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火星の内部を地震波で初探査

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210306

原文:Nature (2020-12-15) | doi: 10.1038/d41586-020-03562-0 | Surprise! First peek inside Mars reveals a crust with cake-like layers

Alexandra Witze

NASAの火星探査機インサイトが、地球以外の惑星の内部構造を初めて地震波で調べた。

火星に着陸した探査機インサイト(太陽電池パネル展開時の全幅約6m、質量約360kg)の想像図。ドーム状のシールドを備える地震計(左)で火震を、熱流量計(右)で地中の熱流を測定する。 | 拡大する

NASA/JPL-CALTECH

米航空宇宙局(NASA)の火星探査機「インサイト」(InSight)が火星の内部を地震波で探査し、その概要がこのほど報告された。地球以外の惑星の内部を地表面の地震計で調べたのは今回が初めてだ。火星の地殻は2層あるいは3層構造になっている可能性があることが報告され、火星がどのように形成されて進化してきたかの解明に一歩近づいた。

この報告は、ケルン大学(ドイツ)の地震学者Brigitte Knapmeyer-Endrunが行った。彼女は2020年12月15日、米国地球物理学連合のオンライン学会で再生された事前録画講演の中で報告し、「今まで火星内部のこの種の情報はありませんでした」と話した。彼女は、今回の研究は査読付き学術誌での発表のために審査中であることを理由に、Nature の取材を辞退した。

火震(火星で起こる地震)の観測は、1970年代のNASAの探査機バイキング1号、同2号で試みられたが、バイキングの観測結果は不完全なものだった。今回の観測まで、地表面の地震計で内部構造が探査された惑星は実質的に地球だけだった。

インサイトは2018年11月に、火星の赤道に近いエリシウム平原に着陸した1。そして、極めて高感度の地震計を使い、火星の内部を伝わる地震波を観測した2(2020年3月号「火星の地震から見えてきた地質活動」参照)。インサイトの研究責任者(PI)で、ジェット推進研究所(米国カリフォルニア州パサデナ)の科学者Bruce Banerdtは、「インサイトはこれまでに480回以上の火震を検出しました」と話す。火星の地震活動は地球ほど活発ではないが、月よりは活発だ。

一般に、岩石惑星の内部は、地殻、ケイ酸塩のマントル、鉄に富む核に分離すると考えられている。地震学者たちは、地震波の進み方を観測することにより、火星の内部構造を調べ、核、マントル、地殻の始まりと終わりの深さと、それぞれの構造を推定できる。そうして得られた地質学的な層構造から、数十億年前の太陽系の誕生時に火星がどのように冷えて形成されたかが分かる。Banerdtは「私たちは今回、こうした大きな疑問の一部に答えを出し始められるだけのデータを得ました」と話す。

地球の大陸の地殻は一般的に、異なる種類の岩石でできたサブレイヤー(副層)に分かれている。今回、インサイトの観測データから、火星の地殻は、地震波の速度が異なる、2つあるいは3つの層に分かれているとみられることが分かった。Knapmeyer-Endrunによると、インサイトの着陸地点では、地殻が2層であれば地殻の厚さは20km、3層であれば37kmになるという。地殻の厚さはおそらく場所によって異なっているが、火星全体の平均で70km以下とみられるという。地球の地殻の厚さは、海洋では約5~10km、大陸では約40~50kmだ。

オープン・ユニバーシティ(英国ミルトンキーンズ)の惑星科学者Julia Semprichによると、地殻が2層の場合、初期の火星には水が多かったとみられ、生命が生存可能な環境だった可能性があるという。一方、3層の場合は、火星の地球化学的モデル3や火星由来の隕石の研究結果とも合うという。インサイト計画は今後、火星の核とマントルの情報を明らかにする予定だ。

インサイトのもう1つの大きな科学的目標は、熱流量計を使って火星の地中の熱流を測定することだ。その掘削部分は「モグラ」と呼ばれ、火星の地下5mに潜り込む予定だった。しかし、モグラは地表から数cmの深さまでしか入ることができず、作業は難航している(訳註:2021年1月、再度の試みが不成功に終わった後、地中への潜り込み作業を終えることが発表された)。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Knapmeyer-Endrun, B. & Kawamura, T. Nature Commun. 11, 1451 (2020).
  2. Banerdt, W. B. et al. Nature Geosci. 13, 183-189 (2020).
  3. Semprich, J. & Filiberto, J. Meteorit. Planet. Sci. 55, 1600-1614 (2020).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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