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2021年注目の科学イベント

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210311

原文:Nature (2020-12-22) | doi: 10.1038/d41586-020-03651-0 | The science events to watch for in 2021

Holly Else

地球温暖化対策、COVID-19ワクチン、オープンアクセス運動など、2021年の科学界の注目すべき話題をまとめた。

米国カリフォルニア州で2020年に発生した森林火災現場。地球温暖化により、こうした森林火災がより頻繁に起こる可能性がある。同年10月、同州スプリングビルで。 | 拡大する

AL SEIB/LOS ANGELES TIMES/GETTY

地球温暖化対策は次段階へ

2021年は、地球温暖化との闘いにおいて極めて重要な年になりそうだ。米国のジョー・バイデン新大統領は、パリ協定に復帰することを含め、地球温暖化問題における米国の指導力を回復すると明言している(ドナルド・トランプ前大統領はパリ協定からの離脱を表明し、米国は2020年11月に正式に離脱した。バイデン新大統領は2021年1月20日の就任直後、パリ協定に復帰する大統領令に署名した)。温暖化対策交渉の重要な場が、2021年11月に英国グラスゴーで開かれる国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)だ。各国は、2015年にパリ協定に合意して以来初めて、温室効果ガス排出量の削減について新ラウンドの約束を行う。欧州連合(EU)と中国は、2050~2060年にカーボンニュートラルを実現するという野心的な計画を持っている。科学者たちは、バイデン大統領が米国にも同様の目標を設定するかを見守っている。

ウイルス感染源を追って

世界保健機関(WHO)が派遣する調査チームが2021年1月に中国に入り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(世界的大流行)の感染源を見つけようと試みる。調査チームは、疫学者、ウイルス学者、公衆衛生研究者、動物衛生研究者らからなり、2019年に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染者が初めて発見された武漢市で調査を始める。調査の第一段階は、同市の華南海鮮卸売市場で売られた肉と動物を調べる。この市場は、最初に報告されたSARS-CoV-2感染者の多くが訪れていた。そして、疑いのある動物について、中国の国内および国境を越えた移動をたどる。専門家は、ウイルスの起源を発見するまでには何年もかかるかもしれないが、2021年末までに新たな情報が明らかになるだろうと考えている。

2020年1月、中国・武漢市の華南海鮮卸売市場前で警備する警官。この市場がSARS-CoV-2の感染源であるかどうかははっきりしていない。 | 拡大する

HECTOR RETAMAL/AFP/GETTY

COVID-19ワクチンが試される時

COVID-19予防接種用として承認された最初のワクチン群が2020年中に登場した(2020年6月号「コロナウイルスワクチンの開発レース」参照)。ワクチンの有効性は2021年の早いうちに、より明確になるだろう。ファイザー社(米国)とビオンテック社(ドイツ)が共同開発したRNAワクチンと、モデルナ社(米国)が開発したRNAワクチンは、既に第III相臨床試験の初期の結果を公表している。両ワクチンや、オックスフォード大学(英国)とアストラゼネカ社(同)が開発したウイルスベクターワクチンは、一部の国で既に緊急使用の承認を得ている。興味深いのは、米国の製薬会社ノババックスが開発した、組換えウイルススパイクタンパク質ワクチンと、ジョンソン・エンド・ジョンソン社(米国)が開発したウイルスベクターワクチンの第III相臨床試験の結果がどうなるかだ。ファイザー社/ビオンテック社およびモデルナ社のRNAワクチンは、非常に低い温度で貯蔵しなければならない。一方、ノババックス社とジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンは一般的な冷蔵庫で保存でき、配布が容易とみられる。また、ファイザー社/ビオンテック社のワクチンとモデルナ社のワクチンは2回の接種が必要だが、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は1回接種ワクチンを試験している。ノババックス社は2020年末、大規模な臨床試験を英国と米国で開始した。その結果は2021年の早いうちに報告されるだろう。同社は年間20億回分ものワクチンを製造できる可能性がある。

オープンアクセス運動が実行に

2021年、世界最大規模の研究資金助成組織の一部が参加しているオープンアクセスプロジェクト「プランS」が実行の時期を迎え、科学論文の出版に注目が集まるだろう。プランSは2018年に始まり、医学研究支援団体ウェルカムトラスト(英国ロンドン)、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(米国ワシントン州シアトル)、オランダ科学研究機構など、世界の20以上の研究資金助成組織が参加している(2018年12月号「ペイウォールをなくすための過激な計画」参照)。プランSは、2021年1月から、参加組織が資金を助成した研究で出版された科学論文は、即時に無料で読めなければならないことを定めている。プランSの結果、誰でも科学論文を読むことができるようになり、購読型学術誌の終わりを意味する可能性がある。プランSは既にいくつかの学術誌(Nature を含む)に、オープンアクセス出版の選択肢を提供するよう求めている(Nature は、その出版元であるシュプリンガー・ネイチャーに対し編集の独立性を保っている)。

幹細胞研究指針の改定に期待

国際幹細胞学会(ISSCR;米国イリノイ州)が公表している幹細胞研究指針が2021年に改定される予定で、研究者たちはそれを心待ちにしている。国際幹細胞学会は会員制組織で、現在の指針は2016年に公表されたものだ(2018年8月号「ヒトの胚や幹細胞を用いる研究論文に新たなお願い」参照)。改定には、ヒト幹細胞を体外で培養して作製した「胚様構造」の研究指針が盛り込まれる見込みだ。これは「14日ルール」の延長を後押しする可能性がある(2020年2月号「霊長類胚の体外培養で最長記録達成」参照)。14日ルールは、体外で培養したヒト胚で受精後14日以上研究を行うことはできないと定めたもので、多くの国で法律で正式に規定されている。期間が延長されれば、妊娠初期に流産に至る場合が多い理由を解明できるかもしれない。

アルツハイマー病薬の承認なるか

米国食品医薬品局(FDA)は近く、アルツハイマー病の進行を遅らせるという結果が初めて報告された治療薬「アデュカヌマブ」の使用について、承認の可否を決定する予定だ。この薬は米国の製薬会社バイオジェン(Biogen;マサチューセッツ州ケンブリッジ)が開発したもので、脳内のアミロイドと呼ばれる粘着性のタンパク質に結合する抗体だ(2016年11月号「アルツハイマー病新薬候補で認知機能低下が鈍化」参照)。アミロイドは、アルツハイマー病の主要な原因である可能性があると研究者の多くが考えている物質だ。2つの第III相臨床試験データが、アデュカヌマブの効果について相反する結果を出した。FDAはアデュカヌマブの有効性を評価するために独立した諮問委員会を設置し、同委員会は2020年11月、臨床試験データは有効性を立証していないと結論した。今までに承認された唯一のアルツハイマー病治療薬は、病気の進行を遅らせるものではなく、記憶障害などの認知機能障害の症状を改善するものだ。

火星探査ラッシュ

中国の野心的な宇宙開発は2021年も続く。中国が2020年7月に打ち上げた火星探査機「天問1号」が、2021年2月に火星に着陸する予定だ。天問1号は、カメラ、レーダー、粒子分析器など、13の機器を使って水と生命の徴候を探す。成功すれば、中国初の火星探査になり、また、軌道船、着陸機、ローバー(探査車)の3つを備えて火星の探査に成功した初めての探査機になる。アラブ首長国連邦の探査機(2020年7月、種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられた)と米国の探査機も同じころに火星に到着する予定だ。

待望の宇宙望遠鏡の打ち上げ

待望のジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡は、2021年10月に打ち上げられる。計画の総費用は約97億ドル(約1兆円)で、開発を行った米航空宇宙局(NASA)は「これまでに作られた、最大かつ最も強力で複雑な宇宙望遠鏡」と説明する。ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡の成功の再現を狙う。ハッブル宇宙望遠鏡は1990年に打ち上げられ、天文学に革命を起こし、130万回以上の観測を行った。ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡よりも長波長の光を観測し、赤方偏移の大きな天体を観測することができる。

完全に組み立てられたジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡。反射鏡(口径6.5m)と太陽光シールドは、打ち上げ時は折り畳まれる。 | 拡大する

NASA

重力波検出の新方式

電波天文学者は、ミリ秒パルサーをビーコンとして利用して重力波を検出する新しい方法を実証しようとしている。欧州、北米、オーストラリアの各研究チームが、ミリ秒パルサーのシグナルのタイミングを正確に測定することにより、超大質量ブラックホールの対が、遠い銀河の中心で互いの周囲を回る際に放った、非常に波長の長い重力波を検出しようと試みている。

英国とEUは新たな関係に

英国はEUを離脱したが、英国の研究者たちはEUの総額850億ユーロ(約10兆8000億円)の研究資金助成計画「ホライズン・ヨーロッパ」に参加できることになった。英国とEUは、EU離脱後の両者の関係を決める貿易協定に、移行期間終了間際の2020年12月24日に合意した。この際、英国は準会員としてホライズン・ヨーロッパに参加できることが決まった。同計画への英国の財政的貢献の額についてはまだ決まっていない。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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