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インサイトが測定した火星のコアは意外に大きかった

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210603

原文:Nature (2021-03-17) | doi: 10.1038/d41586-021-00696-7 | Mars’s core has been measured — and it's surprisingly large

Alexandra Witze

地球と月に続き、火星のコアの大きさが推定された。

2019年3月、地震計の設置を終えたインサイトが撮影した自撮り写真。全体にうっすらと塵が積もっている。 | 拡大する

NASA/JPL-CALTECH

科学者が初めて火星の中心部をのぞき込んだ。火星の深部を見るためにその地表に降り立ったNASAの探査機「インサイト(InSight)」は、火星内部の地震エネルギーの伝わり方に耳を澄ますことで、コア(核)の大きさを明らかにした(2020年3月号「火星の地震から見えてきた地質活動」参照)。

測定の結果、火星のコアの半径は1810〜1860kmと示された。地球のそれの約半分だ。この数字は過去の推定値よりも大きく、コアの密度が予想よりも低いことを意味している。火星のコアには、主な構成要素である鉄と硫黄の他に、酸素などの軽い元素が含まれているようだ。インサイトの科学者たちは、2021年3月に開催された月・惑星科学会議(米国テキサス州ヒューストン)のバーチャル総会でいくつかの発表を行い、測定結果を報告した。

地球や火星のような岩石質の惑星は、地殻、マントル、コアの3層に大きく分かれている。各層の大きさを知ることは、惑星がどのようにして形成され、進化してきたかを理解する上で非常に重要である。インサイトによる測定は、火星が冷えていく過程で、金属を多く含む高密度のコアが岩石質のマントルから分離していった過程を解き明かすのに役立つはずだ。コアは今でもおそらく、約45億年前に火星が誕生したときと同じく溶融状態にある。

地震計を使ってコアの大きさが測定された天体はこれまで、地球と月だけであった。火星が加わったことで、太陽系の惑星の進化の過程を比較・対照できる。地球と同様、火星もかつてはコアの流体の運動によって発生した強力な磁場を持っていた。しかし、時間の経過とともに磁場が急激に弱くなると、火星の大気は宇宙空間に逃げていき、その地表は地球に比べて低温で乾燥し、生物が住みにくい環境になってしまった。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校の地震学者Simon Stählerは、バーチャル総会の3月18日に行われた発表で、コアに関する知見を報告した。Nature はStählerにインタビューを申し込んだが、この研究成果は査読付き学術誌に投稿するつもりであるため応じられないという返事であった。

今回の成果は、インサイトが火星の地殻内の層を検知した初期の知見に基づくものだ。パリ地球物理学研究所(フランス)の地球物理学者でインサイトの地震計チームを率いるPhilippe Lognonnéは、事前に収録された別の発表で、「これでコアまでの深部構造が見えてきました」と語った。

2018年に火星に着陸したインサイトは総額約10億ドル(約1100億円)のミッションであり、史上初めて火星の内部を調査している。着陸地点として選ばれたのは火星の赤道付近で、着陸機はここで火星の地震(火震)にじっと耳を澄ましている。これまでにインサイトが検出した地震は約500回で、火星の地震活動は地球ほど活発ではないが、月よりは活発であることが分かる。Lognonnéによると、火星の地震はほとんどが小さいが、惑星の内部の情報を得るのに十分なマグニチュード2~4の地震も50回ほど検出されているという(2021年3月号「火星の内部を地震波で初探査」参照)。

火星探査機インサイトは2021年3月14日、地震計をつなぐテザーの埋設を開始した。 | 拡大する

NASA/JPL-Caltech

地球上の地震計と同様、インサイトは火星の深部のマントルとコアとの境界で跳ね返った地震波を調べることで、コアの大きさを測定する。インサイトの科学者は、十分な数の地震波から得られた情報により、コアとマントルの境界の深さ、つまりコアの大きさを計算することができた。地震データは、地下700~800kmにある上部マントルに、物質の粘性が高く、地震エネルギーが伝わる速度が遅くなっている領域があることも示唆していた。

惑星のコアの内部の状態を再現しようと、実験室で作り出した高温・高圧下でいくつかの化学元素の組み合わせを調べている科学者もいる。カーネギー科学研究所(米国ワシントンD.C.)の地球化学者Edgar Steenstraは、インサイトが推定した火星のコアの密度は、これらの研究結果の多くと一致していると言う。

しかし、さらなる発見には時間が足りないかもしれない。インサイトの直径2mの太陽電池パネルには塵が積もって発電量が減少してきているからだ。また火星は現在、公転軌道上を太陽から最も遠い位置に向かって進んでいるため、インサイトの再充電の機会はさらに制限されることになる。

ジェット推進研究所(米国カリフォルニア州パサデナ)でインサイトのプロジェクト・サイエンティストを務めるMark Panningは、「観測機器の使用量は減っていくでしょう」と言う。

2021年1月には、ドイツ製の熱流量計を使った観測を断念せざるを得なかった。インサイトは熱流量計のプローブ(愛称「モグラ」)を地中に打ち込んで熱流を測定する予定だったが、摩擦の問題で十分な深さまで掘り進めることができなかったのだ。

また、インサイトの地震計が収集する信号にはノイズが発生している。火星では昼から夜、夜から昼になるときに急激に温度が変化するのだが、地震計と着陸機をつなぐテザーが火星の表面に露出しているためにその影響を受けるのだ。断熱のために、現在インサイトは土をすくってテザーを埋めようとしている。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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