News & Views

β細胞でインスリン作用を調整するブレーキが発見された

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210540

原文:Nature (2021-02-11) | doi: 10.1038/d41586-021-00141-9 | New-found brake calibrates insulin action in β-cells

Rohit N. Kulkarni

インスリンは膵臓のβ細胞によって産生される。 今回、β細胞におけるインスリンシグナル伝達の調節因子が特定され、 この経路がβ細胞の生物学的性質において重要な役割を担っているとする 長年の考えが確固たるものになった。

ヒト膵臓の膵島細胞(中央のピンク色の部分)。内分泌に関わる細胞群で、インスリンを分泌するβ細胞などが含まれる。周辺の赤紫色の部分は外分泌に関わる細胞。 | 拡大する

Ed Reschke/Stone/Getty

インスリンが糖尿病の治療に最初に使用されてから、ほぼ1世紀になる1。それ以来、インスリンとその関連分子であるインスリン様増殖因子1(IGF1)によって調節される、複雑な代謝経路について非常に多くのことが分かってきている。インスリンやIGF1は受容体タンパク質を介して作用するが2、これらの受容体の活性が、実際にインスリンを産生する細胞である膵臓β細胞において調節される仕組みはよく分かっていない。現在、このような知識が緊急に必要とされているのは、β細胞機能の低下が糖尿病の主要な原因だからである。従って、β細胞を調節する分子経路の解明は、糖尿病の管理の改善や予防に役立つ可能性がある。このほどホルムヘルツセンターミュンヘンおよびドイツ糖尿病研究センター(共にドイツ・ノイヘルベルク)のAnsarullahら3は、これまで知られていなかったβ細胞の調節因子を特定し、このタンパク質がインスリン受容体の発現を「調整」できる機構についての概要をNature 2021年2月11日号326ページで報告した。

Ansarullahらは最初に、マウスにおいて胎仔膵臓に特異的に高発現する遺伝子を特定するために、細胞内のメッセンジャーRNA(mRNA)のレベルを解析した。これにより、第3染色体の1つの遺伝子によってコードされるmRNAが豊富に発現していることが明らかになった。マウスとヒトのタンパク質は進化的に高度に保存されていて、ヒトではエストロゲン誘導遺伝子(EIG121)と呼ばれる遺伝子が対応する。

EIG121はコードしているタンパク質がインスリン受容体およびIGF1受容体と類似していることから、AnsarullahらはEIG121という名称をインスリン抑制性受容体(inceptor;インセプター)に改名した。この3つの受容体はすべて細胞膜貫通型で、同様の細胞外ドメインを持っている。しかし、インスリン受容体およびIGF1受容体とは異なり、インセプターの細胞質内の短い尾部は、AP2(assembly polypeptide 2)タンパク質複合体に結合することが知られているアミノ酸配列を持つ。AP2は、クラスリン依存性エンドサイトーシスと呼ばれる過程に関与しており、この過程を介して細胞表面の分子や受容体が細胞内に輸送される。

次にAnsarullahらは、インセプターの機能を調べるために、インセプター遺伝子を完全に欠損するマウスと、β細胞特異的に欠失するマウスを作製した。この2つのモデルは一般的に類似した形質を示した。つまり、インスリン分泌の亢進(食餌摂取後の第1相分泌など、血中のグルコースレベルが上昇した直後の制御より亢進)に伴う、血中のグルコースレベルの低下、および、血中グルコースレベルの上昇に対処する能力の上昇(耐糖能の改善)である。インセプターは主にβ細胞において機能するという考えは、この2つの変異型マウス系統は対照マウスよりもβ細胞が数多く増殖していて細胞量が多いという観察から裏付けられ、変異型β細胞はより多くのインスリンを含んでいることを示している。また、β細胞が豊富な膵臓組織を培養して増殖させると、変異型マウスの膵臓組織は、対照よりもインスリン/IGF1受容体経路によって活性化されるタンパク質p-Aktの活性が高いことが分かった。これらのデータは、インセプターがインスリン受容体の発現を直接調整して作用することで、健康的なグルコースレベルの維持に関与することを示している。

今回の知見は、インスリンがβ細胞において生理的役割を担っているとする4,5、数十年前からの科学的報告を補足するものである。実際、マウスにおいてβ細胞のインスリン受容体を欠失させると(βIRKOと呼ばれる修飾)、Ansarullahらのβ細胞特異的なインセプター欠損マウスに見られるのとは反対の形質につながる5,6。例えば、βIRKOマウスは耐糖能異常につながる第1相分泌の鈍化を示す5が、これはβIRKO細胞特異的な影響によって生じる6。また、これらのデータは、β細胞の生物学的性質におけるインスリンシグナル伝達の直接の役割を実証するex vivoおよびin vitroモデルを用いたいくつかの研究と一致する7–11。機能的なインスリン受容体あるいはIGF1受容体を欠損するβ細胞や、これらの受容体が調節する他のタンパク質を欠損するβ細胞は、β細胞の成熟や分泌機能を制御するPDX1タンパク質の発現低下など、さまざまな異常を示す。PDX1の発現が低下すると、β細胞の増殖が変化し、グルコース刺激によるインスリン分泌が鈍化する2,6,12–15

Ansarullahらはさらに、インセプターがAP2との相互作用を介して、β細胞のインスリンに対する感受性を低下させるかどうかを調べた。インセプターは、活性型AP2M1サブユニットのpAP2M1と相互作用して、インスリン受容体およびIGF1受容体のクラスリン依存性エンドサイトーシスをサポートすることが分かった。これらの受容体は細胞内に入ると、インスリンによる活性化が起こらない(図1)。

図1 新たに発見されたインスリンシグナル伝達の調節因子
インスリンは膵臓β細胞で産生および分泌されるが、β細胞でインスリンシグナル伝達が調節される仕組みは分かっていなかった。Ansarullahら3は、β細胞において、これまでに知られていなかったインスリンシグナル伝達の調節因子であるタンパク質inceptor(インセプター)を見いだした。
a Ansarullahらは、インセプターが、AP2タンパク質複合体のサブユニットであるpAP2M1に結合することを見つけた。これによって、クラスリン依存性エンドサイトーシスと呼ばれる過程が開始し、インセプターとインスリン受容体(図示していないが、関連するインスリン様増殖因子1受容体も共に)が細胞膜に飲み込まれて、細胞内に取り込まれる(インターナリゼーション)。こうして、インスリンがこれらの受容体に結合できなくなる。このようなインスリンへの感受性低下によって、インスリンシグナル伝達が抑制され、β細胞からのインスリン分泌や増殖が微調整されることで、グルコースに対する正常な応答が維持される。
b インセプターを欠失させると、この経路を介したインスリン受容体のインターナリゼーションが阻害されて、インスリン作用が制限されず、インスリン分泌の増強とβ細胞増殖の増加につながる。 | 拡大する

インセプターがこのような方法でβ細胞のインスリン感受性を低下させられるという事実は、数十年間この分野につきまとう疑問に関係している。つまり、空腹時や食後、ヒトβ細胞の周囲のインスリンレベルはどのぐらいか? 糖尿病ではβ細胞におけるインスリン受容体シグナル伝達はどの程度影響を受けているのか? 体内の細胞はいつインスリンに応答しなくなるのか? β細胞の周囲の局所的インスリンレベルは高いはずだといわれることもあるが、in vivoの哺乳類においてβ細胞表面のインスリン濃度の正確な動態を確実に示す実験データは事実上ない。

関連する疑問としては、β細胞上のインスリン受容体の存在位置が浮かび上がる。受容体が細胞の基底外側表面に位置するなら、全身性血管に近く、血中を循環しているインスリンによって活性化されると考えられる。対照的に、反対側の頂端側表面に存在するなら、周囲のβ細胞から分泌されるインスリンによって調節される(パラクリン調節として知られる)と考えられる。実際に、注入されたインスリンがヒトβ細胞に直接有益な効果を及ぼすという観察16や、この有益な効果は2型糖尿病の患者では失われるという観察16,17から、基底外側表面に位置することが裏付けられている。今回のインセプターの特定は、パラクリン調節におけるインスリンの潜在的な役割を再検討するための新たな研究を促すと考えられる。

インセプターの特定は間違いなくインスリンシグナル伝達の理解を深めるが、いくつかの疑問が残る。例えば、ホルモン、代謝物、ストレス誘導要因など、代謝調節分子は、β細胞におけるインセプターの発現や機能にどのような影響を及ぼすのだろうか? 同様に、インセプターが発現している生殖や免疫を制御する視床下部-下垂体-生殖腺軸にも影響を及ぼすのだろうか? インセプター遺伝子内あるいはその近傍に、糖尿病や代謝性疾患に関連する遺伝的バリアントが存在するのだろうか? インスリンシグナル伝達は、主にインスリンの機能に関連する遺伝子を含むさまざまな遺伝子の発現を直接的18、間接的19に調節することが示されている。このようなインスリンシグナル伝達が核に及ぼす効果を、インセプターとインスリン受容体の間の相互作用が変化させる仕組みについては、検討する価値があると考えられる。さらに、2型糖尿病患者のβ細胞では、mRNAにメチル基が付加されるパターンの変化が見られる20。インセプターmRNAの修飾は、β細胞の生物学的性質の変化において、どのような役割を担っているのだろうか?

インセプターの特定は、β細胞におけるインスリン作用についてのこれまでの成果を確固たるものにする。このタンパク質の発見から、糖尿病のより効果的な管理、あるいは治療さえも長期的な目標として、β細胞のインスリンシグナル伝達経路においてタンパク質を利用する方法の探索が、新たな焦点となることに疑いの余地はない。

(翻訳:三谷祐貴子)

Rohit N. Kulkarniは、ジョスリン糖尿病センター、ハーバード大学医学系大学院、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院、ハーバード幹細胞研究所(以上、米国マサチューセッツ州ボストン)に所属。

参考文献

  1. Banting, F. G., Best, C. H., Collip, J. B., Campbell, W. R. & Fletcher, A. A. Can. Med. Assoc. J. 12, 141–146 (1922).
  2. Stewart, A. F. et al. Diabetes 64, 1872–1885 (2015).
  3. Ansarullah et al. Nature 590, 326–331 (2021).
  4. Xu, G. G. & Rothenberg, P. L. Diabetes 47, 1243–1252 (1998).
  5. Kulkarni, R. N. et al. Cell 96, 329–339 (1999).
  6. Otani, K. et al. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 286, E41–E49 (2004).
  7. Leibiger, I. B., Leibiger, B., Moede, T. & Berggren, P. O. Mol. Cell 1, 933–938 (1998).
  8. Aspinwall, C. A., Lakey, J. R. T. & Kennedy, R. T. J. Biol. Chem. 274, 6360–6365 (1999).
  9. Johnson, J. D. & Misler, S. Proc. Natl Acad. Sci. USA 99, 14566–14571 (2002).
  10. da Silva Xavier, G., Qian, Q., Cullen, P. J. & Rutter, G. A. Biochem. J. 377, 149–158 (2004).
  11. Ohsugi, M. et al. J. Biol. Chem. 280, 4992–5003 (2005).
  12. Withers, D. J. et al. Nature 391, 900–904 (1998).
  13. Tuttle, R. L. et al. Nature Med. 7, 1133–1137 (2001).
  14. Xuan, S. et al. J. Clin. Invest. 110, 1011–1019 (2002).
  15. Kulkarni, R. N. et al. Nature Genet. 31, 111–115 (2002).
  16. Halperin, F. et al. Diabetes 61, 301–309 (2012).
  17. Mari, A. et al. Diabetes 60, 3141–3147 (2011).
  18. Hancock, M. L. et al. Cell 177, 722–736 (2019).
  19. Shirakawa, J. et al. Cell Metab. 25, 868–882 (2017).
  20. De Jesus, D. F. et al. Nature Metab. 1, 765–774 (2019).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度