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学術界サバイバル術入門 — 助成金を申請する①

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210726

激しい競争を勝ち抜くためには、あなたが提案する研究について、配分機関(審査委員)が知りたいことを申請書で的確に述べることが必須ですが、その前に、どの助成金に応募すればよいか、戦略を立てることも大切です。

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Intpro/iStock/Getty

学術界サバイバル術入門
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大学の研究者が直面する最大の難題の1つは、研究資金を確保することです。それには明白な理由があります。十分な研究費がなければ、自分の分野にインパクトを与えられる技術的に高度な研究を設計して実行するのが難しいからです。しかし、大半の研究者は、この重要な目標を達成する方法についての訓練も指導も受けていません。

あなたの助成金申請が配分機関に採択されるチャンスが高まることを願って、これから何回かにわたって、助成金獲得のためのヒントと手掛かりをお話ししたいと思います。このシリーズでは「科研費」(科学研究費助成金;文部科学省および日本学術振興会による学術研究助成事業)を念頭に置いて説明する予定です(Nature ダイジェスト の読者のほとんどが科研費に興味を持っているでしょうから)。ですが、私がこれからお話しする戦略の多くは、他の助成金や奨学金に応募するときにも容易に応用できますよ。

助成金配分機関は何を求めているか?

まず、助成金を配分する機関の話から始めましょう。私がいつも「考えてください」と研究者の皆さんに勧める、ある一般的なテーマがあります。ターゲットとしている読み手についてです。読み手が何を求めているかを考えることで、より良い論文、添え状、返信、助成金申請書を書くことができるようになるでしょう。助成金申請では、配分機関を念頭に置く必要があります。

あなたが小資本の投資会社に所属していると想像してみてください。投資を希望するいくつかの新興企業から応募がありました。投資を決定する前に、あなたはその会社について、どんなことを知りたいですか?

おそらく今、あなたの頭の中にはいくつかの疑問が浮かんでいますね? その会社と従業員は、十分な経験や専門的知識・技術を持っているか? 過去にどのような成功を収めてきたか? 計画を実行するための十分なリソースや設備を有しているか? 彼らが達成しようとしていることは、実際に役に立つものであったり、重要であったりするか? 他にもまだ、思い浮かぶ疑問があることでしょう。

では、投資会社を助成金配分機関に、そして新興企業を研究者に置き換えてみましょう。投資会社と同じく配分機関も、投資に対してローリスクでハイリターンの応募を選択しようとしています。ですから、あなたが先ほど思いついた全ての疑問に対する答えこそが、助成金申請で信頼性と信用を確立するために強調するべきことなのです。

助成金のトレンド

もう1つ、考えておくと役立つ事柄は、助成金のトレンドです。あなたが目標としている配分機関が現在、どのトピック/分野に資金を割り当てているかを知ることで、相手の興味をひくことのできるベストな売り込み方についてのヒントが得られます。もちろん、現実的でなければなりません。あなたが固体物理学の研究を行っている場合、その研究が国民の健康の改善に重要なものとなるとはいえません! けれども、一般的なトレンドを知っていれば、あなたのトピックを応募書類で紹介したり、予想される影響について論じたりするときに、そうしたトレンドに関連付けて述べることができます。

配分機関の一般的な傾向は、配分機関の専用ウェブサイトや、Dimensions1などのオンラインで検索可能なデータベースで分かる場合が多いものです。データベースの利点は、特定の分野や機関についてきめ細かな情報を得られることです。

科研費

科研費には、いくつか異なる種目があり、それぞれ予算と給付期間が異なります。科研費パンフレット(www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/24_pamph/)を見ると、種目の位置付けがピラミッド型の図で分かりやすく示されています2

基本的には、ピラミッドの上に行くほど助成金額が増しますが、競争も激しくなります! では、一番下から始めて、だんだんと上へ話を進めていきましょう。

若手研究

この種目群は、博士号を取得してから8年未満の若手研究者に独立した研究プロジェクトを始める機会を与えるためのものです。給付期間は2~5年で、助成額は500万円以下です。2020年には、この種目に1万8708件の応募があり、応募の40.1%に助成金が付与されました(2019年は応募1万9590件、採択率40.0%)。

基盤研究(S/A/B/C)

これらは確立した研究者への支援を目的とする科研費で、研究者が応募する最も一般的な助成金です。S/A/B/Cの4つの違いは、助成額に関連しています。Cが最も額が少なく、Sが最も多くなります。当然ながら、助成額が高ければ、競争も激しくなります。

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興味深いことに2020年と2019年は、基盤Bと基盤Cの採択率の差はほんのわずかでした。しかし、2018年のBとCの採択率はそれぞれ25.6%と27.9%、2017年は24.7%と29.6%でした4。従って、BよりもCの方が常に採択率が高いと予想されます。

話は戻って、上記の情報をどのように役立てることができるでしょうか? もしもあなたが基盤Aに応募する計画を立てていて、予算が2100万円だとしたら、予算をもう少し削って2000万円に抑え、基盤Aの代わりに基盤Bに応募して採択の可能性を高めるのも1つの案となるかもしれません。

若い研究者が基盤研究に応募することは可能性でしょうか? もちろん可能性ですが、それほど一般的ではありません。2019年に基盤研究A/B/Cに応募した39歳以下の研究者は、わずかに3~12%でした5

挑戦的研究(萌芽/開拓)

これらの科研費は期間と予算が異なるものの、どちらも既存の研究の枠組みを根本的に変える研究に焦点を合わせています。「萌芽」は、研究アイデアの「芽生え期」という意味合いを持ち、従って、予算(500万円以下)と期間(2~3年)が限られています。しかし、この期間に得られたデータが有望であるなら、その研究は、予算が500万~2000万円とより大きく、期間も3~6年とより長くなる「開拓」に応募できます。けれども、これらの助成金の採択率は、リスクが高いために、それぞれ12.8%と9.2%3と低くなっていることに留意しなければなりません。

新学術領域研究

この助成金の目的は、新しい研究トレンドにおける学際的共同研究を推進することです。この助成金は共同研究を対象としているため、予算はかなり大きく(1000万~3億円)、期間は5年です。さらに、通常、これらの助成金にはそれぞれの分野で確立した研究者たちが応募するので、採択率は2020年の場合22.5%3とかなり高めになっています。

特別推進研究

科研費のピラミッドの頂点に位置するこの助成金は、その分野で基本的なブレークスルーに通じる傑出した研究に対するものです。採択された応募者がそのような革新的研究を行うのに十分なリソースが得られることを保証するために、この助成金の予算は2億~5億円と最も高い額になっています。そして当然ながら競争も激しく、その採択率は最も厳しいものの1つです(2020年において11.4%3)。

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manusapon kasosod/Moment/Getty

審査の過程

最後に、科研費の審査がどのように行われるかをお話ししましょう。

毎年、日本では約7000人の研究者が審査委員に選ばれて、それぞれがたった40日間で70~100件の応募を審査しなければなりません! ですから当たり前のことですが、審査委員が目を通す全ての応募書類の中で、あなたの応募が目立つようにすることが極めて重要になるでしょう。この目標を達成するために役立つ戦略については、このシリーズの後の回でお話しするつもりです。

審査基準

科研費では、審査委員は次の5つの必須の評価基準によって各応募を評価します。

1. 学術的重要性:あなたが提案した研究は、その分野に対してどんな重要性を持つか?

この評価基準において審査委員にあなたの提案を高く評価してもらうためには、その分野が現在直面している重要な研究課題を示すとともに、あなたが提案した研究が分野の進歩のためにどのようにこの課題を克服することを目指しているかを強調することが必要になるでしょう。

2. 提案の正当性:研究計画はどれくらいロバストで確かか?

提案した研究のデザインと緊急時対応策について徹底的に述べる必要があります。この研究がこの助成金の範囲内のリソースによって適切な期間内に完了できることを確実に示さなければなりません。

3. 創造性と革新性:提案に独自性がどれだけあるか?

既存の枠にとらわれずに考えましょう! 重要な課題に賢明な方法で対処し、新しい見解を提供して、その分野の価値を高めましょう。新奇性と独創性が重要です。

4. 波及効果:提案はどれだけ一般化でき、どのくらい役に立ち、誰の役に立つか?

配分機関は自らの投資が広範囲な重要性を持つことを求めています。あなたの研究の恩恵が非常に狭いものであったり地域的過ぎたりすれば、評価に良くない影響を与えるでしょう。あなたの応募研究によって恩恵を受けるのは誰なのかを考えましょう。あなたの分野の研究者なのか、他の分野の研究者なのか、政策立案者なのか、あるいは産業なのか。あなたの研究が及ぼすインパクトが広ければ広いほど、この評価基準における評価は高くなるでしょう。国連の持続可能な開発目標(SDG)のことを考えてみるといいでしょう。それによって、どうやったら自分の研究で自分の住んでいる世界を改善できるかを考えることができるでしょう6

5. 信用:提案した研究を達成できるか?

あなたが、提案した研究を実行できる適切な専門技術とリソースを持つ適任者であることを示してください。そのためには、申請書で明確に、研究の確実性を示す必要があるでしょう。

審査の方式

科研費では助成金の種類によって2つのタイプの審査方式があります。どちらの方式にも2つの段階が存在します7

基盤研究(B/C)と若手研究:2段階書面審査

第1段階では、4人もしくは6人の審査委員が各自でそれぞれの応募を書面審査します(Cと若手研究は4人、Bは6人)。その後、各審査委員は個別の意見を提出します。次に、第2段階では、審査委員は再び各自で書面審査を行いますが、この時には他の審査委員の意見も参考にします。応募研究の長所と短所に関する他の審査委員の意見を読むことで、審査委員は見解を広げることができ、自信を持って格付けを行うことができます。

特別推進研究、基盤研究(S/A)、挑戦的研究:書面審査後に合議審査

これらの助成金は予算が大きいため、より包括的な審査が実施されます。第1段階では、各助成金に対し6~8人(特別推進研究では8〜14人)の審査委員が各自で審査を行い、他の審査過程と同様に意見を提出します。これらの助成金では、審査委員の数だけでなく、第2段階のやり方も異なります。第2段階では審査委員はグループを作り、合議審査を行います。そして、徹底的な対話形式の議論により、採択を決定します。基盤研究Sと特別推進研究では、合議審査の後にヒアリングが実施されます4

では、このような審査過程の違いによって、あなたの応募の準備にはどのような影響が出るでしょうか? 答えは、「影響を受けるべきではない」です。何人の審査委員が議論しようと、そして合議制であろうとなかろうと、応募した研究の価値を明確に伝え、自分がその研究を行う適任者であるという信頼を勝ち得ることは不可欠です。これらの目標を達成するためには、次回以降の記事をお待ちください。第2回ではまず、応募に適した強力な研究トピックを見つける方法についてお話しします。第3回は、あなたのアイデアが審査の過程で最大のインパクトを与えるようにするために応募書類でそのアイデアをどのように伝えるのがベストかという、審査戦略について述べます。

次回は、2021年9月号の予定です。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。


Nature Research Academies は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金作成、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。

参考文献

  1. www.dimensions.ai
  2. www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/24_pamph/data/kakenhi2020.pdf
  3. www.jsps.go.jp/english/e-grants/data/award_trends/3-1-1_r2e.pdf
  4. www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/03_shinsa/data/r02/R2_shinsa_soukatsu.pdf
  5. www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/22_startup_support/data/r02/r2_kensta_koubo_e.pdf
  6. www.un.org/sustainabledevelopment/sustainable-development-goals
  7. 日本学術振興会HP「審査・評価について」 (www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/03_shinsa/index.html#shinsakitei)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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