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COVID-19の抗体治療に、先入観を覆す有望な結果

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210605

原文:Nature (2021-03-12) | doi: 10.1038/d41586-021-00650-7 | COVID antibody treatments show promise for preventing severe disease

Heidi Ledford

COVID-19の治療薬として、米国では数カ月前に複数のモノクローナル抗体が承認されているが、効果がないと考えられていたため普及が進んでいなかった。

中和抗体は、コロナウイルス粒子に結合してウイルスを不活化する。 | 拡大する

JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty

特異抗体を用いた治療によって、軽症または中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者、特に重症化リスクが高い患者の入院や死亡を予防できることが、2つの臨床試験の結果から示唆されている。

一方の臨床試験では、ウィル・バイオテクノロジー社(Vir Biotechnology;米国カリフォルニア州サンフランシスコ)とグラクソ・スミスクライン社(GSK;本社は英国ロンドン)が共同開発した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗体が、試験参加者の入院や死亡の確率を85%減少させることが分かった。また、もう一方の試験では、イーライ・リリー社(米国インディアナ州インディアナポリス)が開発した2種類の抗体、バムラニビマブ(bamlanivimab)とエテセビマブ(etesevimab)を組み合わせた抗体カクテルが、入院や死亡のリスクを87%低下させた。

いずれも、ランダム化プラセボ対照二重盲検臨床試験に基づく研究結果であり、2021年3月10日に発表されたが、まだ論文として正式には出版されていない。ピッツバーグ大学(米国ペンシルベニア州)の集中治療医であるDerek Angusは、これらの結果は早期に治療を行えば重症化を防ぐことができるという見方を裏付けるものだと話す。これらの抗体は「非常に有効なようです」と彼は言う。「今回の試験結果はとても期待が持てるものだと思います」。

ウイルス感染に対する人体に備わった応答として、さまざまな抗体が産生される。その中にはウイルスの複製能を直接阻害することができるものがある。パンデミック(世界的流行)が発生した当初、研究者たちは競ってSARS-CoV-2に最も効果的な抗体を特定し、その大量作製を試みた。作製された「モノクローナル抗体」は、さまざまな状況でCOVID-19の治療薬としての効果が試験されてきた。

ウィル社とGSK社が開発したVIR-7831と呼ばれる抗体は、近縁のコロナウイルスによって引き起こされる重症急性呼吸器症候群(SARS)から回復した人から2003年に初めて分離されたものだ。その後、この抗体はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質にも結合することが分かった。

さらに両社は実験室での研究に基づき、VIR-7831がSARS-CoV-2の変異株にも結合できることを発表した(A. L. Cathcart et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/f284; 2021)。結合できる変異株には、南アフリカ共和国で初めて検出されてから急速に広がっている501Y.V2(B.1.351とも呼ばれる)変異株も含まれている。この抗体の標的の幅広さは、スパイクタンパク質のうち変異を起こしにくい特定の領域に結合するためだと彼らは考えている。

VIR-7831は、COVID-19に対する効果が試験されたモノクローナル抗体のリストに新たに加わるものだが、イーライ・リリー社の抗体を含むいくつかのモノクローナル抗体は、米国やその他の国々で既に使用が承認されている。しかし、米国ではそれほど普及していないとAngusは言う。

問題点としてAngusが指摘するのは、結果は企業からプレスリリースとして発表されているものの、主要な臨床試験のデータが査読付き学術誌にまだ掲載されていないことだ。また、これらの抗体医薬品は高価な上、病院や外来治療センターのような専門施設で点滴投与する必要があるが、患者が急増して医療資源が逼迫している現在の状況ではそれは難しい。

矛盾した結果

もう1つの問題は、一見矛盾した結果が得られていることだ。パンデミックの初期にCOVID-19の入院患者を対象として実施されたいくつかの重要な臨床試験では、モノクローナル抗体に効果は認められなかった。この結果は多くの研究者にとって予想通りだった。モノクローナル抗体による治療は病初期に最も効果を発揮すると考えられ、重症のCOVID-19で見られる後期症状は、ウイルスというよりも免疫系それ自体によって引き起こされている部分が多いからだ。

とはいえ、初期に行われた臨床試験で効果が認められなかったことは、軽症患者を対象とした研究で得られた有望な結果をも否定する先入観を生み出してしまったとAngusは指摘する。「『抗体は効かないんじゃなかったっけ?』と言われてしまうんです。それが普及の大きな妨げになっています」。

また、軽症患者を対象とした研究では有望な結果が得られているといっても、決定的な結論を出すには試験の規模が小さ過ぎると、英国のAGILE COVID-19薬物試験イニシアチブを率いるリバプール大学(英国)の薬理学者Saye Khooは指摘する。COVID-19を発症した軽症患者のうち重症化するのはごく一部である。そのため、試験には数百人の参加者が登録されていたが、入院したり死亡したりした人の数は少なかったのだ。

全ての人がワクチン接種を済ませるまでには、まだ時間がかかりそうだ。コペンハーゲン大学とリース病院(いずれもデンマーク・コペンハーゲン)に所属する感染症内科医のJens Lundgrenは、モノクローナル抗体による治療は、ワクチン接種が広く普及し、また入院患者に有効な治療法が見つかるまでの間、重要な中継ぎとしての役割を担うだろうと話す。「ワクチンに代わるものではありませんが、次善策ですね」と言う彼は、ワクチンを接種しても免疫が得られない人に対しては、抗体治療が特に重要な位置付けを占めるだろうと付け加える。

モノクローナル抗体を早期に開発できたことは、将来のパンデミックに備える上で良い経験になったとKhooは言う。「これらの抗体医薬品は間違いなく素晴らしいものです。新しいパンデミックは必ずやってきます。開発の道筋をつけられたことは大切な経験になりました」と彼は話す。

(翻訳:藤山与一)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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