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鳥の渡りの謎が解き明かされた

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210638

原文:Nature (2021-03-11) | doi: 10.1038/d41586-021-00510-4 | A bird’s migration decoded

Simeon Lisovski & Miriam Liedvogel

技術が進歩し、過去から現代に至るハヤブサの渡りルートの形成に、気候と遺伝子の変化が及ぼした影響を研究する新たな方法が得られた。これは、渡りが将来どうなるのかを予測するのに役立つのだろうか。

デナリ国立公園(米国アラスカ州)を渡るカナダヅルの群れ。 | 拡大する

George D. Lepp/Corbis Documentary/Getty

渡りは動物界に広く見られる特徴だが、それが最も網羅的に研究されているのはおそらく鳥類だろう。このほど、ハヤブサ(Falco peregrinus)の渡りの進化を促進したと考えられる要因に関して、中国科学院(北京)のZhongru Guらが、Nature 2021年3月11日号の259ページに種々の知見を示している1。ハヤブサの特徴でおそらく最もよく知られているのは、その記録破りの飛行速度であり、獲物を捕まえるときの急降下では時速320kmを超える。

人間は、鳥類が季節的に現れたりいなくなったりする不思議な現象にずっと魅せられつつ頭を悩ませ、中世以来、鳥類は冬の間は湖の底で冬眠していて春になると再び姿を現す2、などと想像し憶測してきた。この不思議な現象について理解が深まり、こうした憶測が否定され始めたのは、それほど古い話ではない。19世紀末以降、鳥たちの脚に小さな金属の環が付けられ、その旅程や居場所、そして個体の運命に関する秘密が明らかになってきている。

さまざまなレベルにおいて技術が進歩したおかげで、現在では軽量の追跡装置を利用して3、渡り鳥を全世界にわたって継続的に追跡できるようになり、渡りに関して次第に詳細な証拠を見つけられるようになった。しかし、技術の進歩がもたらしたのは、個体の行動の解明ばかりではない。ハイスループットのDNA塩基配列解読技術の開発により、この壮大な渡り行動の情報と、鳥類個体の詳細なゲノムスケールの解析とを結び付ける可能性が切り開かれた。こうした取り組みで、渡り行動における遺伝的な要素が明らかになってきている。

渡りの諸側面の理解には、既にこうした進歩が大きなブレークスルーをもたらしている。しかし、この複雑な行動的課題がどのように統合されているのかを完全に理解するのは、一筋縄ではいかない。それでも、気候や生息地に地球規模の変化が続き、渡り鳥も、絶滅の危機に直面する動物の移動を守ろうとする人々も、かつてない課題に直面しており、鳥類の渡りの機構を明らかにすることはこれまでになく重要になっていると考えられる4,5

社会が直面している数々の大きな課題と同様に、鳥類の渡りをつかさどる調節機構の研究には、さまざまな分野の参画と統合が必要だ。そこでGuらは、毎年はるか北の北極圏で繁殖して南へ渡るハヤブサ個体群の渡りを研究するために、極めて多様な補完的手法を用いた。そして、そのハヤブサたちの渡りルートが過去にどう形成されたのか、それが個体群の動態と進化に現代までどう影響してきたのかを調べた。さらに、どの遺伝子が渡り行動の重要な調節要素なのか、そしてそれら全要素が合わさってどのようにハヤブサという種の行く末に影響するのかも調査した。

Guらは、ハヤブサの背中に衛星追跡装置(図1)を装着し、数年にわたって56個体の追跡を行い、北極で繁殖を行う別々の6つの個体群から合計150本の完全な渡りルートを明らかにした。また、35個体の全ゲノム塩基配列解読も行った。さらに、最終氷期極大期(2万2000年前)以降の花粉の記録を利用して、ハヤブサたちがそれぞれの分布域で経験した過去の気候の推測も行った。その推測気候データから、考えられるそれぞれの渡りルートの地球史的な形成や個体群の分離に関して、注目すべき知見が得られた。1万5000~1万年ほど前、氷冠が後退したときにツンドラ環境の繁殖域が縮小し、これら北方の個体群が過去に縮小したことが示唆されたのだ。

図1 衛星追跡装置を装着したハヤブサ(Falco peregrinus
Guら1は、この追跡装置を利用して、北極で繁殖を行うハヤブサ個体群の渡りルートを明らかにした。 | 拡大する

ANDREW DIXON

現在、追跡されている個体群の渡りの旅は、毎年それぞれの個体群に特異的な気候条件下で行われている。すなわち、同じ群れの個体は同じ気候条件下で渡りを行うが、群れによってその条件は異なるということだ。各個体が毎回同じ飛行ルートを守り、温帯・熱帯地域で個体群に特異的な同じ越冬地を利用しているとみられるのは、これが一因なのかもしれない。

また、全ゲノム塩基配列の解析から、ADCY8遺伝子がハヤブサの渡り行動の支援に役割を果たしている可能性が示唆された。異なる個体群のDNA塩基配列を比較すると、まさにこの遺伝子が個体群の間で大きく異なっていて、何らかのタイプの選択を受けているようであることが分かったのだ。ADCY8は、長期記憶の支援と機能的に関係している可能性もある。長期記憶は、長距離の移動を行わなければならない群れにとって特に重要と考えられる。渡りの成功には学習が役割を担っていると考えられ、Guらは、記憶の形成を介して学習を可能にしている可能性がある遺伝的要素の発見に注力した。鳥類の渡りに関与する、おそらく長期記憶に関わっている遺伝子の役割は、別の研究6でも調べられている。

Guらの研究は、個体群のサイズの進化過程を推測するために、学際的な取り組みと高度な統計学をどのように利用できるのかを示す典型例だ。今回の研究は、異なる個体群が別々に分かれた時期を利用することによって、生態学と進化学の枠組みでパターンをどう推測できるかも示している。そうした知見は、過去と将来のシナリオも含めて、長期にわたった群れの動態のモデル化を可能にする。注目すべきは、北極で繁殖して欧州へ渡る個体群が将来、地球温暖化の結果として生じる劇的な変化にさらされ、それによって渡りの距離が短くなるといった適応など、行動に特別な調節が必要になる、とGuらが結論付けていることだ。

Guらの研究の学際的な側面は、同様の統合的な取り組みを刺激するアウトラインとなるだろう。渡りを行う鳥類はさまざまな渡り戦略を持っており、こうした取り組みを考えるのに理想的なモデル系だ。例えば、北米に生息するミヤマシトド(Zonotrichia leucophrys)は、長距離の渡りを行う亜種もいれば、渡りを行わない亜種もいる7。また、ズグロムシクイ(Sylvia atricapilla)は非常に多様な渡りを行い、同じ種でも特に飛行の方向や経路は千差万別だ8

さらに、とりわけ渡りに関連する記憶形成の研究において、若鳥の最初の渡りと経験のある成鳥が選ぶルートとを比較するには、Guらのような研究を行うことが不可欠と考えられる。成鳥が若鳥にルートを教えるツル科のような種9も研究する必要があろう。そしてそのデータは、チドリ目(チドリやシギなどが含まれる)やスズメ目(ツバメやヒタキなどが含まれる)の種の分析結果と比較するのがよい。チドリ目やスズメ目の鳥類は、若鳥が最初の渡りを自力で成し遂げたり、成鳥とは異なるルートを選んだりさえするからだ10。このような比較手法や各種研究体系の補完力によって、渡り行動の遺伝的構造の解明に道が開かれ、その要因を証明できるだろう。

学際的な取り組みによる統合的な研究と、1つの分野内での単純化しすぎる研究の間には、細いが境界線が存在することはほぼ間違いないだろう。しかし、Guらの研究は、異なる分野からの証拠を統合する学際的な道筋を選ぶことにより、新たな知見が得られ科学の限界が押し広げられることの重要性を示す、さらなる一例だ。渡りのように複雑な行動の過程を理解するには、学際的研究が今以上に必要だろう。そうした研究は、我々人間に畏敬の念を抱かせ、インスピレーションを与える自然現象を守るための、効果的な保全研究に必要な「ツールボックス」ももたらすだろう。このことは、地球の多くの生態系にとって不可欠である。

(翻訳:小林盛方)

Simeon Lisovskiはアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(ドイツ・ポツダム)に所属、Miriam Liedvogelは鳥類研究所(ドイツ・ヴィルヘルムスハーフェン)およびマックス・プランク進化生物学研究所(ドイツ・プレーン)に所属。

参考文献

  1. Gu, Z. et al. Nature 591, 259–264 (2021).
  2. Magnus, O. Historia de Gentibus Septentrionalibus (Giovanni Maria Viotto, 1555).
  3. Bridge, E. S. et al. BioScience 61, 689–698 (2011).
  4. Bay, R. A. et al. Science 359, 83–86 (2018).
  5. Wilcove, D. S. & Wikelski, M. PLoS Biol. 6, e188 (2008).
  6. Delmore, K. E. et al. eLife 9, e54462 (2020).
  7. Ramenofsky, M., Campion, A. W., Pérez, J. H., Krause, J. S. & Németh, Z. J. Exp. Biol. 220, 1330–1340 (2017).
  8. Delmore, K. E. et al. Proc. R. Soc. B 287, 20201339 (2020).
  9. Mueller, T., O’Hara, R. B., Converse, S. J., Urbanek, R. P. & Fagan, W. F. Science 341, 999–1002 (2013).
  10. Grönroos, J., Muheim, R. & Åkesson, S. J. Exp. Biol. 213, 1829–1835 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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