News & Views

免疫細胞の代謝変化により老化した脳が障害される

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210543

原文:Nature (2021-02-04) | doi: 10.1038/d41586-021-00063-6 | Reversal of immune-cell shutdown protects the ageing brain

Jonas J. Neher

マクロファージと呼ばれる免疫細胞は、老齢個体では主要な代謝経路が遮断されることが分かっている。マウスでの研究だが、この状態にあるマクロファージの代謝を回復することで、加齢に伴う認知機能低下を軽減できることが分かった。

脳のマクロファージであるミクログリア (青)と、錐体細胞(赤)、アストロサイト(緑)。 | 拡大する

selvanegra/iStock/Getty

マクロファージと呼ばれる免疫細胞は、ほぼ全ての組織に見られ、器官の健康を維持し、疾患を引き起こす微生物に対する防御の最前線において重要である。マクロファージは、活性化されるとエネルギー需要が劇的に増加するため、エネルギーを産生するための2つの主要な代謝経路(解糖と酸化的リン酸化)のバランスを変化させる、あるいは増強することで、効果的な免疫応答を迅速に促進する1。スタンフォード大学医学系大学院およびスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)のParas S. Minhasらはこのほど、個体の老化に伴いマクロファージのこれらの代謝経路が遮断されると、マクロファージの機能が損なわれ、続いて脳の健康も顕著に損なわれることをNature 2021年2月4日号122ページで報告している2。この研究は、高齢者の脳の健康の維持だけでなく、同様のマクロファージの不適応状態がよく見られるとされるアルツハイマー病や敗血症などの疾患にも関係している。

ほとんどの人では、老化に伴って軽度の慢性炎症が生じるようになる3。炎症シグナル伝達タンパク質の1つであるプロスタグランジンE2(PGE2)のレベルは、老化4だけでなく、神経変性疾患5の際にも上昇する。Minhasらは、マクロファージにおいてPGE2が老化に伴う変化を引き起こすかどうかを調べることにした。興味深いことに、ヒトやマウスでは、脳と末梢の両方で、マクロファージ自体のPGE2産生が増加していることが分かった。PGE2産生の増加は、マクロファージにおいてPGE2受容体タンパク質であるEP2の活性化につながり、次に、酸化的リン酸化と解糖を抑制した。結果として生じたエネルギー欠乏状態により、マクロファージの有益な機能が制限され、炎症の増強も引き起こされた。

これらの変化が老化に伴う認知機能障害を引き起こすかどうかを明らかにするために、末梢と脳のマクロファージにおいてのみEP2受容体レベルを低下させたマウス系統を調べたり、マウスにEP2阻害剤を投与したりした。驚いたことに、これら両方の実験で、EP2阻害によりマクロファージの代謝が若齢マウスレベルに回復し、末梢や脳での炎症が減弱して、認知機能低下が軽減した(図1)。これらの結果は、(少なくともマウスでは)老化に伴うマクロファージの機能不全が脳の健康に影響を及ぼすこと、また、マクロファージの代謝機能の抑制を解くことで正常な細胞機能を取り戻せることを示している。

図1 老齢個体のマクロファージの抑制された代謝機能は回復する
マクロファージと呼ばれる免疫細胞は、体全体(末梢)や脳に見られる。脳のマクロファージはミクログリアと呼ばれる。
a Minhasら2は、老齢個体の末梢マクロファージとミクログリアが、プロスタグランジンE2(PGE2)と呼ばれるタンパク質をより多く産生することを報告している(PGE2は、マクロファージの細胞膜上のEP2受容体に結合する)。このシグナル伝達経路の活性化によりマクロファージの代謝機能障害が起こり、さらには全身性の慢性炎症と認知機能低下が引き起こされることが分かった。
b Minhasらは2つの方法でEP2受容体を阻害した。1つ目の方法では、遺伝学的手法を用いて、マクロファージとミクログリアの両方においてEP2のレベルを低下させた。2つ目の方法では、EP2を薬理学的に阻害した。後者では脳に到達しない薬剤を使用しており、EP2の阻害は末梢でのみ起こった。どちらの条件下でも、EP2を阻害することで末梢マクロファージとミクログリアの代謝機能が改善され、炎症が軽減し、認知能力が回復した。EP2の末梢における阻害がミクログリアの変化を引き起こす機構は分かっていない(破線の矢印)。 | 拡大する

Minhasらは、老化に伴うマクロファージの代謝再配線についてさらに深く調べ続けた。老齢個体のマクロファージは、解糖あるいは酸化的リン酸化を介したエネルギー産生のためにグルコースを使用するのではなく、グリコーゲン(グルコースが重合体したもの)の形でエネルギーを貯蔵する傾向があることが分かった。グリコーゲンは通常、エネルギーの貯蔵所として機能するが、老齢個体マクロファージは、エネルギーが欠乏している状態にもかかわらず、グリコーゲンを使用していないと考えられた。

老齢個体のマクロファージがさらにグリコーゲンを貯蔵する理由は分からないが、関連細胞種である樹状細胞は、貯蔵グリコーゲンを使用して、最初期の炎症反応を促進する6。従って、老齢個体マクロファージは、炎症が急性に活性化される際に、より強力な免疫応答を開始できるように、グリコーゲンの貯蔵を増加させていると考えられる。この考えを裏付けるように、老齢個体のミクログリア(脳のマクロファージ)はプライミングされている、つまり、若齢個体のミクログリアよりも炎症性の損傷に強く応答する7ことがよく知られている。Minhasらは、ミクログリアのグリコーゲン貯蔵が増加することでプライミングが可能になるかどうかを直接解析していない。しかし、いくつかの証拠から、高齢者の脳では免疫応答の増悪が神経変性疾患に関与することが示唆されている7ので、この可能性を調べる価値は確実にあると考えられる。

脳疾患、特にアルツハイマー病におけるミクログリアの代謝機能障害の役割についての証拠もある。アルツハイマー病を発症するリスクは、ミクログリアの受容体タンパク質TREM2に変異がある人では数倍上昇する。マウスでは、TREM2の欠損によってミクログリアの代謝機能障害とアルツハイマー病の病変の悪化が引き起こされる8。さらに、マウスにおいてアルツハイマー病の特徴である凝集したアミロイドβタンパク質にミクログリアが慢性的に曝露されると、ミクログリアの酸化的リン酸化や解糖の低下が引き起こされる9。このどちらのマウスモデルにおいても、ミクログリアの代謝を増強すると、アルツハイマー病の病態の重症度が改善に導かれる。

敗血症(感染に応答した過剰な炎症から生じる疾患)では、PGE2レベルも上昇し9、長期的な認知障害が生じることが多い7。今回、マクロファージは免疫麻痺と呼ばれる強力な免疫抑制状態に入った。免疫麻痺は、酸化的リン酸化と解糖の両方の抑制も特徴としている1,10。従って、マクロファージにおいてこのような細胞機能抑制が起こることは、敗血症など過剰な免疫刺激、あるいは老化や神経変性疾患など慢性的な免疫刺激といったそれぞれの状況に合わせた応答なのかもしれない。この適応は、組織損傷を引き起こす可能性のある、過剰に活性化された免疫応答から生物を保護するので、進化の観点から見れば有益な可能性がある。しかし、老齢の生物個体では、これによって脳が機能障害あるいは変性さえ起こしやすくなると考えられる。これらの異なる疾患においてマクロファージの免疫状態が実際に同様なのかどうかは、まだ調べられていない。

Minhasらの研究には他にも興味深い点がある。老齢マウスでEP2阻害を末梢に限定した場合でも(脳内に入ることができない物質を用いる)、脳の炎症が軽減し、認知機能が回復したのだ(図1)。Minhasらの発見は、脳外で生じた免疫シグナルがミクログリアに影響を及ぼすことができるという報告11や、脳外の免疫細胞を刺激することで敗血症後の末梢マクロファージ10やアルツハイマー病マウスモデルのミクログリア9の代謝や機能を部分的に回復できるという報告を裏付けている。従って、これらの研究を総合すると、マウスでの知見ではあるが、疾患を発症していたり老齢であったりしても、マクロファージは免疫刺激に応答する状態が維持されていることが示されたと言える。

次の課題は、このようなマクロファージの可塑性が、マウスよりもはるかに寿命の長いヒトにおいて終末期まで保持されることや、PGE2–EP2経路がヒトの脳の老化と疾患に関係していることを実証することだろう。さらに、ミクログリアの最初の機能抑制を引き起こす免疫シグナルや、老化した動物のミクログリアを若いときの状態に戻す免疫シグナルは明らかになっていない。これらを特定すれば、さまざまな疾患と闘うための治療手法に結び付く可能性がある。

(翻訳:三谷祐貴子)

Jonas J. Neherは、ドイツ神経変性疾患センターおよびチュービンゲン大学(ドイツ)に所属。

参考文献

  1. Stienstra, R., Netea-Maier, R. T., Riksen, N. P., Joosten, L. A. B. & Netea, M. G. Cell Metab. 26, 142–156 (2017).
  2. Minhas, P. S. et al. Nature 590, 122–128 (2021).
  3. Franceschi, C., Garagnani, P., Parini, P., Giuliani, C. & Santoro, A. Nature Rev. Endocrinol. 14, 576–590 (2018).
  4. Wu, D. & Meydani, S. N. Brain Behav. Immun. 18, 487–494 (2004).
  5. Montine, T. J. et al. Neurology 53, 1495–1498 (1999).
  6. Thwe, P. M. et al. Cell Metab. 26, 558–567 (2017).
  7. Neher, J. J. & Cunningham, C. Trends Immunol. 40, 358–374 (2019).
  8. Ulland, T. K. et al. Cell 170, 649–663 (2017).
  9. Baik, S. H. et al. Cell Metab. 30, 493–507 (2019).
  10. Cheng, S.-C. et al. Nature Immunol. 17, 406–413 (2016).
  11. Wendeln, A.-C. et al. Nature 556, 332–338 (2018).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度