまだ足りない

2015年にパリで開催された第21回気候変動枠組条約締結国会議(COP21)で、各国政府は、地球温暖化による異常気象の増加、自然生態系の破壊、農業システムの破壊などの壊滅的な影響を抑えるために、産業革命前と比較した気温の上昇を1.5〜2℃に抑えることを公約した。

現在、多くの国では、クリーンエネルギーの開発を促進する気候変動政策を採用することで、温室効果ガス排出曲線が右肩下がりになってきているが、国際的な取り組みの成果は2015年の目標を大きく下回っている。パリ協定の実現に向けた取り組みを監視する科学者と政策専門家から成る国際コンソーシアム「Climate Action Tracker」は、現在の政策を前提とすると、世界の気温上昇は3℃程度になると予想している。

ホワイトハウスが主催した2021年4月の気候変動サミットは、同年11月に英国グラスゴーで開催される第26回気候変動枠組条約締結国会議(COP26)に向けた第1段階である。COP26では、各国政府は新たな気候変動対策を正式に発表することが期待されている。世界最大の温室効果ガス排出国である中国は、2020年9月、2030年までに二酸化炭素の排出量の増加を食い止め、2060年までにカーボンニュートラルを達成することを公約した。さらに2020年12月にはEUが、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減するという目標を発表した。

気候変動問題に詳しい評論家は、今回のサミットを機に、各国間の交渉に新たな動きが出てきたと言う。実際、日本や英国などいくつかの国々が、新たな気候目標を発表している(「新たな取り組み」参照)。

新たな取り組み
米国は4月に気候変動サミットを主催し、2030年までに温室効果ガスの排出量を2005年比で少なくとも50%削減することを公約した。EU や一部の国々も新たな気候変動対策の取り組みを発表しているが、そのためには経済およびエネルギー政策の大幅な転換が必要である。 | 拡大する

SOURCE: CLIMATE ACTION TRACKER

Climate Action Trackerは、まだこれらの目標が全体に及ぼす影響を評価している段階だが、モデルからは、パリ協定の1.5℃の目標を達成するには不十分だと考えられる。その予想によれば、各国政府が既に実施している気候変動対策を考慮しても、2030年の世界の温室効果ガス排出量は二酸化炭素換算値にして510億〜550億t増加し、1.5℃の目標を達成するための許容排出量の約2倍になるという。それでも科学者たちは、今回の新たな取り組みは、右肩下がりの温室効果ガス排出曲線をさらに押し下げるのに役立つだろうと考えている。米国が目標を達成することができれば、それだけで2030年の世界の温室効果ガス排出量を約20億tも削減できることになるのだ。

Climate Action Trackerコンソーシアムに参加する非営利コンサルタント会社Climate Analytics(ドイツ・ベルリン)を率いるBill Hareは、「まだまだ遠い道のりですが、個人的には数カ月前よりは楽観的になっています」と言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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