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造血幹細胞はトウガラシの刺激で血中に動員される

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210440

原文:Nature (2021-01-28) | doi: 10.1038/d41586-020-03577-7 | Pain-sensing neurons mobilize blood stem cells from bone marrow

Anastasia N. Tikhonova & Iannis Aifantis

痛みを感知する神経細胞をトウガラシの成分で刺激すると、この細胞によって造血幹細胞が動員できることが分かった。今回の成果はマウスで行われた研究だが、この発見は幹細胞移植の手順を改善するのに有望である。

血液幹細胞の基本的な特徴は、体の全血液と免疫系を再生する能力を持つことである。この過程は造血として、また、細胞は造血幹細胞(HSC)としてよく知られている。HSCは、発生中の胚では血液循環に入ることで移動が可能になり、異なる解剖学的部位をあちこち移動しているが、出生後は骨髄の特殊なニッチに存在している。ニッチは、HSCの静止状態や自己複製を支えている1。HSCは、生涯にわたって骨髄から放出され、不随意神経の制御下にある概日パターンで血球を補充する2。痛みを感知する神経も骨髄に接続されているが、これらのニューロンもHSCを動員できるのだろうか? このほどアルバート・アインシュタイン医科大学(米国ニューヨーク)のXin Gaoら3は、この疑問に取り組み、トウガラシの驚くべき役割を特定したことをNature 2021年1月28日号591ページで報告した。

今回の研究は、生物学的のみならず臨床的にも重要な知見となる可能性を秘めている。進行性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液がんの患者にとって、大量化学療法後に行われる治療の重要な部分は自家幹細胞移植(ASCT)4であり、これによって損傷を受けたHSCが健康なHSCに置換される。ASCTでは合併症の可能性を回避するために、患者自身の幹細胞を使用する。この幹細胞は、化学療法の前に患者の血液から採取されたもので、化学療法の後に静脈内に再注入されて、損傷を受けた骨髄を再生する。

この手順では、効率的な採取を行うために、健康なHSCが骨髄のニッチを離れて血流に入るのを促す方法が必要である。このような動員を刺激する分子として、1990年代以降、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)として知られる分泌因子が最も一般的に使用されている。また、2003年には別の動員刺激分子プレリキサフォルが導入された。プレリキサフォルはHSCが骨髄の足場へ継続的に接着するのを阻止するCXCR4拮抗薬である4。これ以降、動員を刺激する方法は進歩を見せ、さまざまな投与経路の開発や、G-CSFとプレリキサフォルの併用などが行われている。しかし、一部の人においては、HSCはいまだ十分に動員できない。これは、年齢、遺伝学的性質、がんのタイプ(リンパ腫患者の最大25%が動員不良を示す)など、臨床的リスク要因に加え、化学療法を繰り返し受けているためであると考えられる5。従って、HSC動員の分子機構を理解することは急務である4

そうした中で、Gaoらの登場である。Gaoらは、マウスにおいて骨髄の神経線維を免疫蛍光画像化法によって調べることから始め、ほとんどが「侵害受容性」神経であることを明らかにした。これらの侵害受容器は、傷害に応答して痛みを誘発することにより、生物を危険から守る感覚ニューロンである。侵害受容器は体内において、侵害刺激を感知するあらゆる領域に見られる6。これらのニューロンは、皮膚や腸など、バリア組織で最もよく研究されているが、骨髄など、非バリア組織における侵害受容器の生物学的役割は、痛みの知覚を除いて、ほとんど研究されていない。

Gaoらは、造血の維持において侵害受容器が担う役割を調べるために、薬理学的および遺伝学的な戦略を用いて、これらのニューロンを除去した。これによって、骨髄におけるHSCの維持には影響が見られなかったが、G-CSFが誘導する、血流へのHSC動員は顕著に減少したことから、このクラスのニューロンはHSCの接着あるいは移動に影響を及ぼすことが示唆された。

カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は、侵害受容器ニューロンから分泌される主要な神経伝達物質分子である6。Gaoらは、CGRPを投与すると、G-CSF、プレリキサフォル、またはその両方による治療後のHSC動員が大きく改善されることを見いだした。またCGRPが(骨髄を介して間接的に作用するのではなく)HSCに直接影響を及ぼすこと、つまりHSC表面のCALCRLおよびRAMP1のタンパク質からなる二量体受容体の形成を誘導することも観察した(図1)。骨髄HSCにおいてこれら2つのタンパク質のいずれかを欠損する遺伝的改変マウスでは、HSC動員の異常が引き起こされた。

図1 痛みを感知する神経細胞は造血幹細胞の動員を調節する
Gaoら3は、骨髄のほとんどの神経が侵害受容器と呼ばれるニューロンであることを報告している。これらの神経を、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)というタンパク質、あるいはカプサイシンと呼ばれるトウガラシの成分を使って刺激すると(刺激が直接的であるのか間接的であるのかは分かっていない)、細胞から神経伝達物質分子であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が放出されることが分かった。次に、CGRPは、造血幹細胞(HSC)と呼ばれる血液幹細胞に、CALCRLおよびRAMP1のタンパク質からなる二量体の受容体を介して直接結合する。これにより、HSCの骨髄から血管への移動が促進される。 | 拡大する

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臨床では、化学療法を繰り返し継続的に行うと、HSC動員が減少することが多い。Gaoらは、この異常を、マウスにおいて化学療法薬シスプラチンの毎週1回投与を5サイクル(5週間)にわたって行うことで再現した。注目すべきは、このマウスにCGRPを投与すると、HSC動員が回復したことである。この知見は極めて重要な可能性があり、「動員が不十分な」人におけるHSC採取のプロトコルが大きく改善されるかもしれない。

特定の種類の辛い食物は侵害受容器の活性化を引き起こす可能性があることから、Gaoらは、辛い食物の摂取によりHSCの動員が引き起こされるのではないかと考えた。Gaoらはこの考えを検討するために、トウガラシの辛味の主成分である「カプサイシン」が豊富な食餌をマウスに摂取させた。この辛い食餌によって、骨髄の細胞外液中のCGRPレベルが上昇し、CGRPによって誘導されるHSC動員が増加した。この効果は、侵害受容器を薬理学的に遮断すると消失したことから、これらのニューロンが、カプサイシンの豊富な食餌の効果を仲介したことが示された。

この論文は、神経系、骨髄、血液細胞の発生の間の結び付きに関する我々の理解に、興味深い事実を付け加えている。骨髄のニューロンについての顕微鏡写真を用いた初期の研究では、骨髄は神経線維によって神経支配されていることが示された7。また過去10年間で、外科的、薬理学的、遺伝学的な除神経モデルを用いた研究により、HSCニッチを調節する神経系の役割が確立されている8。しかし、これらの研究は主に交感神経線維(体の不随意行動に関与する神経)に焦点を当てており、交感神経線維がニッチの機能的完全性を維持するのに役立つことを示したものである9。今回Gaoらは、神経伝達物質CGRPの分泌を介してHSCに直接作用する侵害受容ニューロンが、HSCの骨髄ニッチへの接着と末梢血への動員能を制御することを見いだした。

骨髄では造血が行われる。ここで維持されている造血幹細胞(HSC)は、自己複製能と、全ての血液系細胞に分化できる能力を持つ。HSCの維持に必要なシグナルを提供する幹細胞ニッチは、骨髄中の骨芽細胞などによって構築されている。 | 拡大する

一方Gaoらは、HSCに発現して、HSCの移動に関連することが知られている3つの分子(CXCR4、CD44、VLA4)について調べたところ、これらの細胞表面レベルにニューロン誘導性の変化を検出しなかった。これは驚きであり、今後の研究では、CALCRL–RAMP1刺激後のHSC動員を仲介する正確な機構を解明する必要があると考えられる。また、G-CSFが直接、あるいは骨髄の他の細胞種を介して間接的に侵害受容器に影響を与えるかどうかも分かっていない。このような疑問には、動物において細胞種特異的な遺伝子ターゲティングを用いて取り組むことができるだろう。さらに、マウスではヒトの生物学的性質が完全には反映されないことが多いため、ヒトに関連する可能性のある知見は、臨床試験において検証する必要があると考えられる。

最後に、骨髄におけるストレス応答とそのニューロンに及ぼす影響についても考慮する必要があるだろう。例えば、白血病は骨髄において神経損傷を誘導する10ため、血液がんや加齢が、特に骨髄侵害受容器に及ぼす影響を研究することは有益である。このような課題はあるが、今や、造血の神経調節についてのロバストな分子的理解が始まろうとしている。

(翻訳:三谷祐貴子)

Anastasia N. Tikhonovaは、ユニバーシティ・ヘルス・ネットワーク(カナダ・トロント)に所属、Iannis Aifantisはニューヨーク大学グロスマン医学系大学院(米国)に所属。

参考文献

  1. Crane, G. M., Jeffery, E. & Morrison, S. J. Nature Rev. Immunol. 17, 573–590 (2017).
  2. Méndez-Ferrer, S., Lucas, D., Battista, M. & Frenette, P. S. Nature 452, 442–447 (2008).
  3. Gao, X. et al. Nature 589, 591–596 (2021).
  4. To, L. B., Levesque, J.-P. & Herbert, K. E. Blood 118, 4530–4540 (2011).
  5. Donmez, A., Yilmaz, F., Gokmen, N. & Tombuloglu, M. Transfus. Apher. Sci. 49, 485–488 (2013).
  6. Dubin, A. E. & Patapoutian, A. J. Clin. Invest. 120, 3760–3772 (2010).
  7. Calvo, W. Am. J. Anat. 123, 315–328 (1968).
  8. Agarwala, S. & Tamplin, O. J. Trends Cell. Biol. 28, 987–998 (2018).
  9. Picoli, C. C. et al. Stem Cells Transl. Med. https://doi. org/10.1002/sctm.20-0284 (2020).
  10. Hanoun, M. et al. Cell Stem Cell 15, 365–375 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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