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新設のパリ・サクレー大学、ランキングで14位に

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210205

原文:Nature (2020-10-27) | doi: 10.1038/d41586-020-03004-x | How France overcame the odds to build a research mega-campus

Barbara Casassus

フランスの既存の研究機関を統合して作られたマンモス大学、パリ・サクレー大学は2020年、世界の大学ランキングのトップ20に入った。

2020年9月、フランスのジャン・カステックス首相(中央)らがパリ・サクレー大学の研究室を訪れた。 | 拡大する

MARTIN BUREAU/AFP/GETTY

パリ・サクレー大学は、フランスの14の大学や研究機関を合併させ、国策で作られたマンモス大学だ。この大学が、2020年の世界の大学ランキングで14位に入った。しかし研究者らは、こうしたやり方が科学研究を進める上で成功だったかを判断するにはまだ早いと見ている。

パリ・サクレー大学は、パリの南西約30kmにある。その設立計画は、2010年9月にニコラ・サルコジ仏大統領(当時)が発表したビジョンに基づいている。フランスが長く下位に甘んじていた国際的な大学ランキングで、上位に入る一流の科学研究大学を作ることが狙いだった。

新大学は、既にいくつかの公的研究所と民間研究所が存在していた、パリ近郊のサクレー台地とその周辺に作られることになった。計画立案者は、この場所が米国カリフォルニア州のシリコンバレーのような技術革新の中心地になり、いつの日かフランスのグーグルが誕生することを願った。

この大学をどのようにして作るかについては何年も議論が続き、設立までに10年を要した。結局、パリ・サクレー大学は、パリ第11大学(パリ南大学)を中心に14の大学や高等教育機関、研究機関を合併させて2020年に正式に発足した。建設費などに総額53億ユーロ(約6700億円)の国家予算が投じられ、欧州最大の研究大学の1つになった。

2020年8月、上海交通大学の世界大学学術ランキングは、パリ・サクレー大学を14位にランクインさせた。フランスの大学がこのランキングでトップ20に入ったのは初めてであり、数学部門では1位、物理学部門では9位を獲得した(Nature 2020年11月5日号7ページ参照)。

臨界質量

大学の指導者たちは、大学ランキングを重視してはいない。ランキングは大学が優先すべきことをゆがめ、その真の価値を捉えていない、という批判がある。パリ・サクレー大学の学長Sylvie Retailleauは「ランキングそのものは目標ではなく、私たちの戦略の結果にすぎません」と話す。

フランスの高等教育・研究・技術革新担当大臣Frédérique Vidalは、「大切なのは、フランスの高等教育と研究を世界レベルで促進することです」と話す。多くの研究者は、この大学は本来の目標を達成するための正しい軌道にあるようだと評する。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL;英国)の研究戦略担当責任者を務める鉱物物理学者David Priceは、「臨界質量は重要で、パリ・サクレー大学はそれを達成しました。成功かどうかを言うには早過ぎますが、私は成功すると確信しています」と話す。

パリ・サクレー大学の構造は複雑だ。設立に当たり、20の研究機関に対して1つにまとまるように説得したものの、何年もかかった揚げ句に失敗した。この20の研究機関の中には、大学や、フランスのエリート高等教育機関であるグランゼコールの一部などが含まれている。代わりに2017年、パリ・サクレー大学と、5つの工業学校からなるパリ工科大学(Institut Polytechnique de Paris)という2つのグループに分ける案が浮上した。Retailleauは「完全な合併が達成できなかったことは残念に思いますが、前へ進むための決定がなされたことをうれしく思います」と話す。

その結果、2大学を含むパリ・サクレー研究機関集積地区(サクレー地区)がサクレー台地周辺に作られた。パリ・サクレー大学のウェブサイトによると、同大学の学生数は4万8000人(博士課程は4600人)、研究者は9000人、職員は1万1000人に上る。同大学は約300の研究室(研究所)を持ち、その多くが国立研究機関と共同で運営する「共同研究ユニット」だ。同大学での研究はフランスの研究活動の13%を占めるという。また、サクレー地区にはシンクロトロン「ソレイユ」などの先進的な研究施設があり、約100社の企業と、フランス国立科学研究センター(CNRS;パリ)など、6つのフランスの公的研究機関が支所などを置いている。「大学と国立研究施設の連係は、研究を進める上で強力です」とPriceは話す。

CNRSの所長Antoine Petitは、「この計画は、大学、研究所、工業学校が一緒になって効率的に機能することを示しました。自然科学における学際性を促したのです」と話す。

大研究所

サクレー地区での基礎研究の中心にあるのが、複数の分野にまたがる大研究所群だ。「こうした大研究所は、研究のダイナミズムと科学者間のやり取りを刺激します」とPetitは話す。CNRSの研究者と職員の約10%はサクレー地区で働いている。

最も新しい大研究所は、800人の職員を抱えるイレーヌ・ジョリオ・キュリー研究所(IJCLab)で、5つの研究所が2020年1月に合併して誕生した。この研究所は、パリ・サクレー大学、CNRSなどの共同研究ユニットであり、カバーする分野は、宇宙論から環境物理学まで、物理学の7つの領域にわたる。

2017年10月、パリ・サクレー大学の一部であるオルセー数学研究所などの開所式に臨んだエマニュエル・マクロン仏大統領(右)。パリ近郊のオルセーで。 | 拡大する

Nicolas Briquet/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

しかし、規模を大きくすれば優れた科学研究ができるのか、疑問視する研究者もいる。Louis Fayardは、IJCLabのCNRS所属素粒子物理学者で、以前は合併した研究所の1つ、線形加速器研究所(LAL;オルセー)で働いていた。彼は組織変更に反対だった。彼にとっては研究面での利点はほとんどなく、研究に必要なリソースの損失を恐れたからだった。

Fayardは、「この研究所全体で進める研究プロジェクトはありません。改組は管理の余分な階層を付け加えただけです。この研究所は、どっちつかずにならないように努力し続けなければなりません。大き過ぎて非効率で、かといって大規模な地域インフラに独自に投資できるほど大きくはないのです」と話す。

しかし、欧州原子核共同研究機関(CERN;スイス・ジュネーブ近郊)の素粒子物理学者Oliver Brüningは、LALで働いた経験があり、IJCLabとしてまとまることはLAL単独よりも重みと影響力が大きくなる、と考えている。

細胞統合生物学研究所は、5つの生物学の分野をカバーし、国立研究機関や大学に雇われた700人以上が働く。この研究所もパリ・サクレー大学、CNRSなどの共同研究ユニットだ。所長のFrédéric Boccardは、「サクレー地区のモデルが科学研究にとって成功であるかどうかを判断するには早過ぎます。しかし、非常に有望だと思います」と話す。

次の問題は、投資が続くかという問題だ。サクレー地区の計画立案者でもあった、CNRSの名誉研究ディレクターClaude Chappertは、「私が恐れているのは、この勢いを持続させるだけの資金が続かないのではないかということです」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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