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タンパク質制限食による老化防止機構

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210446

原文:Nature (2021-01-21) | doi: 10.1038/d41586-020-03662-x | Anti-ageing effects of protein restriction unpacked

Cristal M. Hill & Matt Kaeberlein

動物を用いた2つの研究で、食餌からの分岐鎖アミノ酸の摂取を制限すると、mTORシグナル伝達経路が調節されて寿命が延びる可能性があることが示された。しかし、この食餌療法を人に推奨するには、さらなる研究が必要である。

ショウジョウバエとマウスの実験から、分岐アミノ酸BCAAの摂取を制限するとmTORの活性が抑えられて寿命が延びる可能性が示唆された。しかしながら、一般の人、特に65歳以上の健康的・活動的な人に、この食餌制限を推奨するには時期尚早である。 | 拡大する

食餌制限は寿命を延ばすためのツールとして使用できるという考えは、数十年もの間、老化研究の中心であり続けている。しかし、食餌制限が作用する機構や、特定の栄養成分の関与については分かっていない。このほど、老化には栄養素の1つのタイプである分岐鎖アミノ酸(BCAA)が重要であることを、マックス・プランク老化生物学研究所(ドイツ・ケルン)のJiongming Luらがショウジョウバエ1で、ウィスコンシン大学マディソン校(米国)およびウィリアム・S・ミドルトン記念退役軍人病院(米国ウィスコンシン州マディソン)のNicole E. Richardsonらがマウス2で明らかにし、Nature Aging 2021年1月号の60ページ73ページにそれぞれ報告している。これらの研究は、特定の食餌成分が老化に及ぼす影響についての理解を深め、また、これまでの観察を一貫性のあるモデルに結び付けた。

BCAAは、ロイシン、イソロイシン、バリンの3つの必須アミノ酸の総称である。ヒトはBCAAを合成できないので、もっぱら食物中のタンパク質から摂取しなければならない。ロイシンは、細胞の増殖と分化の重要な調節因子として機能するmTOR(mechanistic target of rapamycin)タンパク質の強力な活性化因子である。食餌中のタンパク質制限(これにより含まれるロイシンや他のBCAAのレベルが低くなる)とmTORの抑制の両方によって、動物の寿命が延びる可能性がある3,4

1つ目の論文でLuら1は、食餌中のタンパク質制限がショウジョウバエの寿命を延ばす機構を解明しようとした。彼らは、進化的に保存されたストレス誘導性タンパク質であるセストリンに着目した。セストリンはアミノ酸量をmTORシグナル伝達に結び付ける5。セストリンはmTORを抑制する複合体の一部として機能していて、セストリンがロイシンを感知して結合すると、mTORの抑制が解除されて活性化する5。セストリンを欠損するハエは、食餌中のタンパク質制限に正常に反応できないこと、また、セストリンの特定のアミノ酸残基(407番目のアルギニン)がアミノ酸を感知することが分かった。この残基が変異しているハエは、変異を持たない対照群よりもmTOR活性が低く、より長寿命であり、高タンパク質食による寿命短縮という負の効果から保護されていた。

2番目の研究ではRichardsonら2が、マウスにおいてBCAA制限食の影響に関する補完的なデータを示している。これまでの研究6とは対照的に、生涯にわたってBCAA制限食を摂取させた雄マウスではロバストな寿命の延長が観察され、これは食餌中のタンパク質制限による健康への有益な効果と同等であった。これらの結果から、LuらとRichardsonらの研究は共に、BCAA制限に関連する有益な効果の主要なメディエーターはmTORであることを示している(図1)。だが興味深いことに、雌マウスではBCAA制限食またはタンパク質制限食による寿命の延長は見られず、また雄マウスへの有益な効果も、中年期にBCAA制限食を開始すると大幅に減少した。

図1 老化における分岐鎖アミノ酸(BCAA)
a タンパク質セストリンはBCAAのロイシンに結合すると考えられている。セストリンは、ロイシンに結合することで隔離されると、mTOR(mechanistic target of rapamycin)タンパク質を抑制する複合体(図示していない)の一部としての効果を発揮できない。
b Luら1は、ショウジョウバエにおいて食餌中のBCAAを制限すると、セストリンによるmTORの抑制が増強されることを報告している。mTORシグナル伝達が低下すると、老化防止効果が生じる。Richardsonら2は、マウスにおいてもBCAA制限に老化防止効果があることを見いだし、この経路が複数の種に共通であるという考えが裏付けられた。 | 拡大する

skynesher/E+/Getty

次にLuらは、少なくともショウジョウバエにおいては、セストリンを介したmTORの抑制によって、腸幹細胞でオートファジーと呼ばれる細胞内リサイクリング過程が活性化して腸機能が改善されるという証拠を示している。これらの知見は、モデル生物では、薬剤ラパマイシンによるmTORの直接的な薬理学的阻害によってオートファジーが増強され、寿命と健康寿命(比較的良好な健康状態で過ごす期間)を延ばすことができることを示す多くの文献とうまく合致する3。しかし、マウスでは、ラパマイシンの効果はBCAA制限の効果よりもロバストで、性依存性が低い7と考えられることから、これらの介入の間には重要な差異があることが示唆される。これらの差異については、考えられる説明がいくつかある。例えば、BCAA制限のmTOR非依存的な効果がこの食餌療法の有益な効果の一部を打ち消す可能性、あるいはラパマイシンによって引き起こされる、より強力なmTOR抑制が下流の経路に異なる影響を及ぼす可能性が考えられる3

炭水化物の含有量が低いケトン食は、対照群の食餌よりもタンパク質が少ないことが多く、マウスにおいて寿命と健康寿命も延ばすことができる8,9。動物においてケトン食あるいは食餌のタンパク質制限のいずれかを行うと、ホルモンである繊維芽細胞増殖因子21(FGF21)の発現上昇が引き起こされる。FGF21は、食餌のタンパク質制限が寿命に及ぼす影響に関係している10。興味深いことに、Richardsonらは、生涯にわたるBCAA制限が長命の雄マウスではFGF21の発現上昇につながるが、短命の雌マウスではつながらないという予備的な証拠を見いだしている。しかし、FGF21がmTORシグナル伝達に及ぼす影響は複雑であり、さまざまな組織で活性化と抑制の両方の効果を及ぼす証拠がある。今後の研究では、これら2つの食餌介入の作用機構に加え、ラパマイシンによるmTOR直接抑制の作用機構について、共通する部分と異なる部分を明らかにする必要がある。

これらの結果から、食餌中のタンパク質、特にBCAAが進化的に保存された寿命を延ばす経路を促進する機構的基盤について、カギとなる手掛かりが示されている。明確なのは、mTORシグナル伝達やオートファジーを調節して、老化の過程で腸幹細胞の機能を維持するために、どのようにしてセストリンが特定のアミノ酸を感知しているのかということだ。詳細については多くが解明されていないが、mTORシグナル伝達下流の他の標的が哺乳類の老化に関与している可能性があり、今回の研究は重要な前進である。

過去10年間で、齧歯類での老化を遅らせる栄養戦略をヒトに取り入れるべきであると考える社会的傾向が強まっている。タンパク質あるいはBCAAの制限を、健康的な生活様式の選択として考慮すべきだろうか? ヒトにおいて過剰なタンパク質摂取が健康状態の悪化や死亡率の上昇に関連するという考えの裏付けは、疫学データで見ることができる11。しかし、臨床的介入としてタンパク質制限が優先的に選択される慢性腎臓病の人でさえ、タンパク質制限が死亡率に影響を及ぼすかどうかは明らかではない12。また、高タンパク質摂取による健康への悪影響を指摘する、ヒトでの証拠の大部分が、おそらく完全に栄養過剰摂取の集団における結果であることにも注意が必要だ。そして、動物実験では取り上げられていないが、身体活動のレベルは、健康に関与するもう1つの要因である。推測ではあるが、タンパク質やBCAAの制限は、座ることが多い生活を送っている人と、活動的で定期的に運動している人では、全く異なる影響を及ぼす可能性があると考えられる。

他にも考慮すべきことがある。遺伝的背景は食餌制限への応答において重要であり、同じ低カロリー療法でも、寿命が延びるマウス系統もあれば、寿命が短くなるマウス系統もある13。昨年発表された研究からは、ショウジョウバエでは、タンパク質制限は調べた遺伝的背景の約4分の1に有害な影響を及ぼすことが分かった14。しかしながら、遺伝的多様性が、マウスにおける食餌中のタンパク質制限あるいはBCAA制限の影響をどのように変化させるかは、まだ分かっていない。

齧歯類では、中年期以降に食餌制限を開始すると有益な効果が低下し、場合によっては寿命を短くする可能性を示す証拠もある15。興味深いことに、Richardsonらは、雌マウスに16カ月齢(おそらくヒトでは50歳に相当)でBCAA制限を開始するとその約4分の1で寿命が短くなっているようであると示しているが、このデータにヒントがあるかもしれない。これと関係していると思われるものとして、若齢の人の食餌によるタンパク質摂取は全死亡率の上昇と関連するが、この関係は65歳前後で逆転し、タンパク質摂取量の上昇が高齢者の死亡率の低下と関連するというデータがある16

まとめると、これらの観察から、タンパク質やBCAAを制限した食餌は、老化の基本的な機構を調べるための強力な研究ツールであるが、一般の人に取り入れることを推奨するには時期尚早であると考えられる。特に、65歳以上で、既に健康的で活動的な生活様式を持つ人には速断に過ぎるだろう。

(翻訳:三谷祐貴子)

Cristal M. Hill & Matt Kaeberleinは、Cristal M. Hillはペニントン生物医学研究センター(米国ルイジアナ州バトンルージュ)に所属、Matt Kaeberleinはワシントン大学(米国シアトル)に所属。

参考文献

  1. Lu, J. et al. Nature Aging 1, 60–72 (2021).
  2. Richardson, N. E. et al. Nature Aging 1, 73–86 (2021).
  3. Johnson, S. C., Rabinovitch, P. S. & Kaeberlein, M. Nature 493, 338–345 (2013).
  4. Le Couteur, D. G. et al. Ageing Res. Rev. 64, 101198 (2020).
  5. Chantranupong, L. et al. Cell Rep. 9, 1–8 (2014).
  6. Solon-Biet, S. M. et al. Nature Metab. 1, 532–545 (2019).
  7. Selvarani, R., Mohammed, S. & Richardson, A. GeroScience https://doi.org/10.1007/s11357-020-00274-1 (2020).
  8. Newman, J. C. et al. Cell Metab. 26, 547–557 (2017).
  9. Roberts, M. N. et al. Cell Metab. 26, 539–546 (2017).
  10. Hill, C. M., Berthoud, H.-R., Münzberg, H. & Morrison, C. D. Front. Neuroendocrinol. 51, 125–131 (2018).
  11. Fontana, L. et al. Cell Rep. 16, 520–530 (2016).
  12. Yan, B., Su, X., Xu, B., Qiao, X. & Wang, L. PLoS ONE 13, e0206134 (2018).
  13. Liao, C.-Y., Rikke, B. A., Johnson, T. E., Diaz, V. & Nelson, J. F. Aging Cell 9, 92–95 (2010).
  14. Jin, K. et al. PLoS Genet. 16, e1008835 (2020).
  15. Lipman, R. D., Smith, D. E., Bronson, R. T. & Blumberg, J. Aging Clin. Exp. Res. 7, 136–139 (1995).
  16. Levine, M. E. et al. Cell Metab. 19, 407–417 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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